能力の練習

「君の能力は無属性魔法か。ポジションはどこなんだ? やっぱりタンクか?」


 俺が無属性魔法で障壁を作ったからか、先輩は俺がタンク希望ではないかと推測したようだ。だが、別にそういう訳ではない。


「正直、何が得意か分かっていないです」


「そっか。ちなみに、もう魔法実習はあったか? その時に何かアドバイスを受けたりするのだが……」


「ありましたが、その時はバッファーとして活動しました」


「え? バフも使えるのか?」


「はい。珍しいんですかね?」


 能力測定の日にも、担当職員に珍しいって言われた覚えがあるが、先輩方の驚き様を見ると、如何にこの組み合わせが珍しいかがうかがえる。


「かなり珍しいなあ」


 先輩曰く、複数の能力を有する人は少ないが居なくはない。例えば、火属性と水属性の両方を扱える人とか、光属性魔法(レーザービーム的な物)と回復魔法の両方を使いこなせる人とか。ただ、バフを魔法という組み合わせはほとんど見かけないそうだ。

 そういえばゲームでも、この組み合わせのNPCは居なかったような気がする。


「なるほどです。そうですね……、取りあえずタンクをやってみたいです」


「分かった。それじゃあ、暁。彼とペアを組んでやってくれ」


「分かりました! じゃあ、赤木君、よろしくね!」


 はい、よろしくお願いします。


「じゃあ早速攻撃するね! いけえ!」


 大地から土が盛り上がって、弾幕を形成し始めた。

 いいね、いいね。俺も応じないと、魔力感知状態に入るぞ。魔力の塊が飛んできた。それも三個バラバラなタイミングで。

 無属性魔法で障壁を作って受け止める。ゲームと違って細かい操作が効くから、使いやすいな。


「お! いいね! まだまだ行くよ、それ!」


 今度は五つ同時に弾幕が飛んできた。しかも、地下からは別の魔力が向かってきている。弾幕に気を取られたところで、落とし穴に嵌めるつもりか!

 いや違う。魔力の質がさっきの攻撃と違っている。地下を伝わる魔力は、先ほどと逆の性質を持っているように感じる。落とし穴形成と逆の性質となると……。


「危ね!」


 俺の元居た場所の地面から、岩で出来た鋭い針が伸びていた。あのまま避けなかったら足に突き刺さっていたかもしれない。下手したら『戦闘不能』判定になって、退場ゲートに転移していたかも。


 さて、避けた俺に迫るは五つの弾幕。すぐさま自身の魔力で小盾を五つ生成して、攻撃を相殺する。


「え! 避けられた!」


(マジか。初見殺しのあの技を……)


(見ろ、八倉先生が目を開けてる!)


(やっぱり、素質があるって事か?!)


 そりゃあ、こういう攻撃をしてくる敵は、ゲームでもいたからなあ。なんだったら、もっとヤバい敵だっている。それと比べたら、暁先輩の魔法はまだまだぬるいな。


「凄いね、すごいね、君! 料理も得意なのに、能力も強いなんて! これが避けられたら、もう私、出来る事ないよ……!」


「いや、料理は関係無いのでは? でも、楽しいですね。こうやって、競うの」


「でしょでしょう! にしても、私だけじゃ、赤木君の相手にならないみたい! 敵役がもっと必要だね。二人がかりで攻撃してみるけどいい?」


「頑張ります!」



 二人までなら何とかなった。弾幕を受けて、下からの攻撃を避ける。ゲーム廃人舐めるなよ! こんなの単純作業じゃい!


 三人が相手になると、四方から弾幕が飛んでくるし、下からの攻撃も増えた。厳しくなってきたぞ。


 四人が相手になると、弾幕が前後左右に加えて上からも飛んでくるようになった。地面からの攻撃も健在である。ヤバい、このままだと負ける……。


 いっそ、全身にバリアを張るか?

 ゲームで見る盾のイメージが先入観としてあったが、いっそ盾じゃなくて全身を覆う膜を作ってしまえばいいのでは?

 全身にバリアを張ろうとする。しかし、守る面積が増えるにつれてバリアが薄くなって……しまった!


「あ……」


 バリアが壊れ、氷の弾丸が俺の胸に直撃した。PVPフィールドだから、実際に怪我する事はないし、痛みもない。ただ、HPは尽きたようで、俺は退場ゲートに転移させられた。



 退場ゲートから元居た場所に戻ると、先ほど俺と戦った四人の先輩方が正座していらっしゃった。他の先輩は呆れた目で四人を見つめていた。


「「「「ホントすみませんでしたーー!」」」」


「えっと? どういう状況で?」


「新入生相手に四人がかりで一方的に攻撃して、挙句の果てに戦闘不能にするなんて許されない行為だ、って事で叱りつけた訳さ。あの四人は、ちょっと悪ノリが過ぎるから……」


 能力研究部の部長、川崎先輩がそう説明してくれた。


「いやいや、問題ないですよ。そもそも対人戦ってそう言う物でしょう?」


「肝が据わっているなあ……」


「?」


 先輩の話によると、死に戻りの感覚がトラウマになる新入生もいるらしい。せめて迷宮実習とか魔法実習が進んでからの方が良いとされているみたいだな。また、三年生であったとしても、未だに死に戻りの感覚が苦手な人もいるようだ。

 なるほど、確かにその気持ちも分からなくもない。俺はこの世界を「ゲーム世界」として考えているから、むしろ「え? リアルとなった今でも(対人戦では)死に戻りが出来ちゃうの? 流石ゲーム世界、ご都合主義だ……」と考えているが、この世界で生まれ育った人からしたら、「不気味」「本当に大丈夫?」といった気持ちを抱くのだろう。


「どうせそのうち体験する事ですし、僕は気にしてないですよ」


「「「「おお、許して下さるので? なんと寛大な……!」」」」


「……」


 この人たち、謝ってるふりして、実は楽しんでないか? まあいいけど。そんな中、部長が言った。


「そういえば赤木君。君、ポジションを決めかねているって言っていたよな?」


「そうですね」


「次はアタッカーの練習をして見ようか。あの四人を的にして」


「「「「……!」」」」


「いや、流石にそれは……」


「良いの良いの。彼らは動く的の一種だ。無属性の攻撃魔法は……そうだな桜葉。手本を見せてやってくれ」


「分かりました。こんな感じだ、ふっ!」


 桜葉先輩の能力は無属性魔法なのか。彼女が手を振ると、魔力の刃が暁先輩に命中した。

 ……あれ、なんで俺、魔力感知状態じゃないのに魔力の刃を知覚出来たんだ? もしかして慣れたら魔力感知状態になる必要なく魔力を感知を出来るようになるのか? この辺りはゲームでは説明されていなかったから、詳細は分からないんだよなあ。


「へぶら!」


 あ、暁先輩が死に戻った。


「見たか? 今の様に鋭く尖らせるのが私の好みだ。だが、別に魔力を飛ばすだけで攻撃力はあるから、大砲の様に発射してもいい。この辺りの応用が効きやすいのが無属性魔法の魅力だ」


「なるほど」


「それじゃあ、残りの三人は走り回ろうか」


「「「は、はい~!」」」


「え、本当に三人を狙っていいんですか?」


「「「いいよいいよ! 思いっきりやっちゃえ!」」」



 結論だけ言うと、攻撃魔法も難なく使う事が出来た。自分の思った方向に魔法を発射できるので、ゲームよりも簡単なのだ。

 三人を仕留め、「おお、素晴らしい精度だな!」と褒めてもらい、その後は先輩方にステーキ定食を奢って貰った。他人の金で食べるご飯は美味かった。




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