いけいけ、たくしぃ~ 4

「じゃあ、なんなのよ?」


「台無しだなぁと」


「しょうがないじゃない! 胸元は大事だから、鉄板まで入ってるんだから!

 中途半端な力じゃ、龍紋が出てこないのよ!」


「ん? それって、龍紋を相手に見せるには。

 いちいち、そこまで、大きなアクション起こさないと、無理だってこと?」


「そういうことよ。だから、しょうがないの」


 琴誇の脳内で。

 どこかのご老公様のごとく。

 これが目に入らぬかと。


 胸元を、大の字で、はだけさせるアリサが、再生された。


 とうの、アリサは、小さな鉄板を片手にヒラヒラさせ。

 琴誇の反応を待っている。

 まるで、お行儀が悪いことを、指摘された子供のように。

 小さな怯えが、アリサの瞳の向こう側に見えた。


「そんな瞳で見つめても、僕は恋に落ちませんよ?」


「うるさいわね。あと一つ、手伝ってほしいことがあるわ」


「まぁ、いいよ」

 アリサは、背中を琴誇に向け。


「背中のボタン、とってちょうだい」


 ドレスの背中に、当然のようにあるスリット。

 背骨を、なぞるように。

 一つと、その両脇に二つ。


 琴誇は、迷わず、真ん中のスリットにあるボタンに、手をかけると。

 「ひゃ」なんて、かわいい反応を、アリサは見せた。


「違う違う違う! それじゃ、脱げちゃうじゃないの!」


「いや、全裸になりたいのかと」


「違うわよ! そっちじゃなくて、両脇の二つよ!」


「ああ、やっぱりそっちか」


「分かっていて、どうして真ん中に、手をつけたのよ!」


「そういう文化なのかと思って」


 アリサが、背後の琴誇の顔を、見れば。

 その顔は、至って真面目だった。


「琴誇は、私のことを、どんなふうに思ってる?」


「異文化交流園の人で、僕の常識では図れない人」


「……」


「ボタン、外すね」

 琴誇は、なれた手つきで、ボタンを外していき。


「随分、慣れているわね? なんで?」

 声に、手が止まった琴誇。

 アリサが、振り返れば。

 琴誇の眉間にシワがより。

 奥歯で、苦虫をかみ潰している顔が見えた。


「えっと、聞かないほうが良いわね…」


「言っても良いけど。

 笑ったら、背中にあるボタン、全部、引きちぎるからね?」


 琴誇の張り付けた笑顔に、地雷を感じたアリサは。

 「いえ、いいわ」と、引き下がり、胸をなで下ろす、が。


「それは、琴誇のお姉さんが、天の恵みを受けた方で。

 性格も、顔も、スタイルも良い方でして」


 アリサは、回避したハズの最悪が。

 再度、歩みよってくるのを感じた。


「ナビィちゃん、聞いてない! 私、聞いてない!」


 裏付けるように、背中のボタンに手をかけている、琴誇の動きが止まる。


「完璧超人と言っても、差し支えない方で。

 モテまくっていたのですが、一つだけ、大きな欠点がありまして」


「話すのやめて、本当に…」


「思想が自由というか、お花畑と言うか。

 すでに、天国に行っていると言うか」


 アリサは、背中を後ろに引かれる力を感じた。


「弟には、男女とか関係ないと言うことで、着替えを手伝わせていたんです」


 アリサは、背中に、かかっていた力が抜けたのを感じ、胸をなで下ろす。


「な、なるほど…」


「ちなみに、モテたかった琴誇が。

 死ぬ気で、運転免許書と、車を買うための要因を、作った人でもあります」


 首が、ガクつくほど、シッカリとした力が、アリサの背中にかかる。


「やめましょ!? その先は、イイから!」


「聞いたのは、アリサさんじゃ、ないですか。

 で、なかなかモテなかったもんで。

 モテたかった年頃の男の子、十四才の琴誇は、お姉ちゃんに聞いたんです。

 どうすれば、モテるのって」


「か、かわいいじゃないの…」


「そしたら、言われたそうですよ。車とか乗れば、きっとモテるよって」


 背後の琴誇は、無表情のまま固まっている。


 どうにかして、この状況を切り抜けようと。

 アリサは、一つの答えを、はじき出した。


「車って、いくらぐらいするの?」


 内情の話ではなく。

 お金の話にしてしまえば、あとは、どうにでもなる。


「全コミコミで、340万円です」


「それって、いくら?」


「ああ。そうか、こっちの硬貨は、違うんですよね。

 えっと、金貨340枚です」


「たっ、高い…。良いお仕事でも、してたの?」


「毎日学校に行って、休みと空き時間は、すべて仕事に費やして。

 一カ月、金貨十枚コンスタントです。


 年一回の、一ヶ月ある大型連休は、それこそ、ムチ打つように働いて。

 金貨25枚ですね。

 年末年始の休みは、仕事したい放題の青春を、おくってきたんですよ」


 賢いアリサは、すぐに計算式を叩きだし。

 背後の琴誇を、驚いた顔で、のぞきこんだ。


「え? 稼いだ金貨、一枚も使わなかったの?」


「そうですね、年一回の臨時収入「おとしだま」制度で、頂けるお金も使わず。

 年末年始も、働いておりました。


 嫌な子供ですよね?

 挨拶だけしに来たとか言って、お年玉もらって。

 さっさと、仕事に出かけちゃうんですから」


 「え? ふだんは、何してたの?」


「仕事です」


「だから、休みは…」


「仕事です」


「聞き方が悪かったわ。

 学校と、寝てる時間と、仕事以外の時間は、どうしてたの?」


「移動時間です」


「……」

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