魔法実習
フォルテメイアでは、通常授業のコマ数が少ない分、迷宮・魔物・魔法関係の授業を受ける事になる。
・魔物学:無限迷宮で出てくる魔物の生態やそのドロップアイテムについて学ぶ
例題:第21層~第25層で出てくる魔物の説明として、適当でないのはどれか。
a)角兎は一定ダメージを与えると逃走行動に出る。
b)角兎のドロップアイテムは兎肉である。
c)モモンタイガーは滑空だけでなく上昇する事がある。
d)雷稲荷の雷攻撃は、距離を取れば当たらない。
解答:aが誤り
・魔法実習:魔法を実際に使う練習をする
成績は魔法杯での活躍度合によって決められる。魔法杯はフォルテ同士の模擬戦である。詳しくはまたいつか。
なお、参加するだけで合格最低点は獲得できる
・迷宮実習:各自、無限迷宮の攻略を行う。
第9層辺りまでは面倒を見てくれるらしいが、それ以降は基本的に各自パーティーを組んで取り組む事になる。
成績は迷宮の攻略階層で決まる。何階層まで攻略済みであるかは、「称号測定機」の情報から得られる。
なお「称号測定機」とは、どのボスを撃破したことがあるかを調べる事が出来る機械である。
・実戦訓練:無限迷宮以外の魔物の巣へと赴き、魔物と戦う
成績はつかない。参加=単位取得である
◆
入学式翌日の今日は、早速魔法実習の授業がある。と言っても、今日はイントロダクションだろう。お、早速先生がやってきた。
「全員、揃ったな? じゃあ、早速授業を開始する。まずはここ、第Ⅳ訓練場の紹介をしておく」
第Ⅳ訓練場。小アリーナという別名もあるが、そうは言っても100メートル×200メートルもある巨大なグラウンドである。
「ここでは、人が撃った魔法が人に当たっても、肉体にダメージが入らない。こんな風に」
先生が、補佐の先生に向かって氷魔法を放つ。氷の槍が補佐の先生の足に刺さるも、出血していない。補佐の先生もケロッとしている。
「また、体のどこかに『計測器』という物をつけていると、自分に入るであろうダメージを算出してくれる」
補佐の先生は、自分の腕に巻いている計測器を見せる。メーターが残り90%くらいの所で光っている。
「今の一発でHPを10%削ったって訳だな。当たり所が悪いともっと多くのダメージが入るし、逆に防御されたらダメージは小さくなるだろう。このメーターは回復魔法をかけることで回復する」
補佐の先生が自身に回復魔法を使用した。すると、メーターが100%の所まで回復した。
「メーターが0になったら失格となり、向こうにある退場ゲートに強制転移させられる。そんなもんかな……。あ、そうだ。テイマーにテイムされた魔物が放つ弾幕に当たっても、『人間から人間の攻撃』と見なされるから、実際に傷つくことはない。また、テイムされた魔物が受けたダメージは、テイマーのメーターに反映されることになる」
要するに、PVP用のフィールドという訳だ。
「ここでグループ分けを行う。まず、テイマーは魔物に命令を出す感覚を掴んで貰うため、研究棟Eに向かうぞ。さっそく魔物と対面するが、安全な魔物しかいないから、安心するように。ちなみに、今日の相手はウォーターリリーだが、奴らが撃ってくる弾幕は水だ。当たっても服が濡れるだけで、健康には全く影響がない。一応、皆の制服は特殊な防水加工が施されているから多少濡れても問題ないが、万が一下着まで濡れた時は、授業後に乾燥機を使う事が出来る」
我々の学校にはいわゆる「体操着」がない。今着ている服は、授業中に来ている服と同じ「制服」である。しかし、魔物から取れた素材を使った高性能な服であり、こうして体操着代わりに使っても平気だ。
「デバッファーとヒーラー、それとタンクについては相手が必要だよな。別途、指示を出すから、向こうで待機してくれ。バッファーは、魔法に慣れていない人のサポートだ。サポートをする・サポートを受ける事で互いの成長につながるとされているからだな。さて、その他のメンバーについては、2つにグループを分ける。ある程度魔法をコントロールできる人は向こうに設置してある的に向かって練習するように。高出力の魔法を正確に
ここ、第Ⅳ訓練場には様々な種類の的(動かない的、左右に動く的、上下に動く的など)が用意されている。魔法をある程度コントロールできる人にとっては、いい練習となるだろうけど、そもそも魔法を上手く使えない人にとっては無用の長物である。
「それと、複数の種類の魔法を使える人は自分が一番得意なジャンルで練習してくれ」
さて、俺は今日はバッファーとして活躍しようと思う。というのも、ゲームでは様々な人にバフをかけるシーンがあるのだ。これは後々重要となるのだが……。まあ今のところは「友達を作ろう」くらいのノリで取り組んで大丈夫かな。
◆
「バッファーは何人いる? えーと、3人か。適宜、ペアを組んでもらうから少し待機してくれ」
このクラスには
「魔法に自信が無い人は……えーと15人か。取り敢えず、バッファーの支援なしで魔法を使ってみようか。まずは柏木からだ」
「はい」
柏木が卵サイズの火球を生成して飛ばした。テレビで見る能力者に比べると、遥かに弱々しい。さて、先生の反応は……?
「一年生の初日としては十分な火力だ。お前は向こうで的に向かって自主練。次!」
どうやら、これでも十分だそうだ。
その後、何人も「十分だ、向こうへゴー」と言われる。そして結局……。
「残ったのは5人だな。お前らはバッファーと組んで練習すると良い」
魔法の威力がほぼ0だった5人がバッファーと組んで練習する事となった。内訳は男子二人に女子三人である。
「じゃあ、組み分けをするか。お前は男子二人をサポートしろ。お前らは二人で女子三人を補助だ」
俺は二人の男子とペアを組むことになった。まあそうなるよな。
「バッファーのバフがある状態で魔法を使ってみろ。はじめ!」
俺は意識を集中する。五感が消えて、代わりに魔力の流れが見えるようになる。隣にいるであろう男子二人が使おうとしている魔法が見える。少量ながらも、魔力が集まり、それが撃ちだされる。俺はその威力を大きくするように魔力を注ぐ。
「「おお!」」
俺は目を開ける。前回のような疲労感に襲われる事なく通常状態に戻れたのは、慣れだろうか? ともかく前方を見ると、確かに彼ら二人の魔法の威力が上がっているのが分かる。
「うむ。なかなか威力が上がったな」
ふと横を見ると、女の子チームも魔法を使うようだ。向こうもうまくいくかな……?
「「あれ?」」
女子三人中、二人が発する魔法は上手く発射されたが、一人は魔法の発動に失敗した。バフがかからなかったのか?
「うーむ……相性が悪いのかもな。火力が上がらなかった……えーと名前は?」
「み、
「宮杜はバフのプロの先生とペアを組んでもらおう。田中先生? お願いできますか?」
宮杜さんには教員付きで特訓が行われることになったようだ。バフに相性とかあるのだろうか? ゲームではそんな描写は無かったのだが……。まあ、そんな事は気にせず、俺は男子二人の魔法を強化すべく、意識を集中させる。
◆
「うーん、やっぱり上手くいかないなあ……」
「ご、ごめんなさい……!」
「いや、宮杜が謝る必要は無いのだが……。困ったな」
小休憩をしていると、頭を抱える教師陣が目に入った。何かあったのだろうか?
「何かあったのか?」
と同じく休憩中の女子に聞いてみる。
「全く魔法が強化されないらしいの。彼女、水魔法が使えるみたいなんだけど、水魔法のバフに特化した先生が付き添っても、上手くいかなかったみたいでさ。難儀してる所らしいわ」
「なるほどな。うーむ……? 先生~!」
俺は頭を抱える教師陣に声をかける。
「もしよかったら、僕がバフをかけてみてもいいですか?」
「お前が? まあ問題はないぞ。上手くいけばラッキーだしな」
「じゃあ、魔法を準備してみて、宮杜さん?」
「はい……」
集中。通常の感覚から、魔力感知状態へと切り替える。……魔力感知状態っていい表現だな。今後も使おうかな。それはともかく、宮杜さんが使う魔法に集中しないと。
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