ミックスフライデー

@hokuro1215

2033年12月31日金曜日

「琢磨、何飲む?」


ぼんやりしていた僕の頭に斗真の声が鳴り響く。その瞬間、居酒屋の騒がしさが僕の耳に戻ってきた。


「あ、じゃあビールで」


僕は適当に返事をした。斗真は店員を大声で呼ぶと、ビールを二つ頼んだ。斗真は僕の会社の同僚で、大晦日はいつも彼と飲むことになっている。彼は営業成績トップのエリートで、人柄も良く、今日だって同僚の何人かが彼を飲みに誘っていた。僕との先約があるからと言って断っていたが、僕からしたら彼を無理に付き合わせているようで気が引けるので、そろそろこの二人きりの飲み会を終わらせたいと思っている。


ビールが来て、乾杯を済ませたあと僕はそのことを彼に伝えた。


「えー別に気にしてないし、お前と一緒に飲む機会が減るのは勘弁」


「別に減るわけじゃない。ただ僕以外に誰かを飲みに誘えって言ってるだけだよ」


「琢磨だけなんだよ。色々と愚痴れるのは」


斗真はそう言うとビールを半分まで飲み干した。彼は人柄は良いが少々自分本位な気質がある。僕が彼と二人きりが嫌なのは、愚痴の灰皿として使われることが気に食わないからでもある。


「君の愚痴を毎回聞かされる僕の身にもなってくれ」


「じゃあさ、お前の愚痴も聞いてやるから、それでいいだろ?」


「愚痴なんて特にないよ」


「愚痴じゃ無くてもいいさ。例えばどうしても話したい誰かの秘密とか」


秘密。

僕はこの単語に反応した。もうあれから十年も経ったんだ。とっくに忘れていると思っていた。だけど、思い出した。そうだ、確か金曜の出来事だったはずだ。僕は呟くようにして言った。


「僕の過去の話をしてもいいかい?」


「お!そういえば琢磨の昔ってあんまり知らないんだよな。教えてくれよ!」


僕はビールを少し飲んでから、ゆっくりと口を開いた。



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