41、孤独とは

「エルさん、行きましょう!」


 彼女が笑顔で僕を連れ出した。あんなことを告げたのに、まるで何もなかったかのように。


「マル、急がなくてもいいよ」


 振り返った彼女は悲しそうな表情を浮かべている。しかし、すぐにニコニコする。


「マル、エルさんのシチュー、また食べたいです。お腹いっぱい!」


「でも君は食べる必要なんて……」


「食べたいんです」


 彼女は僕をまっすぐ見つめていた。そして、もう一度言った。


「食べたいんです」


「分かった。フードプリンターで……」


 彼女が引き連れているキャリアーには、食物印刷機が搭載されている。


「マルは野菜工場に行きたいです。エルさんはひとりじゃないです。ナスもトマトも、ニンジンもブロッコリーも、アルだっています」


 彼女はハルジオンと話をしていた。どれも生物には違いない。


「マルも……、人間でいたい」


 そう言った彼女の頬を涙が流れ落ちた気がして、僕は閃光のような衝撃の中で立ち尽くした。

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