New Challenge ――新たな挑戦――
「エゴイスティック……」
「真面目なのはいいけど、勝つためにはライバルを押しのけるエゴイストさも必要よ」
「ああ。押しの強さ、ですか」
「そう」
フィチと優佳はうんうんうなずく。
「走りに迷いが見られるわ。ミスなく無難に走ろうとするばかりじゃだめ。その打開には、エゴイストさがもっといるわ」
「エゴイストですか」
苦笑せざるを得なかった。
「フィチもね!」
うんうんうなずくフィチに鋭い突っ込みが入る。優佳は笑いをかみ殺す。
突っ込まれたフィチも苦笑を禁じ得なかった。
「フィチはキャリアも技量もあるけど、積み重ねに乗るだけじゃだめ。それらを吹き飛ばすくらいの気持ちでいかなきゃ」
「ああ、はい……」
言われてみればと、フィチは忸怩たる気持ちになる。
こうして、ソキョンの厳しい指導でミーティングは終わり。チームメンバーとしての”仕事”も終わった。
「……」
うーんと考えて。龍一はマスクをして部屋を出て、アパートの駐車場の愛車、白いミライースに乗り込んで、発進。
「エゴイストさか……」
確かに自分に足りないものだ、ソキョンはよく見ているものだと感心させられる。
で、それはそれとして、車に乗ったのには理由があった。
気晴らしのドライブ、もあるが。
信号のある交差点にさしかかって、信号は赤なのでブレーキを踏めば、荷重移動でフロントが沈む。
青になって発進すれば、前が浮いて後ろが沈む。
そんな、車の動きを体感し、これをゲームに生かそうと。荷重移動を身体で感じながらミライースを運転していた。
スピードを出すようなことは危険な違法行為なので論外だが、荷重移動の感知なら、普通の運転でもできる。
龍一は荷重移動を感じながら、風まかせにミライースを運転していた。
その一方で、フィチはシムリグから離れて。読書をしていた。
漢詩関連の本だった。
葡萄美酒夜光杯
欲飲琵琶馬上催
酔臥沙場君莫笑
古来征戦幾人回
(美味い葡萄酒を夜光杯にそそぐ
飲もうとすれば、琵琶の音が馬上で鳴り響く
酔って砂漠に倒れ臥しても、君(人々)よ、笑わないでくれ
古来から、いくさに征く者のうち何人戻れただろうか)
君莫笑、君よ笑う莫(なか)れ。
という部分に、フィチは何か感じ入るものがあった。
この漢詩は、王翰(おうかん・687~726)の涼州詞という漢詩であり。辺境の国境の守りに就く兵士の心情を詠んだものだった。
今の世相を思えば、この漢詩が胸に迫る。命を懸けて戦う兵士が、少しばかり酒に酔ったところで、どうして笑ったり責めたりできるだろうか。
フィチも一通り経験があるだけに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます