第14話 5月3日 デートと敵(4)

「えっ?」


 優理が地元のyoutuberを知っている?

 この辺りは都会と言うほど人も多くない。地元で活動しているyoutuberなんてそれほど多くない。

 まさか、ショッピングモールで食べているときに近くにいたyoutuberを優理は知っていた?


 ゾクッと背筋が凍る思いがする。

 タイムリープ前は、そもそも優理との関係も無く、当然俺がショッピングモールに行くことも無かった。

 いや、そもそも妹の千照と最近打ち解けて話せるのは、優理の家で風呂に入ったのが原因だ。違う家のシャンプーの匂いで色々話し、夜には濡れた教科書を一緒に乾かした。

 優理との関係を進めることで、千照との仲が近くなり、そして彼女の危機を救えたのだとしたら……?


 俺はさらにそのきっかけとなったクロを見た。

 すると、クロは俺から視線を外し「にゃあ」とだけ鳴いた。まあ、いくら考えても答えは出ないか。


「それ、なんていうyoutuber?」

「ちょっと待っていてください。私のノートPC……あっ、たつやさん、もしよかったら私の部屋に……来ますか?」


 えっ。いいの?

 前来たときは誘われなかったけど、何か変化したのかな? 


「そ、それじゃあ行こうか」

「ふふっ。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」


 俺はかなり緊張してしまっていたらしい。それを察してか優理が笑う。

 仲良くなる前なら、優理は別のリアクションだったろうけど、だんだん俺のことが分かってきたのか慣れたのか……変に遠慮もしないし、よく笑うようになった。


 ああ、こんな素直でいい子を利用しようだなんて、いいのかな。

 でも優理との仲を詰めれば詰めるほど、良い方向に向かっているような気がする。


 などと内心で思いつつも……付き合ってもない男を自分の部屋に招くとか、チョロいんだけどね——。


「おじゃまします」


 本日二度目のおじゃましますをして、優理の部屋に入る。

 良い匂いがしてドキドキしてしまう。

 部屋は比較的シンプルだ。ベッドや机、本棚などがあるくらいで女の子の部屋とは思えない。それでもピンクが多いから可愛いのだが。机の上にはノートパソコンが置いてある。

 そんなことを考えていると、ふと優理と目が合った。優理は少し照れたようにはにかむ。


「どうぞ」


 そう言ってクッションを渡してくれた。猫柄である。かわいい。座るとふわふわしていて気持ちいい。


「それでさ、さっき言ってたyoutuberって誰のこと?」

「えっとですね、パソコン開きますね」


 椅子に座り、慣れた手つきでパソコンを操作する優理。

 俺は立ち上がり、画面を覗き込むようにして見る。デスクトップには猫の壁紙が貼ってあったり、フォルダがいくつか並んでいて整理されている。

 こうやって人に見せるって、俺だとすごく抵抗がある。優理は気にしないのかな?


 いや、そもそも隠すものが無いのかもしれない。

 親ガードがきつくて、色々制限されて。多分パソコンもチェックされていたのかも。


 ちらっと履歴が見えたけど、猫など動物関係の動画やら、音楽関係のもの、料理系、そしてvやyoutuberのものだけで、特に目を引くものがなかった。


『知らないものは調べないし探さない』


 誰かの言葉を思い出す。それほどに、今時珍しい純粋無垢さを優理は持っているのかもしれない。


「えーっと」


 カチカチとマウスを操作して、動画サイトを開く。そのページのトップ画面には【花咲ゆたか】という名前があった。

 この名前どこかで見た気がするんだよな。どこだっけ。

 あ、そうだ、千照が教えてくれた配信者のURLがあったな。俺はスマホを取りだし、確認する。

 その配信者の名前は……【花咲ゆたか】。


 間違い無い。同じだ。


「この人、千照に連絡を取ったみたいなんだ」

「え? 千照さんって、たつやさんの妹さんですよね。さっき話したすごく可愛い方」


 俺の呟きに反応して、優理が振り向く。


「……あっ、たつやさん、座ります?」

「座るって、どこに?」


 優理は立ち上がろうとした。俺に譲るつもりだ。


「いや、優理は座っててよ。俺はいいからさ」

「むー……じゃ、じゃあ、ここ開けます。んしょっ」


 そういって、お尻をずらす優理。ん?


「開けました。ど、どうぞ」


 そういって、空いた椅子のスペースに手を置く優理。

 隣に座れということらしい。うーん。これって……。断る理由はないので、従うことにする。


「ど、どうも」


 俺は緊張しつつも隣に座る。

 二人座るの無理だろと思ったけど、意外と余裕があった。優理が細いのか、椅子が大きめなのか。とはいえお尻の三分の一くらいは余っている。

 というか近い。肩が触れ、横腹も触れる。服があるとはいえ、お風呂に並んで入った時よりくっついている。

 近い分、いつもより強く優理の香りを感じた。

 ふと気付くと、ブラウスから優理の胸元が少し見えていた。ピンクのブラや谷間も見えてしまっている。俺は慌てて視線を逸らす。


「あの、たつやさん、どうしました? お顔真っ赤です」

「い、いや、配信者の話に戻ろう」

「はい。ええと、この方が千照さんに接触されていると」

「そうなんだ。しかも、その何というか、パンツを履かずに、足を少し開いて撮った写真を送らせようとしてたみたい」

「えっ? パンツを履か——」


 そこまで言って止まる優理。次第に、頬が赤くなる。


「そ、そういうご関係なんですか? その、付き合っていらっしゃるのですか? 千照さん中学生ですよね。この人、確か大学生でしたよね。大人です……」

「いや、違う。そもそも会ったことも無い。千照を餌で釣って、その見返りとして写真を要求したらしい」

「写真をどうされるのでしょう?」

「ばらまくぞとか脅すんじゃないかな」

「えっ? それは怖いと思います。そんな人がいるのですか?」


 顔面蒼白になって口がへの字になり、困ったような表情をする優理。

 ああやっぱり。そういう悪い奴がいるって知らないんだ。

 俺は興味本位で聞いてみる。


「うん。ちなみに、もし俺がそういう写真——ノーパンで足開いた写真——を送ってって言ったらどうする?」

「たつやさんがですか? うーん……」


 優理は目を瞑り、腕を組んで考え始めた。

 おい。そんな考えることか?

 学校でもそういうの人に送っちゃダメって習ったのに。

 むーと口を閉じ、本気で考えているようだ。そして出した結論は……。


「たくやさんが欲しいのなら……その、が、頑張りますっ!」

「おいっ!」


 思い切り声を張り上げてツッコんだものの、俺は浮いているお尻の方に倒れそうになった。

 なんとか椅子に座り直し、頭を抱える俺。


 思わず、優理が「そういう写真」を撮ろうと頑張るところを想像してしまった。真剣な顔でやりそうだ。

 ああ、どうしたらいいんだ? もし送ったら、とても悪いことが起きるんだよと優理にないといけないのか?

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