第12話 一之太刀(ひとつのたち)
3日間の修行を終えた新右衛門は4日目からは奥義伝授の修行に入った。
(あと7日で奥義を修得できるのか?)
新右衛門は不安になった。
塚原卜伝の奥義を伝授されたのは、今までに二人しかいない。
一人は剣豪将軍と言われた
「新右衛門、お前がちょうど1000日修行していたのと同様に私も若い頃、鹿島神宮に籠り1000日の修行をおこなった。奥義はその時に会得した技だ」
卜伝は木刀を構えると、新右衛門に打ってこいと誘ってくる。
新右衛門は何とか卜伝から一本取ろうと打ち込むが、新右衛門の木刀はスーッと卜伝の体を避けるように外れ、卜伝の木刀は新右衛門の額を捉え続ける。
「先生、この技は何という技なのですか?」
「『
新右衛門は本当に不思議に思った。
鬼道丸が繰り出す無数の突きのような豪快さはないが、この『一之太刀』は絶対に破れない気がした。
それから何日も何日も稽古に励むが、何度やっても新右衛門は卜伝に一発も当てることができす、日にちだけが過ぎていった。
「新右衛門、私の剣が動いてから動くんだ。相討ちになっても構わないという意識で打ち込みなさい!」
「視線は相手の後方を見るようにして全体を視界に入れるように!」
「力を抜いて、自然と一体になった感覚で打ち込みなさい!」
卜伝は新右衛門に丁寧に何回も助言を行い、新右衛門も卜伝の言葉を素直に聞いて、ダメな部分は修正していく。
9日目の夕刻、夕日が落ちかける中で新右衛門は卜伝とこの日最後の稽古を行う。
「新右衛門、次が今日の最後の稽古だ。集中力を高めて打ち込んできなさい!」
新右衛門は深く深呼吸をすると急に頭の中に白いヤマユリが思い浮かんだ。
(ヤマユリか……。とても美しい……)
新右衛門はヤマユリを思い浮かべ、その優しい美しさを思いながら、剣をスーッと振り下ろした。
新右衛門が気づくと、新右衛門と卜伝の木刀はお互いに相手の額を捉え寸止めした状態で相討ちとなった。
「新右衛門、やったな! 奥義伝授だ!」
新右衛門は口では説明できないが、感覚として『
「卜伝先生、ありがとうございます!」
「ああ、これで『
(最終奥義だと……。奥義のまだ上に最終奥義があるのか……)
その日は奥義修得のお祝いに卜伝が料理を振舞い、二人は翌日、最終奥義伝授のため、湖に浮かぶ孤島に向かうこととなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます