日常の一コマ、別のクラスでは

 風兎達が魔法実習の時間で「第一回作戦会議」をしたように、他のクラスでも同様の時間が設けられている。会議中担当の先生が後ろで見ているが、当然ながらアドバイスなどは一切行わない。

 ではなぜいるのか、何をしているのかと言うと、(一説によると)会議中の態度で成績をつけているとかなんとか。負けたクラスの中からも稀にA+評価を貰う生徒がいる事がその証拠だ。


 ここでは別クラスで行われたクラス会議の様子を見てみようと思う。そのクラスとは15組。風兎と同レベル、いや風兎以上に真剣なリーダーがいるクラスである。


「このクラスのクラスリーダーは、私が務めようと思うわ。よろしいかしら?」


(一番攻略階層が進んでるからなあ)

(もっと言うなら、一年生の中では最高階層だっけ?)

(いや、『先輩と一緒に』もっと先まで行った人はいるって聞いたわよ)

(けど、あいつはソロだからなあ)

(一年生の中で最強よね!)

(そんな奴を差し置いてまでリーダーやろうとする人がいるはずもなく……)

(逆にいたら面白い事になりそうだな)


「特に反対はないみたいだから、このまま話を進めるわね」


 15組のリーダーにたった今選ばれた少女は赤髪の美女、紅葉もみじ陽菜はるなだ。赤髪と言う、日本人にしては珍しい髪色をしているが、彼女は純日本人である。

 彼女の能力は『火魔法』。風兎の友達だと柏木などが使っている魔法だ。だが、その威力は天と地、月とすっぽん、バンコマイシンとペニシリン、JavaScriptとJavaくらいの差がある。


 柏木の火魔法では、弾幕を防ぐことは出来ない。仮に火のシールドを張ったとしても、弾幕はすり抜けてしまう。火には実態が無いのだから、そりゃあそうなるのが自然だ。

 しかし、紅葉の火魔法は違う。どういう原理かは定かでないが、火なのに実態がある。飛んできた属性/無属性の攻撃を消し去ったり跳ね返したりすることができるのだ。一部の人は「彼女が作るシールドは超高温の為、内部の空間が歪んでいるからだ」なんて噂しているが、流石にそれは嘘である。

 とはいえ、そんな噂が立つのは、彼女が他とは一線を画する強さを誇る能力者フォルテという事の証拠と言えよう。


「では早速。今から過去の魔法杯で使われた戦術とその対抗策について話していこうと思うわ。まずは資料を配るわね」


 おおよそ50ページ(両面印刷)の資料を配布する紅葉。その熱心さというか本気度合いと言うかに、クラスメイトは若干びっくりしていた。

 ただ、(なーに本気でやってんだか)と馬鹿にするような人はいない。何故なら、ここで活躍すれば将来の就職に役立ったりするからだ。……というのも理由の一つだが、むしろ自分たちの活躍がテレビに映るから頑張ろうとしている人も多い模様だ。


「順に詳しく解説していくわね。分からない所とか疑問点があれば、遠慮なく待ったをかけて。じゃあまずは……」


 それから紅葉は、三十分ほどかけて戦術についての講義を行った。特に男子が必死になってメモを取っていたのは、紅葉美女に「彼は真面目ね」と思われたいからかもしれない。


「以上で戦術に関する基礎知識についての話を終わりにするわ。ここまで聞いてもらって分かったように、『地形オブジェクトを無効化できるフォルテ』を小部隊の隊長にしている例が多くって、そしてそういうクラスが優勝の栄冠を手にしているわ。逆に言うと、闇雲に部隊を分けて行動してるクラスは敗退するわ。という事で、今日の内に小部隊を分けてその隊長を決めようと思うわ。質問はある?」


(隊長……なんかカッコイイな。俺、やってみようかな?)

(でも責任が重そう……)


「今チラッと『責任』って言葉が聞こえたから、少し話しておくね。隊長はその名の通り部隊を率いるのだから、当然責任重大。大まかな指示はクラスリーダーの私が担当するつもりだけど、それぞれの場所での対応は隊長が決める事になるわね。責任重大だけど、花形の役割よ。誰か、立候補とか推薦はないかしら?」


「じゃ、じゃあ俺、やってもいいかな? 使えるフォルテは……」


「無属性の障壁魔法特化だっけ? ええ、是非お願い」


「え、あ、うん。そうだ、任せてくれ」



(ねえ、サキちゃんやってみたら? 強いし、リーダー基質だし!)

(え、私? 無理無理、自信ないよ……)


「サキちゃんは確か水魔法よね? マグマ地帯には必須の能力だし、引き受けてくれるなら嬉しいのだけど……」


「わ、わたし? え、でも。マグマってちょっと怖い……」


「あ、大丈夫。マグマって名前が付いてるけど、実際はちょっと暑めの泥沼って感じなの」


「そ、そうなの? それならそんなに怖くないかも……」


「じゃあ、サキちゃん。任せるわね」



「じゃあ、俺も」


「えっと、確か火魔法ね。泥沼地帯の突破、任せるわね」


「了解」



「私も、やってみます!」


「土魔法ね。威力は申し分ないし、是非お願いするわ」


「頑張ります!」



 こうして、一人のクラスリーダーと4人の部隊長が決まった。誰がどの部隊に所属するかを話し合って、その日の会議は終了となったのだった。






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