第64話 別れのとき
翌日は見事な冬空だった。今にも雪が舞いそうな、どんよりとした曇り空。
兵士希望者は装備を整えて期日までに城の中庭へと集まる。その後、進軍が始まるまでは都内、もしくは城内に留まりその時を待つ。
私は翌日も、ルーイとの間に気まずい空気を残したまま、城の中庭へと向かった。
宿に残ってはさらに宿代がかかるだけだ。私は今日、ルーイやステフと別れ、そのまま城内に留まる予定である。もちろん二人もそれを知っていて、別れのために一緒に城の中庭へと来ているはずだが、やはりいつもの様には戻れない。
何故だ。どうして、このようなことになってしまった。
ルーイとはこれまで仲良くやってきたはずだった。カミュートでできた初めての、いや私の人生で初めての友人のつもりでいた。
「ルーイ、ステフ、私はそろそろ向かう。これまで、世話になったな」
「僕こそ! お世話になりました! 必ず、お会いできるように、僕も努力します!」
「ステフ。私も必ずカミュートに戻る。何年たったとしても」
「はい! お待ちしてます!」
ステフとは無事に別れを言い合うことができる。
私とステフの会話が終わっても、ルーイは何も話そうとはしない。
「それでは、ルーイ。また」
私の口から出てきた言葉はそれだけであった。
これ以上話をして、また言い合いになるのを避けたかったのかもしれぬ。
「……俺も、もうすぐ都を出る」
「そ、そうか」
旅の続きをするというのか、ルーイは色々な場所を見て回りたいと、そう話していたのを思い出す。
ここに戻ってきても、もういないのだな。
私にルーイを引き止めることはできない。旅から先に離脱するのは、私なのだから。
「うん。アイシュタルトも今からコーゼに向かうたろ? だから……」
「どうした?」
言葉を途中で止めてしまったルーイの、先を促す。
「俺も、国境の近くに行こうと思ってさ」
「国境?」
「あぁ。戦が終わるまで、俺サポナ村にいるから。コーゼからなら、国境越えてすぐだろ? 戦の最中も何かあれば言いにこいよ。クラムに乗れば、あっという間なんだから」
「わ、私のためか?」
「俺、何ができるかってずっと考えててさ。何にも思いつかねぇの。ステフはちゃんとクラムを用意して、いろんな情報集めてきて……それなのに、俺は何にもできないから」
「そのようなこと……」
ルーイが何もできないなどと、思ったこともない。これまでだってどれだけ世話になったかわからぬ。
ルーイがいなければ、ここまで来ることも出来なかった。姫に会いに行くと、決断することも出来なかった。
「だからさ、もし本当に姫さまを連れてきたとしても、匿う場所があるからな。狭いし、汚ねぇけど、野宿よりはマシだろ?」
「連れっ……」
「昨日、あんなこと言って、無責任だったなぁって思ってさ。連れてきたってまさか宿に行くわけにもいかねぇし、目立つことできないのに。だけどさ、サポナなら目立たないだろ? 隠れていられる。戦が終わって、コーゼの行く末を見届けるまで」
昨日、私が怒鳴った理由を、そうくみ取ったのか。
私はもっと短絡的な理由で怒鳴りつけたというのに。自分の考えが、あまりにも馬鹿げていて、姫に対して失礼だと、それだけであったのに。
ルーイはやはり私よりも深く、そして先まで考えを巡らせている。
「私は……」
「俺の無責任さに頭にきたんだろ? 悪かった」
「いや……」
「サポナならどう? 俺、頭悪いなりに考えたんだ。姫さま奪い去って……いや、助け出してこいよ」
助け出して? これまで、奪い去ってくるなど、私の勝手な行為だとばかり思っていた。
「たすけ?」
「うん。カミュートがこのままコーゼを滅ぼすんじゃ、コーゼの王はまず助からない。王妃だって……姫さまがコーゼの王と一緒にっていうなら仕方ねぇけど、そうじゃないなら助け出してこい!」
ルーイにとっては敵国の、しかも親の仇の国の王妃だ。それを助けてこいと言うのか。
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