アンキロサウルス

「白亜の森ってあんまり敵がいないね?」


 そうつぶやいたのは七瀬さん。彼女の言う通りで、さっきトリケラトプスと戦ってから少し時間が経つがまだエンカウントしていない。


「だな。一匹一匹に時間がかかる分、エンカウント率は低いんだ」


「なるほどね~」

「じゃあ、頑張れば一匹ともエンカウントせずにボス戦まで行けたりします?」


「あー、それは厳しいんじゃないかな? 恐竜ごとに縄張り的なものがあって、そこに踏み入ったらその恐竜とエンカウントする、みたいになっているらしいぞ。まあ、まだ仮説にすぎないんだけどな」


「なるほど? じゃあ、戦っているときに、別の恐竜ともエンカウントすることはないの?」


「基本的には。ただ、一度アクティブになった恐竜は基本的に追いかけてくるから……」


「下手に逃げて、別の恐竜のエリアに踏み込んじゃったら、二匹から狙われるのね?」


「そういう事」


 と説明しているが、これは教科書に載っている知識。だが、実は恐竜と一度もエンカウントせずに進む順路が存在している。それを使えば裏ボスと戦うことができるが、ここの裏ボスはスルーしてもいいかと思ってる。


「? あの、あそこ! 恐竜じゃないですか?」


「お、本当だ。あれはアンキロサウルスだな」


 アンキロサウルス。背中は硬い鱗で覆われており、肉食恐竜でも簡単にはダメージを与えることができなかったとされている。また、尻尾には重い突起が付いており、これを振り回して敵を攻撃していたとされている。

 そんな特徴を持つアンキロサウルスは、まさに生きた戦車のようである。



「さっきと作戦は一緒?」


「ああ。ただいくら宮杜さんの攻撃でも、あいつの皮膚に貫通ダメージを与えるのは厳しい」


「そんなに硬いんですか?!」


「背中の防御力だけで言うと、600層並みと言っても過言じゃない。弱点はおなかだな。腹側は柔らかいから、そこを狙って攻撃する必要がある。こんな時、暁先輩がいたら心強いんだけど、今回は土魔法なしで戦う必要がある」


「となると……氷の槍を土から生やす魔法、とかですか?」


「え、そんなことできるの? 出来るならそれに越したことはないけど……」


「えーっと。すみません、やってみない事には……」


「そっか。もしできなかった場合は、氷水で奴の体温を奪うって言う作戦を取ろう」


「はい、分かりました!」



 グアアアアアアアア!


「まずはヘイトを集めるぞ!」

「了解! えい、『発砲』!」


 最初の攻撃は七瀬さんの魔銃での攻撃。アンキロサウルスの顔面に当たるも、目には命中しなかった。


「『シールド』からの『魔法剣』っと!」


 尻尾をブルンと振って俺たちを吹き飛ばそうとするが、俺はシールドを使ってその攻撃を阻止しつつ、魔力で生み出した剣で尻尾を切ろうとする。流石に一発で切り落とすことは出来なかったが、それでも傷を負わすことには成功したし、さらに『雪印のブレスレット』の効果で、そこに凍結が付与される。これはアンキロサウルスにとって相当嫌な事のようで、ヘイトが一気に俺に向いた。

 さらに接近し、俺と七瀬さんは奴の腹に攻撃を加える。ザシュ! 腹側が弱点とはいったが、それでもトリケラトプスと同じくらいの防御力はある。一回切ったくらいではあまりダメージは出ていないようだ。


 再び尻尾が振舞わる。俺は高くジャンプして奴の背中に乗ってその攻撃をやり過ごし、七瀬さんはジャンプして尻尾を避けた。また、俺がさっき攻撃した部位に追撃を加えた。


 グアアアア!


 相当嫌がっているようだ奴は暴れに暴れ、俺たちを倒そうと必死になる。

 そして、奴が宮杜さんを警戒しなくなった頃合いを見計らって、宮杜さんは魔法を発動する。


「新技、行きます! 『逆さ氷柱つらら』!」


 ぴしゃり!


 確かに地面から一本の氷の槍が生えたが、その結果は決して良くなかった。アンキロサウルスのおなかに当たるとぽっきり折れてしまい、ダメージはほぼ0。幸か不幸か、威力が弱かったおかげで宮杜さんにヘイトが向くことはなかった。


「すみません、失敗しました!」


「いや、問題ない! おかげで分かったことがある! 宮杜さんのさっきの魔法、アンキロサウルスの真下に水を発生させ、凍結させるってことをやったよな?」


「はい」


「遠くで水を発生させる、って部分がまずいんだと思う。次は事前にアンキロサウルスの真下に水たまりを張っておいて、それを凍らせるように意識してみて!」


 暁先輩の得意技である「地面からとげを出す攻撃」は、敵の真下にある土を変形させる魔法だ。「とげを発生させる」ではなく「地面を変形させる」魔法。こうすることで、魔力消費量を抑えつつ、高い攻撃力を出している。

 という事に、さっきの宮杜さんを見て初めて気が付いた。いやはや、勉強になった。


 そこで、宮杜さんは事前に水をちょこちょこ発射してもらい、アンキロサウルスの体温を奪いつつ、奴の直下に水たまりを作ってもらった。濡らすだけだとそこまでダメージはないので、タゲが宮杜さんに移ることはない。


「少し離れてください! 行きます! 『逆さ氷柱』!」


 バギッ!


 おお! さっきよりもはるかに高威力の攻撃になった! おなかに無数のつららが刺さって、とっても痛そう。


「すごい~! あ、そうだ! 赤木君! 膝カックンを仕掛けよう!」


 七瀬さんがなかなか恐ろしい提案をした。いいね、採用。


「ナイス提案。せーの!!」


 グギャアアア!


 膝裏に衝撃を食らって膝ががくんと折れる。より深く刺さる氷柱。


「ついでにこれを食らえ!」


 背中に飛び乗った俺は奴の顔に向かって走って、その顔面に「ショック」を発動。ふらっとしたかと思えば、アンキロサウルスはスタン状態になった。


「今だ! 総攻撃~!」



 こうして、比較的楽にアンキロサウルスを討伐することができた。

 ドロップアイテムは「アンキロサウルスの革」。加工すれば防弾チョッキになるアイテムだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る