終末暦を歩む
木林児
序章
序章前編 天変地異
厚い雲に覆われ、かつて青かった空も今では灰色に染められて、太陽の位置すらも輪郭だけ視界に捉える事ができる。
大地の大半は枯れて、緑は高台から見下ろしても、天井の染みを見つけるように疎らで、茶色い空白に微かに残されている程度である。
かつてはこの大地にも、青い空が広がり太陽が照らし、緑が生い茂る空間が広がっていた。
なぜ豊かな自然が失われたのか、なぜ大地を照らす太陽は閉ざされたのか、その答えは単純な事だ。
自然災害、つまり大地震、津波、大噴火、そして嵐、それらがほぼ同時期に、そして断続的に世界中で猛威を振るったのだ。
本来なら限りなく無に等しい確率で起こる現象、いわゆる『天変地異』
限りなく無に等しい確率も、可能性が0でない限り、いずれ起こりうるという事、そしてその可能性が訪れた結果が、今のこの世界だ。
かつての自然は奪われ、生物や植物が生きていくのに適した環境は失われ、人が長い歴史の中で積み重ねた文明の痕跡も崩壊し、元から大地に存在していた山や崖の一部のように、ある意味自然な形状で散らかっている。
急激な環境の変化、それについていけない弱い生命力の命が次々に失われていく。
種族として、地上を支配していた人間たちも数を減らしていく。過酷な環境に耐えかねて自ら命を絶つ者、愛する人の為、少ない食料を差し出し餓死していく者、奪い合い殺し合う者。
(このままでは世界が終わってしまう)そんな危機感が漂うなか世界中の学者、専門家が集結し、世界の終わりの打開策を話しあった。
しかし、古代から自然災害の前では、人の力はあまりにも無力である。その上、環境を破壊してきた人の知恵と文明の力で、今さら環境を再生しようなどというのは、容易な事ではない。
人の知恵と力で環境を再生できない。そう結論付けた、高い知能を持った者たちが導き出した答え、それは(この環境に適応できる生命体への進化だ)
過酷な環境を変えられない。それならば、環境に適応できるように人が変わればいい。無論、簡単な話しではない、だが遺伝子操作などの技術を確立した人類の知恵による実績から、その可能性に賭けようというのだ。
そして始められた研究、動物や昆虫を用いた実験、積み重ねた失敗作の山、トライ&エラーを繰り返しながらも研究と実験は完成に少しづつ近づいていき、ついに無謀に思われた世界の終わりへの打開策は、完成された。
変わり果てた過酷な環境に適応できる肉体をもつ生命体、いや、どんな環境にも適応できる身体に常に進化を続け、必要な機能を身に付け、不要な機能を排除していく生命体、世界を終わらせないため、世界が一つになり造りだした、進化した人間それが、
これで世界が救われる、環境に適応し新たな文明を築いていける、そんな希望を見出しながら人間を次々と進人種へと進化させていった、しかし、人間たちは気づいていなかった、進化を続ける肉体、新たな機能を身に付け、不要と判断した機能を排除するその生命体の身体以外が、人間のままだと、心と精神が進化に追いついていけないと。
盲点だったのだろう、世界の終わりの危機感が焦らせ、見落としていたのだろう。人の心と精神の強さの不揃いさに、価値観の違いに目を向ける余裕がなかったのだ。幼い子供に、凶器を持たせるが如き自分たちの行いに、気付くのが遅かったのだ。
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