ここは551層だ

「赤木君は全属性を得意不得意なく扱えて、その特異性を隠したかった……。実際に目の前で見ない限り、荒唐無稽な話と一蹴しそうね。確かにそんな能力が外部に知られたら大騒ぎよ。特に光の巫女達は放っておかないでしょうね」


「ああ。まあ、そんな風に思って隠し続けたせいで、紅葉さんの心をえぐり続けたんだから、俺の行いは間違っていたのかもな。少なくとも、紅葉さんは信用して、全部話せばよかった。ごめん」


「いえ、謝らないで。私が勝手にあなたに嫉妬していただけなのだから。それよりも、ありがとう。こんな大事なことを話してくれて」


「それは……。いや、互いに謝りあうのは時間の無駄だな。この話はここまでにしよう。それよりも、ここから脱出する方法についてだ」


「ここから脱出って出来るの? って聞きたいけど、あなたの事なら『出来ると判断したから来た』のよね?」


「ああ。だって『助けに来たぞ』って言って、共倒れするような奴はただのヒーロー気取りの馬鹿だろ?」


「そうね。で、具体的にはどうするの? ここって特殊階層よね? 無現迷宮ではまだ見つかっていないと思うけど、他の迷宮では時折見つかるって聞くわ」


 彼女の言っている「特殊階層」とは裏ボスなどの通常ルートから外れた場所や、あるいは逢魔湖近くにあった降宝之巣のような特定条件を満たした時だけ入ることができる場所だと思う。が、ここは違うんだよな~。


「惜しい。詳しくは話せないが、俺の理解ではここは無限迷宮の中の普通の階層だ。ただ、65層の一部ではなく、もっともっと深い階層にまで落ちてしまったみたいだけどな」


「階層を落ちた? あーもしかして31~40の海辺階層で、転移魔方陣を使わずに次の階層に進む抜け道があるみたいな感じ?」


「いかにも。ちなみにだが、ここは551層だ」


「……? ごめんなさい、もう一度言ってくれる?」


「信じられないとは思うが、ここは551層だ」


「はあ……なんでまだ人類が到達できていない階層なのに詳しく知っているのか疑問でしかないけど……教えてはくれないのよね?」


「すまんな。というか、俺でもこれを詳しくは説明できない」


 なんでゲーム世界に類似した世界に転生したのか、俺自身分かっていないからな。


「なるほど。それで、ここから脱出するには30層分進んで、ボスを倒す必要があるって事ね?」


「? なんで30層?」


「あれ、知らないの? 迷宮のボスフロアって200層より深いところでは30層ずつになることが分かっているのよ? それに伴ってパーティーメンバーの制限人数は増えていくわ」


 彼女の言う事は事実だ。100層までは10層ごとにボスがいて、パーティーメンバーの制限は4人以下、101~200層では20層ごとにボスがいてパーティーメンバーの制限は6人以下、200層よりも深いところでは30層ごとにボスがいて、パーティーメンバーの制限は8人以下となる。


「あーうん。確かにそう思うよな。残念というかなんというか、501層より先は50層ずつになるんだ。パーティーメンバーの制限は10人のはず」


「……? Are you serious?」


「ああ。真剣だ」


「はあ……。ここから50層分進むってことよね? それ、何か月かかるんだろ……。食べ物系のドロップアイテムが落ちなかったら確実に餓死するわね。そもそも、倒せるかって問題もあるし……」


「あー、その。そう焦らなくとも、次の転移魔方陣の位置は分かるから、探索にはそんなに時間かからないぞ?」


 紅葉さんは俺にジト目を向けてくる。俺は頭をかきながら気まずそうに眼を逸らした。


「はあ……。それで、脱出にはどれくらいかかると思ってる?」


「敵を全部ガン無視して、ダッシュでボス戦の所まで向かうなら1日でも可能だと思う。だけど、それじゃあボスを倒せないだろうな。つまり」


「雑魚敵を倒して、それで得たドロップアイテムを使ってボスを倒すって事ね?」


「ご明察」


「なるほど。雑魚敵と言っても雑魚とは思えないくらい強そうよね、アレ。それを目的のドロップアイテムが出るまで周回するの?」


「そうしないと俺たち一生ここで生活になるぞ?」


「分かってるけど……はあ」


「先輩から譲ってもらったドロップ率上昇アイテムがあるから、これを使えば少しは楽になるだろう。ってそういえば今は外では真夜中だ。もう少し寝るか?」


「そうなの? 時間感覚がなかったから全然分からなかったわ。うーん、私は今のところ平気っぽいわ。むしろ力がみなぎってるのだけど、あなた何かした?」


「回復魔法とリジェネをかけて、それから魔力を移しただけだが……」


「改めて聞くとすごいわね、そのラインアップ。特に最後の『魔力を移した』って普通拒絶反応が出るのに……。やっぱり赤木君の特異性故なのかしら?」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る