Chase the mirage! ――彼方を追え!――
龍一はシムリグから離れ、スマホを開き、メールを確認すれば。ヴァイオレットガールとレインボー・アイリーンから、
信じてるよ!
というメールが来ており。
ありがとう!
と、返信し。
ふう、と一息ついて。
冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して、飲み干して。
「どうしよっかなあ」
落ち着いたと思ったけど、落ち着かない。
「気晴らしにドライブでも行くか」
と、愛車ミライースで、気晴らしのドライブに出かけた。荷重移動など気にせず、本当にきまぐれに愛車を転がすのが楽しかった。
翌月曜日となる。
ケニー・ブレイクのミラージュカーと競う大会予選は。
通過は、タイム順に、Honey Bear、Spiral K、Dragonの、わずか3名だった。
予選の日曜日の24時間、多くのシムレーサーが、予選に、KBカーに挑んだが。その3名を除き、全て敗退、予選落ちだった。
そのことが大会のサイトで発表された。
「шутки в сторону?」(シュトケ シュトラム = マジで?)
一番手、スプリントレース風に言えばポールポジションを獲得したポールシッターのヤーナが我が目を疑ったほどだ。
もちろんあとのふたりも。
「まさか」
「사실?」(サシ? = 本当に?)
と、にわかに信じられない気持ちだった。
確かにKBカーは手強かったし、やっとの思いで勝てて予選通過したものの。通過はわずか3名なのは、いくらなんでも少なすぎるのではないか。
eスポーツの大会の運営として、どうなんだろうと思わないでもなかった。
それについては、主催者と制作会社のコード合同のメールがチームに送られていた。
予選通過おめでとうございます、決勝での健闘を祈ります、から始まるメールには。大会での注意事項のほかに、ケニー・ブレイクのミラージュカーを制作し、これを大会予選に用いた意義も改めて記されていた。
参加者全員予選不通過、それによる批判も覚悟の上で、ケニー・ブレイクの言う、ページをめくる者の出現を信じてのことだった、との旨記されていた。
奇しくも3名は、あのForza E World GPの決勝に進出し、優勝と3位と12位と、順位こそ開きがあるものの完走もしていた。あの大会がいかにハイレベルなものだったかが、批判覚悟で用いられたKBカーによって証明された、とでも言おうか。
「私たちは、ページをめくったのね!」
と、ソキョンは素直に喜んだ。低迷のさなかだけに、この予選通過が復活ののろしのように思われた。
「そこまで言われちゃ、何にも言い返せねえな」
優はメールを読みながら得心しうなずき。ヤーナ起用が当たったことを心底喜び、決勝への期待はいやがうえにも増すのだった。
また、大会参加者には、特典として、KBカーがダウンロードコンテンツとして提供されることも発表された。
批判がまったくないわけではないが、多くの参加者が全てを受け入れ、自ゲーム内でKBカーを追うことを新たな目標としたのだった。
ともあれ、龍一と、フィチとソキョンたちウィングタイガーのメンバーは、それぞれ東京へと向かっていた。
Chase the mirage! ――彼方を追え!―― 終わり
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