第14話 魔術師カインとの再会

 眩い光が収まり、ルナリアが目を開けると、そこは今も記憶に焼き付いている、王宮の転移の間だった。


 呆然と立ち尽くすルナリアの前に、聞き覚えのある声の男が現れた。


「ルナリア……」


「貴方はあの時の、魔術師様……」


 黒いローブを纏った魔術師カインは、感極まった様子でルナリアの手を取った。


「やっと君を取り戻せた……」


 確かにあの時、ルナリアは過去に行くことを恐れ、必ず救うと言ってくれた魔術師を信じ、喚び戻してもらうことを望んでいた。


 でも、今となっては、この世界に喚び戻されたことは絶望以外の何物でもなかった。


「私のことなど、放っておいてくれてよかったのに……!」


 ミハイルの悲痛な顔、必死の叫びが、頭から離れない。


 心から大切な人と出会えたのに。ずっと一緒にいられると信じていたのに。こんなにも呆気なく、断ち切られてしまった。涙が止めどなく溢れてくる。


「お願いします! もう一度、私を過去に飛ばしてください!」


 ルナリアの涙ながらの懇願を、しかしカインは困ったような笑顔を浮かべて拒否した。


「すまない、これが一番いい選択なんだ。……それに、君は私のものだから」


「一体何を……。貴方とは初対面も同然なのに」


「……あのお守りは、まだ持っているかい?」


「お守り……? 貴方にいただいたムーンストーンのペンダントは……」


「そっちではなくて、ミハイルから贈られた月麗花の押し花のお守りだよ」


「なぜ、それを……? 貴方は、ミハイルを知っているの?」


「ああ、知っている。ミハイルは、言わば私のライバルであり、同志であり、そして──私自身だ」


 カインがゆっくりとフードを脱ぐ。漆黒の髪に金色の瞳の、見目麗しい顔が露わになる。


 ルナリアを見つめ、ふわりと微笑むカインを見て、ルナリアの心臓がどくんと大きく脈打った。


「うそ……そんな……」


 髪の色も、瞳の色も、声だって違う。でも、この笑顔は知っている。


 いつもルナリアの心を癒してくれ、その胸を高鳴らせてくれた、大好きな笑顔だった。


「君の願いは、私が叶えると言っただろう? ……私の天使」


 ああ、やはりこの人は、二百年前の世界で出会った愛しいあの人なのだ。


「君のいない人生など、考えられないんだ。姿は変わってしまったが、それでも愛してくれるだろうか?」


「……もちろん、どんな貴方だって愛しています、ミハイル……!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る