敵情視察
予選を見事勝ち上がった俺達3組。みんなが活躍できた、いい試合だったと思う。まあ、1組の暴走には驚かされたけど……。
先生が買ってきてくれたアイスクリームをみんなで食べて、予選突破を祝った。いやあ、いいねこういう雰囲気。クラスで一丸となって何かに取り組み、それを先生が祝ってくれる。こんな体験、今までになかったから新鮮だ。
というのも、前世の高校は勉強第一の学校だったからなあ、体育祭とかテキトーもいい所だった。みんなそんなに真面目にやらないし、それどころか「体育祭ってグラウンドで勉強する日だよね?」と言って、教科書を読んでいる人がいたくらいだ。ちなみに俺は友人と元素周期表をどこまで覚えれるかチャレンジをしたっけ。
閑話休題。
さて、ちょっとした祝勝会が終わったらその後は自由だ。他クラスの試合を見るのも良し、屋台を見て回るもよし、部屋でダラダラするのも良しだ。ただ、ついさっきの試合で消耗した体力と魔力を回復する為に、一度部屋に戻って休む人が大半を占めるみたい。
結局、アリーナに残る事になったのは、俺と宮杜さんの二人。いい席が無いかぶらぶらしていると、部活の二年生組(暁先輩、桜葉先輩、桃花先輩、薫子先輩、金子先輩)と目があったので、彼女らに混ざる事にした。
「お疲れ赤木君~! 宮杜さんもお疲れ!」
「二人とも、大活躍だったな。あ、何か飲み物を買ってこよう。何がいい?」
「え、そんな。いいんですか?」
「ちょっとした差し入れだ、気にしなくていいぞ。赤木君はやっぱり炭酸か?」
「あー、はい。じゃあ何か美味そうな炭酸をお願いできますか?」
「宮杜さんは? あれ、炭酸、苦手って言ってたっけ?」
「あ、はい。飲めなくはないですけど……。えっと、出来れば普通のジュースを」
「分かった」
「そういえば、先輩方、試合見てたんですね。てっきり明日の備えて休んでいるのかと」
「ん? ああ~、まあ赤木君のクラスが出るんだし、せっかくなら応援しようかなって思って!」
「そうそう。君達三人、そして最近入った神名部さんも第一試合だったからね」
「いやあ、なんというか面白い試合展開だったね!」
「なるほど、そうでしたか。応援、ありがとうございます! おかげさまで予選突破しました」
「それにしても、3組は凄かったね。あの溜め攻撃にはアリーナ全体が『ざわざわ!』ってしてたよ」
「そうなんですね、やっぱりあれって目立つんですね」
ちなみに、アリーナ内からは観客席の声が一切聞こえない仕様になっている。そうしないと、「敵クラスの情報を観客を使って聞く」なんて事が出来てしまうからな。
それにしても、溜め攻撃はやっぱり注目を集めたのかあ。ふっふっふー。ちょっと嬉しい。ちなみに、この技は他のバッファーにも(理論上は)使えると確認済みだから、俺の特異性を疑う人はいないはず。精々「凄いな」止まりのはず。
「ちょっとした混乱になったよ。あ、ネット掲示板に『さっきの技はバフの応用』って書いたけど、良かったんだよね?」
「はい、もちろん。俺の専売特許にするつもりはないですから。むしろ、混乱を抑え頂きありがとうございます」
「いえいえ~。やっぱり一人のバッファーとして、バッファーの待遇には思う所があった感じ?」
「?」
どういうことだろう? バッファーの待遇?
「あー、うんん。なんでもない。そうよね、1年生ならまだ知らないよね」
◆
「あ、第二試合が始まりましたね。どこが勝ち上がって来るか楽しみです」
5組~8組の試合が始まった。この中から一クラスが勝ち上がってくるのだ。今の間に弱点とか知っておきたい。
「お、敵情視察?」
「ですね。って! うっそ、あれって……」
「? うわ、あれって90層辺りにいる『好こーピオン』じゃん!」
「すっご、まさかあんな魔物が出てくるとは思ってなかったよ~」
全身ピンク色のサソリ『好こーピオン』は、その防御力の高さと魅了魔法が厄介な魔物である。ちなみに魅了とはあくまで戦意喪失であって、相手の事を好きになってしまう訳ではない。断じて惚れ薬としては使えないので、期待しないように。
(まあ、このゲーム、年齢制限なかったし)
「うわあ! 尻尾でハートマークを作ってます! 可愛いですね!」
隣で観戦している宮杜さんが驚いている。そうだよな~。一見可愛いよな、あれ。
「けど、あれは攻撃の予備動作だぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、通称『ハートフルビーム』。あと5秒くらいで発射するはず」
「詳しいね、流石赤木君」
「私達も授業ではつい最近習った範囲だよ、あれ」
先輩方が感心の眼差しを向けてくる。そんな目で見られると照れるなあ。
「いやあ、魔物の図鑑、読むの好きで……。お、発射!」
ピンク色でキラキラエフェクト……いやハートエフェクトを纏ったビームがサソリから発射された。ビームと言う名前なだけあって、発射を見てから避けるのは不可能。射程内にいた敵クラスがもろ喰らってしまった。
「わわ! ビームを喰らった人たちが攻撃をやめました……! これが魅了……!」
「ハートフルビームの効果だな。原理が分からないよな、ほんと」
「魔法科学でも未だ原理が不明、って聞きました」
「らしいな。あれを有効活用出来たら、世界中が平和になりそう」
「確かに……!」
まあ、無理なんだけど。あくまでこれは「異常状態」であり、永続的な効果は無いんだ。だから。
「数分で効果が切れるんだけどな。」
「ああ、なるほどです。束の間の平和で終わってしまうんですね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます