運命戦機ハーモニィクス~記憶喪失の少年は、古代の遺物と共に運命に抗う~

幻想タカキ

第零章 運命の始まり

第1話 強襲者―レイド―

 世界を構成する物質の一つ――魔素。

 そして、魔素で構成されたエネルギー――魔力。

 魔力による技術は世界を発展させ、人類を更なる高みへ進化させていった。


 しかし、どんな世界でも争いは存在する。

 そこに欲がある限り。

 そこに、憎しみがある限り。


 時は、勇者歴19年。

 三つの勢力へと分かれたこの世界で今、大きな時代の変革が訪れようとしていた。


――遺物の目覚めと共に






 とある、都市と都市の間にある村『トータス』。

 村にある家の屋根裏にて、一人の少年が眠っていた。


 夢を見ていた。


『まさか君だったとは』


 誰かが、銃口を向けながら・・・・・・・・話している。


『ふぅん、才能ある君を撃つのは、流石に惜しい』


 女性は弾倉を変え、再び少年に向けて銃口を向ける。


『ここで君を見逃すのもまた一興。まっ、少し弄らせてもらうけどね』


――バァンッバァンッ!!


「――ッ!?」


 声にならない悲鳴を挙げ、少年は目を覚ます。

 少年の顔は恐怖に染まっており、体からは汗が流れ、息を荒くしていた。

 すぐに少年は周囲を見渡し、今いる場所が自分の部屋で、頭と胸には何の傷もないことを理解する。

 そして、今見ていたのが悪夢、もしくは失われた過去の記憶・・・・・・・・・であると理解したのだった。


 少年の名は、レイド。

 家名はないし、生まれ故郷も知らない。

 今までどんな風に生きて来たのか、どんな人達と過ごして来たのかも分からない。

 俗に言う、記憶喪失であった。


 少年の雰囲気はかなり独特だ。

 十五歳にも関わらず白く染まった髪。

 優しそうな目つきの中には、紅に染まった瞳。

 どこだろうと関係なく、レイドの姿は異質に見えるものだった。


 レイドは頭に手をあて、愚痴るように言葉を零す。


「……久しぶりに、見ちまったなぁ、くそ」


 軽く息を吐いて、レイドは落ち着きを取り戻す。

 今見ていた悪夢は、記憶喪失の少年が初めて寝た時に見た夢であった。

 前世の死ぬ間際か、それとも記憶を失う寸前の記憶なのか。

 とにかくその悪夢が、レイドの過去に深く関わっていることだけは理解していたのだ。


 夢の中では、月の光が地上を照らす頃だった。

 森には、自分の命を奪おうとする二つのモノがいた。

 一つは仮面とマントで身体を隠した女性。

 もう一つは、人より何倍も大きい人型の巨人。


 巨人は『死神』のようにも見えた。

 死ぬ寸前だったせいで見た幻覚なのか、とにかく夢の中の自分は酷く『死神』に怯えているようだった。


 最もそれはあくまで夢の中で、レイドは全く恐怖という感情はなかったが。

 どちらかと言えば、殺された時の感覚の方が怖かった。


「最近、見なくなったと思ったのに、今日は厄日か?」


 縁起でもないことを口にしながら、窓を開けて外の景色を眺める。

 既に朝日は昇っており、彼の気持ちに反して絶好調な青空であった。


 はぁ、とため息を吐く。

 レイドとしては、迷惑な問題であった。

 今の生活が充実しているし、不思議と今の方が楽しいと心の底から感じている。

 忘れた過去のことを掘り返されても、はっきり言って面倒だと思っていたのだ。


 もう一つ、過去の記憶を思い出したくない理由があった。


「でも、あのMAGマギ、かっこ良かったよなぁー」


 この世界には、ある特殊な兵器が存在している。

 『マジック・アーマード・ギア』、通称『MAGマギ』。

 人を模して造られた、7メートルは人型魔動兵器の総称である。

 人が胴体部にある操縦席ドライバー・シートに乗り込んで操縦する。

 異世界の言葉を借りるのであれば、『ロボット』であった。


 以前の自分の影響か、それとも今の自分のせいなのか。

 レイドはMAGに対して強い好奇心を抱いていた。

 そして自分も、『死神』のようなかっこいいMAGに乗りたいと強く願っていたのである。


 これが、記憶を思い出したくないもう一つの理由。

 過去の記憶が蘇って、恐怖でMAGに乗れないなんて事態が起きたら、レイドは間違いなく自分をぶっ飛ばす気でいた。

 MAGに乗るという夢は、今の彼の生きる動力源となっていたのだから。


「まっ、今は無理だけど」


 レイドはたまたま通っていた、一隻の飛行船を見る。

 近くの都市が持つ軍の定期便であり、そこには様々な物資を貯蔵している。

 ここからでは見えないが、護衛の為に何機ものMAGが甲板がいると言うのは知っている。


 MAGを持つことは、この世界では簡単だ。

 ただし、操縦資格証ドライバー・ライセンスが必要なのを除けばである。

 資格証がないとMAGを持つどころか買うことすらできないし、持たずに乗れば犯罪にもなってしまう。


 当然、レイドは資格証を持ってない。

 今の彼の保護者というか雇い主というか、そんな男からは『半年働いてみて、才能があったら推薦状を書いてやる』と言い渡されている。

 行く宛のない自分を助けて貰っただけでなく、その先のことまで手伝ってくれるというのだから、レイドはそれに文句をつける所はなかった。

 なんだかんだで、今の生活も気に入っているのだから。


「おーい、レイド。いつまで寝ている! 早く来ねぇと、親方に怒られちまうぜ!」

「あっ、もうそんな時間か。早く行かないと」


 支度をし、レイドは家を後にする。


 向かう先は、トータスにある一件の店――リシュウクル工具店。

 それが今のレイドの職場であり、彼の保護者が経営している店であった。


 この時、レイドはまだ知らなかった。

 自身の望みが、思わぬ形で叶ってしまうことを。

 そうなる時が、もう近くまで迫って来ていることを。


 ただの強襲者レイドの運命が、変わろうとしていた。

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