第89話 サポナ村に戻る
王の前に出ていくことと引き換えに、全てを話す覚悟を決めた。
どちらにせよお二人をシャーノまで送り届けるには、誰かの協力が必要だ。ジュビエールであれば、何の心配もない。
「私がこの戦までどこで何をしていたかなど、わかるはずがない。私は、シャーノの騎士だ」
「シ、シャーノ?! そしたら、まさか」
「あぁ。こちらのフェリス様も、話に出てきているクリュスエント様もシャーノの方だ」
フェリスの体が硬くなるのがわかった。
本当のことを打ち明けて、どうなるかなど私にもわからない。もしかしたら、本気でジュビエールとやり合わないとならないかもしれない。
「シャーノの方がコーゼの城の……客室に? って、客室にいる本当の王妃って……」
「ククッ。王妃は捕らえたではないか」
「あぁ。だが、王妃が言っていた、客室にいる……」
「そこまでわかって、黙ってないとは言わせぬ。誰かに漏らすようなことがあればその時は、二度と口をきけぬようにしてやろう」
「こ、怖いって。そんなこと言ってないだろう? その、お二人を連れ出して、どうする気だ?」
「シャーノにお連れする。クリュスエント様はコーゼでとても口にはできぬような扱いをされてきた。そのうえであの者と一緒に処罰されるなど、我慢できぬ」
「アイシュタルトも一緒に帰るのか?」
「私は帰れぬ。既に国を捨てた身。そのような勝手は許されるはずがない」
「アイシュタルト様は一緒ではないのですか?!」
「フェリス様。申し訳ございません。私は国境を越えることはできません。シャーノの国境門近くまでお送り致します。戦の中、コーゼから逃げてきたと、国境にいるカミュートの兵からシャーノへと取り次いでもらえば良いはずです。シャーノの兵がお二人の姿を見れば、城へと報告が入りますから」
王の許可さえ出れば、お二人はシャーノに戻れる。姫のご様子を見れば、逃げ出したことを咎める者などおらぬ。
そうすれば、お二人は今度こそシャーノで幸せに暮らせるはずだ。
「アイシュタルトはお二人を国境門へ送り届ければ、カミュートの城へ来るのだな?」
「あぁ。全てが終われば、行く」
「それならば、協力する。私は其方がカミュートの騎士団に必要だと思っているだけだ。それ以外のことは、些細なことでしかない」
私がカミュートの騎士団。再びその場所に所属することになるのか。それを了承すれば、ジュビエールの協力を得られる。姫は無事にシャーノに戻れるだろうな。
姫との距離も再び離れる。
ルーイやステフとも離れることになるな。
それでも、姫がシャーノに帰れるのであれば、全て覚悟の上だ。
「騎士団に所属できるかどうかはわからぬが、其方と共に行く。約束しよう」
「それならば、私も最大限の協力を約束する」
ジュビエールとの話に片がつけば、後はサポナ村を目指すだけだ。
姫との約束を果たすことができる。
だがジュビエールのこと、旅が終わること、どう説明しようか。あの二人はどう思うか。
姫をシャーノの送り届ければ、再び旅に戻るつもりであった。戻れるはずだった。
姫との距離が離れても、また旅に出られれば平気でいられると思っていた。
それすらも、叶わぬとは。やはり私の願いは叶わぬか。
いや、姫に会えたではないか。ご無事を確かめることができたではないか。あの男の元から救い出すことができたではないか。
私の人生で、最も叶えたい願いが叶った。それで充分だ。
あの若い騎士たちを鍛え直すのも愉快かもしれぬ。シャーノとの違いを感じることができるかもしれないな。
少しは楽しみを見出すことができるだろうか。
二人を前にして、共にいたいと気付かれぬように、別れることができるだろうか。
最後ぐらいばれぬように、別れなければ。
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