家族会議

 ヘルステゴドラゴンを無事倒すことができた。紅葉さんがこちらに走ってくるのが見えた。


「赤木君! 無事だったのね、よかった……!」


「ああ。これで帰れるはずだ」


 俺は転移魔方陣に目を向ける。あれに乗って帰りたいと願えば、脱出することができるはずだ。


「そうね。……」


 紅葉さんは喜びつつも、どこか緊張の面持ちをしている。あ、そうか。


「お母さんと話すのが怖いのか?」


「! いえ、その……」


 図星だったようだ。


「他人の家族関係にとやかく言えるほど俺は立派な人間じゃあないが、これだけは言える。お母さんは本気で心配していたよ」


「……」


「多分だけど、お母さんが紅葉さんを厳しく育てたのは、紅葉さんを危険な目に合わせたくなかったからだと思う。もしかして、紅葉さんのお母さんと先代の水の巫女や風の巫女って知り合いだったんじゃあないか?」


「ええ、そうよ」


「二人とも巫女であったが為に光の巫女に狙われて殺された。身近な人がそんな目に会ったら、警戒するのも自然だろう。だから紅葉さんに強くなって欲しかった。だけど、どう導いたらいいのか分からず、叱ることしかできなかった。そしてその結果、紅葉さんは追い込まれ、今回の事態になった。だからあの人は紅葉さんの事を心から心配していたし、自責の念に駆られていた。そして後悔していた、どうすればより良い親子関係を築けていたのだろうかって」


「お母さまが……」


「ああ。だから変に心配するなって。お母さんは紅葉さんの帰りを待ってるから。それと、この機会にしっかり話し合え。お互い生きてる間に家族会議をしておくんだ。さもないと俺みたいになってしまう」


「?」


「俺の場合、改まって話す機会を設ける間もなく、死んでしまったんだよ」


 前世でもそうだし、今世でもだ。


「えっと、その……。ありがと。帰ったら話そうと思う」


「ああ。……俺も一緒にいようか?」


 紅葉さんの助けを求めるような表情を見て、思わず俺はそう言ってしまった。俺のその言葉に紅葉さんは目を見開き驚く。そしてしばし逡巡した後、決心したように言った。


「……。うんん、大丈夫。ちゃんと出来る」


「よし。じゃあ脱出だ」


「ええ。待って、ドロップアイテムは?」


「ああ、もう拾ったぞ。これだ『ごくおうりゅうそう』って名前の槍だ。ノーマルドロップだ」


「なんというか禍々しいオーラが出てるわね……。特殊効果とかあるの?」


「ああ。こいつの主な効果は『攻撃時に闇・光・火の中で相手が一番苦手としている属性を参照して追加ダメージを与える』だったはず。それから切りつけた相手の魔力を奪う効果もある。さらに、確率で呪いの異常状態を付与する効果もあるぞ」


「なるほど、それはなかなかすごい代物ね……。どうするの?」


「俺はいらないし……。売るか」



「陽菜!」

「お母様!」


 迷宮から出ると、紅葉さんのお母さんがそこで待って居た。親子はひしと抱き合って再開を喜んでいた。


「赤木君! お帰り、心配したんだよ!」

「昨日帰ってこなかったから、すごく不安だったんですよ! 赤木君なら大丈夫って思ってましたけど、それでも不安で……!」


 七瀬さんと宮杜さんが抱き着いてきた。二人もここで待っていてくれたのか! 俺は二人を抱きしめ返し、そして心配をかけたことを謝った。


「次からはちゃんと説明してね」

「約束ですよ」


「ああ、そうする」


「それで、何があったの?」

「やはり特殊階層ですか? それとも、裏ボス?」


「えっとだな……。まず何から話せばいいか……」


「私にも教えてもらえるかしら?」


 紅葉さんのお母さんも俺のところに来た。あー、紅葉さんは眠ってしまったみたいだ。


「わかりました。取り敢えず場所を変えませんか? あと、できればシャワーを浴びたいです」



 その後、俺は事細かに今回の出来事を説明した。一緒に寝た事とか、紅葉さんの心の内については話さないでおいたけど。


「この剣、カッコいい!」

「すっごい大きさの魔石ですね!」

「すぐに調査と注意喚起が必要ね」



 その後の調査で、551層への転移魔方陣出現の条件は『24時間以内に、中央の湖にいるディノスクスをソロで100体討伐』であると判明。この事実と共に今回の事件の概要がフォルテメイアの学生全体に発表された。これで、新たな犠牲者を生まずに済むだろう。


 ブラキオの剣や獄王龍槍などの俺が要らないと判断したアイテムについては、政府機関が買い取ってくれる事になった。研究などに利用されるそうだ。



 さて、紅葉さんの話だ。彼女はこの事件の後、家族会議の場を設けたそうだ。立場や来歴にとらわれず、互いの率直な気持ちをぶつけ合ったそうだ。


「赤木君、本当に、本当にありがとうね。助けてくれたことはもちろん、お母さまと改まって話し合うよう説得してくれたり、勇気を与えてくれたり。本当にありがとう」


「感謝されるようなことではないって。本当に」


「もう、あなたってやっぱり謙虚ね。もっと誇ってもいい所よ?」


「あの、お二人とも?」

「なんといいますか、距離が近くないですか?」


 七瀬さんと宮杜さんがジト目で俺を見てきた。うーん、俺も同感!

 前まで「学生なのに浮かれて!」とか「そういうのは不健全よ!」とか言っていたのはなんだったんだってくらいに、紅葉さんは俺のそばにいるようになったのだ。


「私は純粋に彼に一生仕えようと思ってるだけよ。他意はないわ」


「はあ……。まあ、こうなるんじゃないかとは思ってたけど。赤木君、後で暁先輩も交えて会議しようね」

「家族会議ですよ!」



 二人の有無を言わせぬ雰囲気に、俺は「あ、はい」と頷くのだった。




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