前世では絶望しかなかった帝国皇子は、今度こそ自由に生きたい

きわみん

帝国編

前世

 天井に縄を括りつけ、輪っかとなる部分を下に吊り下げる。

 椅子の上に立って輪っかに首をかけた。


 首吊り自殺。

 TVでいじめられていた中高生、パワハラに疲れたサラリーマンが逃げ場をなくして自殺するニュースはよく見てきた。


 でも、まさか俺が自殺する事になるなんて、思ってもいなかったな……。


 これまでの人生の軌跡が脳裏に浮かぶ。

 灰色の人生だった。


 高校の時にいじめられ、不登校になっていた俺はいわゆる大学デビューを果たした。

 

 髪のセットの仕方も勉強し、服装にも気を使うようにした。

 だが、決してイキって失敗することがないように。


 結果としては、成功だった。

 普通に友達が出来て、サークルも楽しく通い、毎日が充実していたのだ。あの日までは。


 その日、俺はサークルの友達と先輩たちと飲んでいた。なんてことない日常が急変したのは、憧れの先輩に誘われたからだ。


 酒で酔っていたり、憧れだったり、そういった物が判断力を鈍らせていたのだろう。俺は先輩とヤってしまった。しかも、避妊もせずに。


 それだけなら若気の至り、で済んだのかもしれない。だが、そうはならなかった。二つ、俺にとって都合の悪い要素があったのだ。


 一つは先輩が妊娠してしまったことだ。大学生で責任を取る、となると自由に遊んだり出来なくなるし、確かに残念ではある。


 でも、別にこれだけなら俺が我慢して彼女と子供を支えていけばいい話だ。当時は先輩も俺も互いに悪くは思ってないし、互いに支えていこう、なんて甘いことを考えていた。


 最悪なのはこの後だ。彼女の性格が腐りきっていたのだ。

 

 大学時代はなりを潜めていた彼女の本性は、俺が就職してから顕になった。


 毎月の給料をまるで我が物顔のように使い果たし、子育てもロクにしない。一緒に働く訳でもなければ、食事などの家事をする訳でもない。


 憧れの先輩もう、そこにはいなかった。


 見かねた俺が離婚を言い出したタイミングで、俺は彼女に嵌められた。殺人の容疑をかけられたのだ。


 意味がわからなかった。突然警察が家にやってきて、俺が連続殺人犯だという証拠をつらつらと並べていく。


 証拠を提供したのは嫁らしい。嘘を平然のようにつく彼女も、その嘘を信じきっている警察も俺の敵だった。


 トントン拍子に話が進んでいき、俺は無期懲役を言い渡された。ここで、俺の人生が詰んでしまった。俺の中の何かがポキッと折れてしまったのだ。



 これが俺の人生。

 絶望だけが残った、どうしようもない人生だ。


 もし来世があるのだとしたら、どうか自由に暮らしたい。


 俺にもっと物事に動じない冷静さが、的確な判断力が、そして俺自身を守る力があったならば、今世もこんな悲惨な結末にはならなかっただろう。


 だから、努力するのだ。束縛されず、自分の生きたいように生きるために。

 

 そう誓って俺は、自身を支えていた椅子を蹴り飛ばした。

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