第71話 姫を探して
「な、なんでございましょうか」
「この城に、金髪の姫はおらぬか?」
私は、クルトから降りると庭師に近づき、そう尋ねた。
「は、はい?」
「そう、怯えてくれるな。聞きたいことがあるだけだ。金髪の姫はおらぬか?」
「きん、ぱつでございますか?」
「あぁ。その姫を探しておる。リーベガルド王へと嫁いだと聞いたのだが」
「リーベガルド様の奥様は黒髪でございます」
ここでも黒髪の姫か……だが、彼女は側室なのだろう? どうなっておる?
「黒髪の姫は側室だと聞いた。正室は?」
「そのような方は存じ上げません」
「な! そ、それでは、城の中に詳しい者はおらぬか?」
「下働きのナージャなら、色々出入りしておりますので、詳しいかと」
城内の庭師ですら姫のことを知らぬとは。この城で何が起きているのだ?
「ナージャを今呼んでもらえるだろうか?」
「はぁ。呼んでまいります」
庭師はそう返事をすると、城の裏側の小さな扉から中へ入って行った。
あれほど花が好きであった姫が、庭に来ぬはずがない。コーゼの王族は庭を愛でることはないのか?
いや、それでも黒髪の姫のことは知っていたではないか。姫のことは、何故こんなにも知られていない?
「お待たせ致しました」
姫のことを思って考え込んでいると、庭師がナージャを連れて戻ってきた。
「わ、私が、ナ、ナージャでございます」
突然敵の兵士の前に連れて来られたナージャが、恐怖で身を震わせる気持ちはよくわかる。
「ふぅ。そう怯えなくてもよい。一つ尋ねたいことがあるだけだ」
私の目の前にナージャが跪いて頭を下げた。
「なんで、ございますか」
「この城に、金髪の姫はおるか?」
「金髪の……姫?」
「あぁ。心当たりはないか?」
ナージャは頭の中を巡らせて、金髪の姫を思い浮かべているようだ。
「あ」
「あるのか?!」
頭の中に誰かが思い浮かんだような顔をはっきりと見せた。
「いえ。あの、見間違いかもしれません」
「何だって良い! その方のことを教えてくれ!」
「は、はい」
私に詰め寄られて、ナージャがのけぞりながら返事をした。
「すまない。頼む。教えて欲しい」
私はナージャに深く頭を下げた。姫に繋がる可能性のあることならば、何だって良い。
「あ、あの……」
ナージャは人に頭を下げられることに慣れていない様で、私の行動に狼狽えているのがわかる。
だが、今この場で私がすがれる相手は彼女だけだ。私の頭でいいのならば、いくらでも下げよう。
「客室にいらっしゃる方が……金髪だったように思います」
「客室?!」
「わ、私もはっきりと見たわけではありません。ただ、一年半ほど前から客室にいらっしゃる方に、食事を運ばせていただいたことがあります。その時、奥に見えた方が金髪だったかと」
ナージャのおぼろげな記憶の中にいる金髪の姫が、クリュスエント様?
それにしても、何故客室に?
「その方は、今でも客室にいらっしゃるのか?」
「お移りになられたとは聞いてません。多分、まだいらっしゃるはず……」
「何故客室にいらっしゃるのかを知っているか?」
「い、いえ! 存じ上げません!」
下働きの者が、そのようなことまで知るはずもないか。
「ですが、リーベガルド様の……その、夜のお相手ではないかと。皆がそう噂しております」
クリュスエント様がそのようなお立場であると! なんたる侮辱。まさかそのような待遇を受けてはおられぬよな。
城内の者の話を聞いて、これまで以上に姫のことが心配でたまらなくなる。
「ナージャ。その方のいる客室は、どこになる?」
「え、えっと……」
ナージャが城を見上げて、教えてくれようとする。
「客室は、ここから見ると、あぁ。あの辺りです。2階の一番端。その方のおられる部屋以外は空いているので、すぐにわかると思います」
あそこに姫がいらっしゃる? もうすぐ、お会いできる?
私もナージャのように城を見上げて、グッと唇を噛み締めた。
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