第5話「小さな胸の鼓動」
王都中央に位置している大聖堂から少し離れた、奥まった場所に私の家は建っている。うっそうとしていて日当たりが悪いので、近くに民家はない。
部屋も一つで風呂もついていないけれど、住めば意外と快適だ。きっと私には、長屋は向いていないはずだから。
「どうしましょう。何か休めるような場所は…」
馬車を降りた私は急いで部屋に入ると、テーブルの上にあったバスケットを手繰り寄せる。そこに、うちにある中で一番手触りの良いタオルを重ねて敷く。
そして修道服のたわみをはらりと捲ると、そっとその子を掌で包んだ。
「ほら。ここが今日の貴方のベッドよ。少し狭いかもしれないけれど許してね」
バスケットの中にゆっくりとその子の身を横たえると、私は胸に手を当て自身を淡い光で包んだ。
今日も幾度となく繰り返してきたこの行為。だけど今が一番気持ちが昂っている気がする。
その子の心臓にそっと指を当てると、とくとくと反応がある。弱っているように見えるけれど、意外と力強い心音だ。
「大丈夫よ。今すぐ助けるから」
ふうっと息を吐き、目を閉じる。指先に神経を集中すると、一瞬全身が粟立つような感覚に支配される。
淡い光が黄金色に輝き、簡素な部屋が昼間のように明るく照らされた。
それも束の間、私の身体から力が抜ける。
再び目を開けると、心臓横の深い傷はすっかり消え去っていた。
未だに意識はないようだけれど、取り敢えずこれで死ぬことはないだろう。
「それにしても、綺麗な子」
バスケットの中で目を閉じて眠る、小さな黄金色の小鳥。というよりもこの子は…
(ううん、関係ないわ。私の意思で助けたんだもの)
先程よりもずっと温もりを取り戻したその身体を指でそっと撫で、私は静かに微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます