第18話 旅商人の謎

 今日は近くの屋台で買ったもので食事を済ませ、宿でゆっくり休息をとることにした。砂漠を歩いてきたこともあって、そこら中砂だらけだ。

 

「アイシュタルト。さっき言ってた商人って誰?」


 宿の部屋で落ち着いたころ、ルーイが寝台を椅子がわりに腰掛けて、私に話しかけてきた。どうやら、先ほどの商人が気になっているらしい。


「名前か?」


「うん。知ってる?」


「名前……そういえば聞いてなかったな」


「え? 名前も知らない奴と国境通ったの?」


「うむ。護衛として雇ってもらった……いや私が雇ったのか」


「護衛として? 商人を?」


「ククッ。違う。さすがに商人を護衛で雇うことはない」


「というか、アイシュタルトにはいらないだろ?」


「それもそうだ」


「それで? 結局どういうこと?」


 ルーイがここまで他人を気にするのは珍しい。商人が気になるのか。シャーノから来たことだろうか。


「国境を通してくれたら、金貨一枚を払うと言っただけだ。護衛のふりをして通してもらって、別れ際に金貨を渡した。だから、雇ったのは私だ」


「金貨?!」


「あぁ。どうしても国境を通る必要があった。安いものだ」


「み、道案内は銅貨一枚なのに……」


 ルーイが肩を落としてうなだれる。


「それとは別に食事と宿もだ」


「そうだけどよぉ。金貨……」


「ルーイには払わぬ。ところで、旅商人の何がそれほど気になるのだ?」


 体中の砂を払い落として、私も寝台に腰を下ろす。


「いや。シャーノから来た旅商人が、この街にいるのって珍しいなって」


「何故だ? 誰もが立ち寄ると言ったではないか」


「うん。そうなんだけどさ。あんな時間に街の中で見たら、この街に一泊するしかないだろう?」


「ふむ」


「なんでこの街で泊まるんだろうなと思っただけ」


「どういうことだ?」


「旅商人はさ、自分たちの宿代をできる限り安くしようとしてるんだ。それで、この街から少し行ったところにもう少し小さい村がある。ここよりも国境門に近いところだ。そこの宿は安いんだよ。というか、この街の宿が高い。旅商人ならそれぐらい知ってる」


「この街で宿泊する必要がある、ということか?」


「そう。コーゼに行く前によるところがあるとか?」


「彼は、コーゼに行く気はなさそうだったが」


「え?!」


「今、カミュートとコーゼの間が少しぎくしゃくしているようだ。それを知っていた。カミュートでの用が終われば、シャーノへ戻るとも言っていたな」


「用……ねぇ。こんな所で何があるんだろうな」


 そう言うとルーイは寝台に体を横たえる。天井を見上げて何か考えることがあるのだろうか。


「アイシュタルト! 明日はこの辺の店で食事をとろう!」


「ど、どうした?」


「さっきの話、ほら、カミュートとコーゼの……。あれの情報を探る。もし、本当に危ない状況なら、こんなところにいない方が良い。もう少し国境から遠く、内部へと進んでいこう」


「あぁ。それは構わぬ」


 ルーイの道に関する嗅覚は確かなものだ。これまでどれだけの間一人で旅をしてきたのだろうか。家族と別れたその時からだろうか。


「ルーイの故郷へは寄っていかないのか?」


「故郷? もう、村もない。どれだけ荒れてるのかもわからない」


「行ったことはないのか?」


「家族と別れてからね。危険な場所から逃げることだけに必死で、危なそうな所へは近づかなかった」


「私とならば、行ってみるのもいいのではないのか?」


 私の希望を叶えて、行く道を考えてくれるルーイに少しばかりの恩返しのつもりであった。


「いいのか?!」


「あ、あぁ。もちろん」


 まさかこれ程までに嬉しそうな顔をしてくれるとは。私がルーイに助けられているように、ルーイの手助けができればよいのだが。

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