第43話 クラスアップ

 トリエラは10歳になった。

 そしていよいよ、ザクセンの地に向かうことになる。

 現在のトリエラは、年に四回の魔境行きをこなして、レベルも相当に上がっている。

 だがそれよりもやはり肉体的な成長による、純粋な身体能力の強化の方が、戦闘力を上げていた。


 女性の方が第二次成長期が早いというのは、この世界でも同じであるらしい。

 栄養状態がいいということもあるが、トリエラの身長はランにはまだ届かないが、エマやファナには並んでいる。

 まだ順調に成長しているので、帰ってくるころにはクローディスにも、見違えた姿を見せることができるであろう。

 ザクセンに向かうのはトリエラ一人、というはずもない。

 まず里帰りも兼ねて、セリルに付いてきた三人の使用人は、同行することとなる。

 ひょっとしたらこの機会に、トリエラに付ける人間を変えるのかもしれない。

 トリエラ自身としては、慣れた人間が続いてほしいものだが。


 また純粋にトリエラの護衛として、騎士や兵などが300人。

 もっともこれは向こうに向かうまでの話で、あちらでも駐留するのは30人だけである。

 そしてトリエラと同じく、辺境の視察なども目的とした、ローデック家の寄り子の貴族の子弟が10人。

 さらにトリエラが進言していた、平民階級などから選出した、将来の近衛候補。

 それが同じく10人となっている。


 この中でトリエラが親しくなったのは、まずは貴族の子弟である。

 将来の側近とする中でも、特にクローディスが目をかけたものだ。

 そして平民出身の10人の中からは、まず騎士志望のアインとカイル。

 二人を通じて年齢の割に、かなりの巨漢であるバトーとも話すようになっていた。

 ちなみにバトーは、極端な高所恐怖症なため、馬にも乗ることが出来ない。

 なので騎士ではなく、兵士を志望している。

 兵士でも士長などは、それなりに地位も高くなっていく。

 この平民出身の10人に共通しているのは、全員が判定の儀において、戦闘職のクラスに就いていることだ。


 アインは剣士、カイルは戦士、バトーは兵士。

 戦闘力は騎士を、クラスとして選ぶためには、最低限必要なことである。

 特に剣と槍は、ある程度習熟していなくてはいけない。

 実戦のみならず模擬戦でも、およそ使われるのは剣か槍なのだ。

 カイルは中でも槍を得意としている。




 他にも戦闘職に就いている平民出身の子供たちは、全員が10歳以上ではある。

 ただその中で、特に珍しい戦闘系クラスはいない。

 ほぼ全員が戦士・兵士であり、剣士はアインのみ。

 そして狩人が二人といった按配である。


 貴族の子弟の中には、魔術士が一人いる。

 だがあとはおおよそ一般職や学術職と呼ばれるクラスに就いている。

 ただ戦闘職の中でも、騎兵クラスに就いている、騎士階級出身の者もいる。

 将来的にはクラスではなく立場としての騎士となって、トリエラを支えていく予定であるのだ。

 当然のことながら、クレインはお留守番である。

 トリエラに万が一のことがあった場合、クレインがつなぎの当主となる可能性は高いのだから。


 20人は留学生に近いが、同時に一年を通じて鍛えよう、という思惑もあるのだ。

 そのためあまりに体力がなさそうな人間は、選ばれていない。 

 トリエラは馬車での移動となったが、実はこの数年の間に、乗馬の技術を学んでいる。

 もっとも乗馬服に着替えなければ、貴族のお嬢様が乗れるはずもない。

 それに単純に移動するならば、おそらくレベルを上げて自分で走るほうが、速くはなるだろう。

 もちろん荷物を運ぶことなどにおいては、馬を利用することは充分に想定することだが。




 そんなトリエラは、現在のレベルが20となっている。

 10歳でレベル20というのは、ちょっと信じられない早さである。

 クローディスやエマ、ランにさえ秘密にしているトリエラだが、レベル20というのは一つの区切りではあるのだ。

 それはクラスによるスキル獲得が、上級職では20個までしかないというからだ。


 初級職の戦士などでは、レベル10までは普通、レベルアップごとにスキルが増えていく。

 もっともあまり向いていない人間は、8ぐらいで止まることもあるが。

 その場合はクラスチェンジ、もしくはクラスアップをして、他のクラスにならなければいけない。

 上級職のレベルアップで自動でスキルを獲得するのは20まで。

 これは現実から確認されている、間違いのない事実だ。

 もちろん他の技術の研鑽によって、新たなスキルを獲得することはあるが。


 本当ならクラス変更というのは、神殿において行うものである。

 クラスというのが神の人間に与えた、加護の一つであると考えられるからだ。

 しかしトリエラは、それが嘘であると知っている。

 クラスを変更するのは、ただの魔法の一つであり、トリエラもそれは使えるようになっている。


 彼女が悩んでいるのは、次のクラスをどうするかということだ。

 魔法戦士としてレベルが、20まで上がってしまった。

 しかしここまで獲得したスキルは、戦闘全般に関するものか、魔法に関するものが大半。

 接近戦用のクラスでありながら、クラス初期に備わるものを除いては、体力消費軽減と敏捷強化の後は、三つしか近接戦専用スキルを獲得していない。

 もちろんそれは、有用なものではあったのだが。


 おそらくレベル上げにおいて、遠距離攻撃をすることが多かったからであろう。

 公爵家の令嬢を、前に出すのは危険だと、そうせざるをえなかったのだ。

 なので次は、近接戦のクラスを選びたい。

 戦鬼か剣豪といったところがいいかな、と思っていたトリエラであるが、レベルが20に上がったときに、さらに選択できるクラスが増えていた。

「うん、これに決めた」

 そしてトリエラが選んだクラス。

 それは剣豪のさらに上位のクラスである、剣聖であったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る