第27話 滞在のために必要なもの

「ステフ。この場合、狩るのは私だ」


「アイシュタルトが?! 何故?」


「アイシュタルトなら、獣を狩れるから。そしたら、それを売って、旅の資金にするんだ。俺たちがどこかの店で買い取ってもらうより、直接商人のルートに流したほうが金になるだろう?」


「まぁ、そうだろうね」


「そういうものなのか?」


 買い取り価格に違いがあるということか? 何故だ?


「はい。カミュートでしか手に入れられない獣の肉や皮をシャーノで売るんです。街の買取屋は街の人からそれを買って、旅商人に売ります。買取屋が街の人に支払う金額と、旅商人から受取る金額には当然差がありますから」


「そういうことか」


「だろ? だから、アイシュタルトが狩って、ステフが売る。そうすれば、資金も問題ない」


 ルーイが得意げな顔をして、胸を張っているが、その計画ではルーイの役目はないのではないか?


「それ、兄さんは何やるの?」


 やはりな。ステフが呆れた声を出す。


「俺? 俺は指示役」


「ククッ。ルーイ、そろそろお役御免か?」


「えぇ! 俺お払い箱なの?! 道案内、いるだろう?」


「ステフがいればいいのではないか?」


 目の端でステフが力強く頷いているのが見える。


「本気? もう少し一緒に旅しようぜ。笑うまでって決めたろ?」


「ルーイが勝手にな」


「ひっでぇ。俺だって役に立ってるのになぁ」


 情けない声を出しながら、下を向くルーイを見るのが愉快で仕方ない。


「兄さんが起きたのなら、そろそろ出発しましょう。そうすれば、夕食の時間に食事処で情報が集められます」


「あぁ。ルーイ、行くぞ」


「二人で仲良くなってるし、ずるくねぇ?」


「何を言っているんだ。其方の弟であろう?」


 サポナ村を後にした私たちは街へ向かって歩き出す。途中何頭かの獣に遭遇したが、言葉通りステフが鍛えてあるのがわかる。

 ただ、木の棒ではどうしようもできない。早急にステフに剣を持たせねばなるまい。

 街へたどり着くと、すぐに鍛冶屋を探した。ステフに持たせるのであれば、私のものよりも短く、軽いもの。装飾を最小限にし、扱いやすいもの。鍛冶屋でそれを注文する。


「いつ頃できるだろうか」


「それがなぁ。今は少し時間がかかるんだ」


 鍛冶屋の職人が顔を曇らせながら話始める。


「まだ噂の話だが、コーゼ国が攻めてこようとしているのは知っているか?」


「あぁ。それは事実なのか?」


「さすがに、コーゼが攻めてくるのが事実かどうかは俺にはわからんが、この辺の村や街の鍛冶屋に武器の製作が大量に依頼されているのは事実だ」


「どこからの依頼だ?」


「そりゃあ城だよ。城の兵士様が使うんだろう。それに、この話を聞いたその辺の傭兵達からも注文が入ってるんだ」


 しばらく滞在する予定ではあるが、あまり時間がかかるのであれば、別の街に動くか。国境から遠ざかれば、少しはましかもしれぬ。


「それで、どれぐらいかかるのだ?」


「ひと月はみてもらいたい」


 ひと月、普段の倍の期間か。


「アイシュタルト、どうしますか? 移動します? ここと同じぐらいの街となると、かなり距離があります。」


「城からの依頼ってことは、都の中もこんなもんだろ。次の街に行くよりは、ここで大人しく待っておいた方がよくないか?」


「ふむ。それもそうだな。主人、それでいい。一ヵ月経った頃に取りにくる。作り上げておいてくれるか」


「わかった。そしたら、一ヵ月後。代金は手付けで銀貨を1枚置いていってくれ」


「あぁ」


 この街でひと月、そうなれば必要なものを揃えなくてはならない。私たちは鍛冶屋を後にし、次の店を探す。


「ルーイ、武具屋に行こう。ナイフと剣を一振り、買いに行く」


 ルーイの顔が驚いて固まった。剣を二本もどうするのかと聞きたいようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る