アルカナバトラー

@takenomatu

第1話 初めてのアルカナ

 アルカナカード。それは今現在、この国で流行っている有名なカードゲームである。


 アルカナカードのプレイヤーは『アルカナバトラー』と呼ばれ、大々的に開かれる大会には子どもから大人まで様々な年代の人が参加する程に人気だ。



 このカードゲームには魔物カードや道具カードの他に、『アルカナ』と呼ばれる一発逆転の切り札があるのが特徴で、このゲームの要であるアルカナカードを求めてカードを買い漁るアルカナバトラーも少なくない。



 そしてこの片田舎にも、熱い心を持ったアルカナバトラーが1人。



 緑に囲まれた公園、その園内にあるベンチに座る少年は、先程コンビニで購入してきたアルカナカードのパックを一つ一つ丁寧に開けては中身を確認していた。


「おっ!レアだ!」


 見た目からして活発な少年『才語和方さいごわかた』は、パックの1つからキラキラ光るカードを見つけて大喜びしていた。


「良いの出た〜?」


 その少年の隣に座る才語の姉『才語和香里さいごわかり』は、スマホを操作しながら何気なく尋ねた。


「うん!この『全解除』は凄く欲しいやつだったんだよ!でも、1番欲しかった塔のアルカナは出なかったなぁ……」


「へぇ〜……あっ、そうだ。もし輪のカードが余ったら私に1枚くれない?そのカード持ち歩いてると金運上がるって雑誌に書いててさ」


「ごめん、運命の輪のアルカナはどれも最大で3枚しかなくてさ……」


「余ってんじゃん」


「いや、アルカナは山札に3枚まで同じカードを入れられるからさ。まだ余ってないんだよね」


「そうなんだ……」


「余ったら絶対に姉ちゃんにあげるからね!あっ、もう待ち合わせの時間だから行かないと……じゃあね!」


「いってら〜」


 弟の和方は周りのカードをまとめてリュックに入れると、急ぎ足で公園から飛び出していった。和香里は走り去る弟に軽く手を振って見送る。


(さて、私もそろそろ帰るか……)


 和香里はお菓子が入ったビニール袋を持ち、ベンチから立ち上がった。


「……あれ?」


 和香里が座っていたベンチの上にはアルカナカードのパックが1つ落ちていた。十中八九、弟の忘れ物だろう。


(……輪っかのカード、入ってるかな?)


 和香里は周りを確認すると、無言でカードのパックを開けた。


 もし運命の輪のアルカナが入っていたらこっそり懐にしまい、後で残りのカードとカード代の50円を渡せばいい。そんな適当な事を考えながらパックからカードを取り出し、カードの内容を確認した。



(えっ、何これ……真っ白じゃん……)



 アルカナのカードには絵が描かれていなかった。恐らく不良品が出たのだと肩を落としてがっかりしていると……



「……あっ!色が……!」



 和香里が持っている真っ白なカードにシミのようなものが付いたかと思ったら、じわじわと色が広がっていき、やがて綺麗なイラストが描かれたアルカナカードになった。


 カードには、獣耳が生えたワイルドで元気そうな可愛い女子が写っていた。


「何これ凄っ!今のカードゲーム凄い……えーと、ゴコ……『力』……なーんだ、輪っかじゃないのか……」


 和香里は目当てのカードじゃないと分かると再び肩を落とした。とりあえず家に帰る為にカードを再びパックの中に戻そうと丁寧にまとめる。



キャー!!



 ふと、遠くから人の悲鳴が聞こえて来た。更にドシンドシンと何か巨大なものが走り回る妙な音も。その走り回る音は次第に大きくなってくる、どうやら足音の主は公園へと近付いて来ているようだ。


「はぁ!?何あれ!?」


 公園にやって来たのは巨大な獣だった。ゾウと同じくらいの体格を持つ謎の獣は公園のベンチに座る和香里を発見すると、そのままベンチに向かって急接近して来た。突然の出来事に和香里は思わず足がすくみ、ベンチから立ち上がれずにいた。



 獣は大口を開けて和香里に迫る。



「イヤーーーッ!!」



 絶体絶命の大ピンチだ。和香里はアルカナカードを手に手に持ったまま咄嗟に顔を庇った。



 その瞬間




『ワカリ!』




 掲げたアルカナカードが突然発光したかと思ったら、アルカナカードの絵からワイルドな獣耳女子が飛び出してきた。


『ワカリをいじめるなーっ!!』


 獣耳の女子は獣の下顎を思い切り殴りつけた。女子に殴られた獣は思い切り上へと吹き飛んだ。


「うわっ!?やば!!」


『ぶっ飛べ!!』


 獣耳の女子は、吹き飛び仰け反った獣の腹に更に重い一撃を叩き込んだ。



『グェエエエエエ!?!?』



 獣は遠くに生えている大きな木に激突し、やがて形が歪んでそのまま消滅してしまった。


「うそ……倒しちゃった……」


 和香里はただ呆然とし、獣が消えた跡をじっと見つめている。


『ワカリ!ワカリ!』


「うわっ!?」


 カードから飛び出してきた女子は和香里の名を連呼し、尻尾を振りながら周囲をぐるぐる走り始めた。


「ちょ……ちょっと待って!そもそも貴方は誰!?」


『『ゴコ』だ!』


「ゴコ……」


『ワカリが持ってるカードから出て来た!』


 和香里は思わず手に持っているアルカナカードを見つめた。カードには背景以外に何も描かれていない。だが、このカードには先程まで獣耳の女子が描かれていた筈だ。


(まさか、本当に此処から飛び出してきたの……?)


「えっと……ゴコは一体何なの?何が目的で出て来たの?」


『ゴコはワカリの心から生まれた!ワカリ、お前は数あるバトラーの中から選ばれた真のアルカナバトラーだ!』


「いや、意味分かんないって!ちょっと止まって!走り回るのやめて一旦止まってくれない!?」



 和香里は興奮して走り回るアルカナカードのゴコを何とかして宥めた。その後、ゴコに幾つか質問を投げかけ、何故ゴコがこの世に現れたのかを聞き出した。



「えーと……ゴコは私から生まれたアルカナで、そのアルカナを作り出せた私にはアルカナバトルの才能がある……って事?」


『そうだ!一般人はアルカナを生み出せない!ゴコを生み出せたワカリは紛れもなくアルカナバトラーだ!!』


「いや、私……アルカナカードやった事無い……」


『関係無い!』


「関係なく無いって!そもそもこういうのって弟みたいな生粋のゲーマーがなるやつでしょ!?何で無関係の私がこんな大事そうなやつに選ばれちゃったの!?」


『それはワカリが生粋のアルカナバトラーだからだ!!だから今日からワカリはゴコのマスターだ!』


「急にバトラーとかマスターとか言われてもワケ分かんないって!ってか私にそんな力は無いから!」


『だが、ワカリはさっきゴコをカードから出してくれた!』


「いや、あの時は何も分からな……あっ!?」


 此処で和香里は、数分前に遠くから人の悲鳴が聞こえてきた事を思い出した。


『ワカリ、どした?』


「さっきの怪物に襲われて怪我した人がいるかもしれない!」


 和香里はスマホを片手に公園を飛び出し、急いで怪物が走って来た方向を目指して全力疾走した。


『ゴコもついてく!』


 ゴコはとりあえず和香里の後をトコトコと走って追いかけた。



「い、居ない……」



 和香里は公園の周りを走り回って怪物の被害者を探すが、いくら探し回っても怪我人はおろか、壊された建造物すら見つからなかった。警察が来る気配も無ければ、周りの通行人すら普段通りに過ごしている。これは明らかにおかしい。


 しかも周りの一般人はゴコを見ても何も言わない。奇抜な格好に加え、獣耳と尻尾が生えているのに誰もそれを指摘しない。勝手に写真も撮られない。


「ワケ分かんないって……」


 結局怪物の痕跡は何も見つけられなかった和香里は、そのまま公園に戻った。


(あれ?柵……直ってる……?)


 怪物が公園に侵入した際に壊された筈の柵が綺麗に直っていた。というより、公園を出る前から既に直っていたと言った方が正しい。


「何で……?確かに壊れてた筈……」


 和香里は混乱しながらも、怪物がぶつかった木にも近付いた。木も柵と同様、それなりに損傷がある筈なのに幹には傷一つ無かった。


「ん?何これ?」


 木の根元に一枚のカードが落ちている。裏の模様からしてアルカナカードであるのは間違い無かった。とりあえず拾い上げ、表のカードの絵を確認する。


(あっ!この絵の怪物……さっき私を襲ったやつとそっくり!?まさか、このカードもゴコみたいに外に出て来て暴れたとか……?)


 あまりにも現実離れした推理だが、先程目の前で起こった出来事を総合して考えた結果、どうしても『非現実な事が目の前で起こった』としか思えなかった。


(もしかして、ゴコがこの怪物を倒したから『怪物のした事』も全て無かった事になったのでは……?いや、そんなまさか……)


 和香里が呆然とする中、ゴコはテンションが上がったのか再び公園内を全力で走り始めた。その走り回る速度からして、明らかに常人の脚力では無かった。


(カードゲーム素人なのに、とんでもない事に巻き込まれてしまったかもしれない……)


 和香里は自身に起こった事態を飲み込めず、そのまま地面に座り込んでしまった。

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