第55話 コーゼの事情
「商人たちにそのような真似をするとは。コーゼの王は何を考えているのだ?」
「それなんですが、もう王はほとんど動けないほどに弱っているそうです。実権は王子であるリーベガルド様に移っていると聞きました」
「リーベガルド?」
「うん。コーゼの王子。次期国王だよ」
リーベガルド、姫の結婚相手か。姫が嫁いだ時には気にも留めなかった名前だ。
「そして……」
ステフが言いづらそうに、一呼吸おいてから、これまで以上に声を細めて話を続ける。
「カミュートはコーゼを滅ぼすつもりのようです」
「ほろ?!」
「しぃ!」
驚きのあまり大きな声をたてようとしたルーイの口を手でふさいだステフは、そのままさらに話を進めていく。
「兄さん。静かに。誰が聞いてるかわからないんだ」
コクコクと、ステフは手の下で首を縦に振るルーイを見ても、そのまま話し続けようとする。
「んー!」
「ステフ、それは苦しいのではないか?」
「え? あ、ごめん」
私の言葉にようやくステフが手を離すと、ルーイが苦しさに顔を真っ赤にしていた。
「ステフ! 俺が死ぬ」
「ごめんって。あんなに大きな声を出すんだから、仕方ないよ」
「それで? 話を続けよう」
「はい。コーゼはリーベガルド王子の下で、あまり上手く回っていないそうです。生活できない国民があふれてきており、その困窮をどうにかしようと、カミュートへ侵攻していたようです」
「他国の資源を当てにしたか」
「えぇ。その様子を見て、カミュートの王は攻め入ることを決めたと」
コーゼの国民を守るためだろうか。
「じゃあ、今すぐにでも攻めていくのか?」
「多分、狙ってる時は一緒だよ。コーゼの現王が逝去された後。リーベガルド様が王になった後だ」
コーゼからの攻撃を待って、仕掛ける気か。
「三国の王たちは昔馴染みだからな。さすがに攻め入るのはその後が良いのかもしれぬ」
「そうなのか?!」
「あぁ。三国はそれなりに仲良くやってきたはずだ。だからこそ商人の移動も認められている。もちろん多少のいざこざはあっただろうが、ここ数年が酷いだけだ」
「ここ数年…」
「リーベガルドが戦を焚きつけているだろ? 現王もそれを止められない」
「この話を知ってもまだ、アイシュタルトは歩兵で戦に参加するつもりですか?」
「どういう……」
「カミュートはコーゼを滅ぼしに行くんだろ? コーゼの都まで乗り込んで行くはずだ。馬に乗って、走って行かなくていいの?」
シュルトに似たあの馬が脳裏に浮かぶ。あの馬に乗って走って行ければ、騎士としての仕事を全うできるだろうか。姫の下へ何よりも早くたどり着けるだろうか。
「だが、馬はどうしても手間がかかるであろう?」
ステフの話を聞いて、ルーイの考えを聞いて、シャーノにいた時のように馬を走らせることができればと、そう考える自分がいる。
戦力として、歩兵の何倍もの力になることができるであろう。その自信すら、確かに私の中に存在する。
私の懸念はたった一つ。馬を手に入れてしまっては、これまでのようにはいられない。必ず、馬を預ける場所が必要になるのだ。
「アイシュタルト、明日もう一度、あの馬に会いに行きませんか?」
ステフが私にそう提案した。
その顔には、明らかに何かを企んだ顔が浮かんでいた。
何を、考えている? わざとらしくそのような顔を浮かべるステフの思いは、やはり私には読み取ることができない。
「そうだよ! 会いに行こう! 見るだけでも良いだろ?」
ステフと目を合わせた後で、ルーイがそう私を誘う。この兄弟は、一体何を考えている?
「あ、あぁ。それは構わないが」
二人の企みを疑いながらも、ルーイに促されるように、私はステフの提案を受け入れた。
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