第13話 運命の日

 ルナリアが転移してきてから、ちょうど三月が経つ日。召還の術が発動される可能性が最も高い日だ。


 ここ数日、ルナリアはずっと防御魔法を掛けられており、ミハイルの側から、できるだけ離れないようにしていた。


 今日も朝から気を張りっぱなしで、ミハイルと二人、居間に篭っている。


「今日、喚び戻されてしまうのかしら……」


「今日が最も危ないだろうな」


「何の前触れもなく、突然魔法が現れるのでしょうか?」


「君がここに来た時はそうだった。突然、強烈な光が輝き出して、すぐに君が現れた」


 ミハイルがルナリアを見つめて微笑む。


「……最初に君を見た時、天使か精霊が現れたと思ったんだ。あまりにも美しかったから」


 ルナリアは突然の告白に驚いて頬を染めた。恥ずかしくて堪らないのに、ミハイルの綺麗な深緑の瞳から目を逸らせない。


「二百年後から転移してきたと聞いた時は驚いたが、やはり君は天使なんだと思った。天使が帰っていくその日まで護ろうと思っていたのに、今では力づくででも奪おうなどと考えるとは……。君は、私だけのものでいてくれるだろうか?」


「はい……。私は、貴方と生きていきたい」


 ルナリアの潤んだ瞳に、ミハイルの切なげな顔が映る。二人の距離がゆっくりと近づいて、ルナリアはそっと瞳を閉じた。


 ミハイルがルナリアの頬に優しく手を添え、唇と唇が触れ合った、その時──。


 ルナリアの周囲が眩く輝き出し、ミハイルが弾き飛ばされた。


「ぐっ……!」


「ミハイル!」


 棚に体を打ちつけ、堪らずミハイルが声を漏らす。


「……大丈夫だ! 防御魔法も発動している!」


 ミハイルの言う通り、ルナリアの足元に複雑な魔法陣が広がった。そして、ルナリアを檻のような緑色の光が囲もうとした、その時。なぜか防御魔法が解除され、緑の檻が消し飛んだ。


「馬鹿な! なぜ解除された!?」


 ミハイルは必死にルナリアに近づこうとするが、眩い光から放出される暴力的なまでに強い魔力がそれを阻む。


「ミハイル! 私、もう……」


 ルナリアの体がどんどん透き通っていく。


「ルナリア! ルナリア!」


 声の限りに叫び、懸命に手を伸ばすが、ルナリアを包む白い光はミハイルのことなど構うことなく、どんどんと輝きを増し、最後に強烈な光を放って、ルナリアを連れ去っていった。


「……くそっ! ルナリア!!!」


 先程までの出来事が嘘のように静まり返った部屋に、ミハイルの悲痛な叫びが虚しく響く。


 傍らには、転移の衝撃で飛ばされたのか、ルナリアがいつも付けていたムーンストーンのペンダントが転がっていた。

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