共有キッチン
学生寮では一人一室与えられる代わりに、少し狭い。そして、キッチンは無いので、料理をしたい学生は、一階にある共有キッチンを使う必要がある。
「という訳で、共有キッチンの使用許可ってどうやって取ればいいですか?」
「それなら、私に言いにくればいいよ。何を作るの?」
「まだ決めてません。その時の気分ですかね?」
畑中さん(寮の管理人)に使用許可を取ったので、早速何かを作ってみようと思う。まずは材料を買ってくるか。
◆
・卵
・上白糖
・小麦粉(薄力粉)
・バター
・牛乳
・バニラエッセンス(家から持参)
・生クリーム
・各種フルーツ
「家と環境が違うし、簡単な物から作ってみよう。という訳で、ロールケーキでも作ってみますか!」
まずは卵と砂糖をふわっとなるまで泡立てる。俺は共有キッチンにあった泡だて機を使って作るが、プロなら手で泡立てるのだろう。そう考えると、プロってすごいな。
小麦粉を少しずつ加えながらさらに
とそうやってロールケーキの準備をしていると……
「手際、良い。料理……得意?」
いつの間にか隣に誰かが立っていた。ほんとびっくりした。身長が低い方だな。髪の毛は黒色で、日本人形のような髪型である。
大変失礼ながら、存在感が薄い。近づいてくるのを察知できなかったのはその為か。
「わ! びっくりした! えーと、はい。料理は好きです。」
「そうなんだ。私も料理好き。今日は使わないけど、いつかここを使うかも。一緒になった時は、よろしく」
「あ、はい。よろしく」
「じゃあ、またいつか」
「はあ、またいつか」
……変わった子だったな。
「あ、そういえばお名前は? 俺は赤木風兎、一年生。フォルテで、バフが使える」
「赤木君ね。分かった。私は
そう言って、女の子は去って行った。同級生か。料理が好きと言っていたし、いつか色々議論してみたいな。
話を戻そう。
天板へと生地を流し込み、事前に過熱しておいたオーブンへ放り込む。そして15分ほど加熱する。
加熱後、生地が固まっていなかったら再度加熱する必要があるが、今回は問題なさそうだ。
水分が逃げないようにラップで覆い、その状態で余熱を取る。熱いままだと、生クリームをひけないからね。
次に、各種フルーツのカット。大きすぎると、ロールケーキを巻く際に邪魔になるし、小さすぎるとフルーツの食感が楽しめない。感覚でいい大きさにする。
その後、冷やしながら生クリームを泡立て、スポンジに塗る。フルーツを中に埋め込む際に、凸凹が出来ないように気を付ける。
最後にくるんと巻いたら……完成!
◆
出来上がったロールケーキは、四人家族向けの大きさのもの。つい、いつもの分量で作ってしまったが……どうしよう? 一人で食べきれるだろうか? 誰かにおすそ分けするか? でも誰に? 畑中さんとか?
そんなことを考えつつ、ロールケーキをカットしていると、ひょこっと顔をのぞかせる人物が。
「いいにおいがするわねーー!」
「誰だろう? この寮で料理をする奴なんていたか?」
まずは男女のコンビがこっちを向いてきた。目が合う。
男女コンビは俺という知らない人物がいた事に驚くと共に、困ったような顔をする。知らない人物に絡みに行ったようなものだからな。俺が相手の立場でも気まずいよ。
「なになに~? 美味しい物なら食べたいわ!」
「こら、瑠璃。知り合いならまだしも、そうじゃない人なら気を使わせてしまうだろう? ……おや、君は」
男女コンビの後にキッチンを覗いてきたのは知り合った人物であった。そう、昨日、フードコートで相席し、能力研究部に勧誘して来た女子二人組である。
「うん? もしかして、
「そうじゃなくて。えっと、昨日の子だよな?」
「はい、そうです。奇遇ですね、また会うなんて」
ペコリと会釈。向こうも会釈。そんな俺達の様子を見て、他の三人は首を傾げる。
「加奈の知り合いなのね。突然絡んでごめんなさいね」
「加奈の知り合いなのか」
「
三つ目のセリフは昨日勧誘して来た先輩のセリフだ。覚えてないのかよ! ちょっとショック。
「瑠璃は昨日会ったじゃない! ほら、フードコートで勧誘したの、まさか覚えてないの?」
「うん? ああ、あの子ね! 昨日ぶりね!」
◆
この四人組は全員第二寮に住む能力研究部のメンバーだそうだ。最初にキッチンを覗いた男女は三年生の先輩で山本スバルと
残りの二人、つまり昨日フードコートであった女性は二年生の先輩で
それにしても。さっきから、暁先輩がロールケーキを凝視している。一人では食べきれないし、おすそ分けしようかな?
「せっかくですし、ロールケーキ、おすそ分けしましょうか?」
「ほんと?!」
暁先輩は、輝くような笑顔を向けて、俺の方をみる。その様子は、まるで待ちに待った散歩の時間がやってきて喜ぶワンちゃんのようだ。尻尾をぶんぶんと振り回して喜んでそう。
「いや、流石に申し訳ないよ。瑠璃も、後輩に食べ物を恵んでもらわない!」
「そ、そんなあ……」
「いや、俺一人だと食べきれないと思うので、分けたいだけですよ。いつもの要領で、四人家族を想定して作ったものですから、大きくなりすぎちゃって……。だからどうか気にせず貰っちゃってください!」
「ほら! やった! というか、手作りなのね! 凄いわ! 私のお嫁さんにならない?」
「む……。まあ、そこまで言ってもらって、断るのも無粋か。ありがたく頂戴しよう。と言いたいが、せめて先にお昼ご飯を食べないと。だから、瑠璃はナイフとフォークを置いてきなさい」
「え、もうそんな時間ですか? じゃあ、先にお昼ご飯を食べた方が良いですね。じゃあ、これは冷蔵庫に入れておくか……」
なお、共有キッチンにある冷蔵庫は、ロッカーのように鍵をかける事が出来る。だから、間違って他の人に食べられる心配もない。
なお、三年生カップルには
「俺は遠慮させてもらおうかな。甘いものは苦手なもんで」
「私も遠慮しておくわ」
と遠慮されてしまった。
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