グリーンランド 2

「だからね。そろそろ気づいてほしんだけどさぁ?

 僕が使う、言葉も、文字も、全く違うんだよ?」


「会話、できてるじゃないの」

「外じゃ、できなかったでしょ?」


「それはそうと、メモ帳に「アリサは、自分が馬鹿だと、自覚すべきだ」って、

 書いたのには、どんな意味があるんです?」


 アリサのあいた口は、言葉を発せず。

 ナビィを見て、琴誇から、静かにメモ帳を取り上げる。


「どうゆうこと?」


「この話題が、ソッチにそれるとは、思ってなかった。忘れて」

「じゃあ、何げなく書いた、本心だと?」


「あられもない、本心ではあるけど」


 メモ帳は、アリサ足元に投げ捨てられ。

 足の裏で、黒く汚れる運命をたどった。


「あれは、ホテルって書いてあるの」

「……」


 静かになった車内で。

 琴誇が、ナビィを睨み付ければ、とぼけた笑顔だけが返される。


 アリサの足元で無残に散った、紙切れから顔を上げれば、不機嫌なアリサの顔。

 その目線は、見逃してあげると、言っていた。


「なによ。何か言いたいこと、あるの?」


「いや、別に。アレで、ホテルって読むの?

 宿屋、民宿、旅館、いろいろあるけど、ホテル?」


「やどや、みんしゅく、りょかん?」


「うん。ホテルに泊まるのは良いけど、僕たちは、どうすれば良いの?」


「もう、私のカタコトを、拾う気もないのね」


「じゃあ、どうすればいいの?」


「この数時間で、こんなに、ずうずうしくなって、もう」


「アリサさん。その要因を、自分で作ったということを、忘れないように」


 売り言葉に買い言葉、軽口のたたき合い。

 会話そのものに意味はなく。

 言葉を打ち合うことに意味があり。

 勝敗みたいなモノが見えてきてしまうから、ヒートアップしていく。


 だが、物事の核心を、一発で言い切ってしまうと。

 その時点で試合は終了だろう。


 まさに、その通りなのだから。

 アリサは、しばらく口をつぐみ、仕切りなおした。


「ここに、泊まります」

「そんな悠長なこと言っていて、大丈夫なの?」


「しょうがないのよ!」

「僕たちは、どうすれば良いの?」


「一緒に部屋をとれば良いじゃない。口を、きいてあげても良いわよ?」

 と、アリサは、得意げな口ぶりと態度を見せた。


「別に、イイや」

「せっかくの好意を、むげにする気?」


「違うよ、お金がないだけ」


 琴誇は、シレッと言い放つ。

 アリサも、いい加減、慣れてきたのだろう。

 動じる様子なく、次の言葉をつなげた。


「安い部屋を、とってあげるから、まかせなさい!」

「だから、お金がありません」


 ナビィからの言葉に、面食らったのだろう。

 アリサは、少し間をおいて、琴誇に再度、顔を向けた。


「銀貨4枚で泊まれるのよ、安いじゃない」

「それって、どれくらい?」


「え、そこから? 銀貨四枚は、銅貨40枚よ?」

 琴誇は、アリサを指さし、ナビィに顔を向ける。


「本当に、この人は、僕たちの言葉を、理解しているのかな?」

「アリサさんは、バカじゃなくて、理解力が低いんですよ」


「この期に及んで、また、バカにしてるわね」

「違うよ、このバカチンがぁ~。

 銀貨とか、銅貨の価値って、どれぐらいあるんだよ?

 硬貨は、何種類あるんだよ!」


「え? そこからなの?」

「そうだよ! こっちのお金なんて、一円も持ってないよ」


 琴誇は、ドアポケットに入れていた財布から、小銭を取り出し。

 アリサに差し出す。


 アリサは、五百円玉を手に取り、指ではじいた。


「なにこれ、奇麗なんだけど」

「うん。それ返して、話が、いつまでも前に進まないから」

 と、奪い返そうとした琴誇の手は、空を切った。


「なに、コノ鮮やかな模様のメダル」

「いや、俺の住んでいたところの硬貨だから。とりあえず、かえしてよ」


「これ、いくら? 買い取るわ」

「ふざけてないで、早くかえしてよ」

 また、琴誇の手は空を切る。


「ふざけてないわよ、ブローチにするんだから」

「……」


「琴誇! 現金を手に入れるチャンスですよ!」

「いや、五百円玉のブローチって…」


「一円を選ばなかっただけ、良かったじゃないですか」

「そんなこと、言いだしたら、いよいよ、だよ」


「で、いくらなの?」


「ナビィが決めて良いよ、もう」

「じゃあ、銅貨五枚です」


 即答するナビィに、思考が一瞬停止した琴誇は。

 回りだした頭で、疑問を、確信に変えていく。


「ナビィ? この世界の硬貨のこと、知っているでしょ?」

 ナビィは、琴誇を不思議そうな顔で見上げ「知ってますよ」と、かえした。


「なんで僕は、知らないままなのかなぁ?」

「聞かない琴誇が悪いです」


「ナビィが持ってる本に載ってる知識には、偏りがありすぎてさぁ~。

 何が載っているか、分からないんだよ」


「聞けば、良いじゃないですか」

「なんでも聞くなって、言うじゃないか」


「そういえば、そうですね」

「じゃあ、どうすれば良いんだよ?」


「琴誇の思ったようにすれば、良いと思いますよ」

「……」


「私は無視なの?」


 琴誇は、会話に参加したいアリサに、説明を求めることにする。


 この世界の硬貨は、金・銀・銅・鉄の四種類だ。


 硬貨価値は、一枚あたりの価値を日本円に直すと。

 金貨・一万、銀貨・千円、銅貨・百円、鉄貨・一円、となる。


 日本円と違うのは、五千・五百で区切られた通貨が存在しないことだ。


「なに、その一瞬で済んじゃう説明。

 めんどくさがるようなことじゃ、ないよね?」


「聞かなかったから」


「聞いたら、毎回よくわからない、タクシードライバーあるあるを。

 汚い言葉で、永遠と言い続けるだけじゃないか」


「そうでしたっけ?」

「そうでしょ?」


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