第20話 凡人と非凡人

ともにもかくにも体調が悪いと何もできない人間は、本当に保健室というクラスメートと壁で隔たれた空間に一人静かに、惰眠を貪っていた。ただ、寝るだけの生活も悪くねえなあ。

この際、将来の人生設計立てちゃおうかな。ニート志望でありニート死亡でもある俺は、養われる生活もいいなあとそんな事を思ってしまった。


そんな一人孤独に考えていると開かないのではと思っていた固く閉ざされていた、扉がすうっと軽く静かに開いた。そして一人の美少女がこの地獄のような空間に足を踏み入れた。

魔王を倒す勇気と希望に満ち溢れた勇者みたいに。ってことはこの場合、俺って魔王側じゃね。どうも不安と絶望に溢れた魔王なんて職業にも似わないただの一般中学生です。


「で、どうした。授業でも終わったのか?赤塚?」

こいつは多分一回も授業というものをサボったことない根っからの優等生だから、多分授業終わりに幼馴染のお情け程度できてくれたのだろう。


「すっごい長く保健室にいるってうわさで聞いて、来てみただけ。授業はとっくのとうに終わっているよ。」


ながく一人で空間に閉じ込められていたせいか、時間の感覚が麻痺していた。


「お情け程度に来たんなら帰っていいよ。」


「来るのは、当たり前でしょう。幼馴染なんだから。」

かっこいいすね。赤塚パイセン。


「まあ、薫は実際いつもそんな人を離すようなセリフ言わないし、わざと遠ざけようとしているよね。何かあったの?」

本当に脳の回転が早い。嘘なんかこいつにつけるような人いるのか?



「別に何もないよ。思春期ってやつだ。あと実際に弱ってるとこ見られるの恥ずかしい。」


「そうだっだんだね。ありがた迷惑ってやつかな。」

そんなんじゃない。今でも教室に戻るのが怖くてもう泣きそうだから、そんなとこ見られたくないだろ。


「本当に何もないの?体調とか。クラスでのこととか。」

本当に勘の鋭い奴め。


「なんもねえよ。サボりたかっただけだ。」


「薫がそういうならいいけど。依頼の調子はどう?」


「その件についてはもう解決したと思う。」

まだどうかはまったく予想もつかないので濁した言い方をした。


「「思う」って?」

はあ〜〜〜〜〜〜。


「まだわからないのだ。いじめっていうものはあれだろう。加害者側にまだ負の感情がある場合、終わったと思っても再発してしまう可能性もあるだろう。だからまだ、全然わからない。」



「そうか。もう行動してくれたんだね。さすがの行動力。じゃ、一つの問題解決したから、何かの副産物があって、病気にでもなったんじゃない?」


「そんな感じだな。多分。」


「へえー。当たってたんだ。それはみたいだね。」

なぜか、深層の奥深くまで行きそうな思考を停止させ、目の前にいる少女と会話する。


「そうか?犠牲も何もしていない。ただの俺のやり方をしたまでだ。」


「へえ。なんかかっこいいねえ。」

適当すぎる。こいつの癖である。こいつはなにか考え事に没頭している時は、会話なんかそっちのけで思考の沼にはまる。そして、こいつの結論はいつも事実なので、大変困る。

だから、あいつの思考を停止させなければならない。


「なんか返事が適当ではないか。さみしいからしっかり俺と会話してくれよ。」


「ちょっと静かにして。いま考え事しているから。」

やっべえ。思考をとめさせないと、魔法を止めさせる。これしかない。


幻想殺しイマジンブレイカー

っとそんな事を口に出して、赤塚の頭に触る。それでも、ラノベみたいにうまく行かず、、。


「は、何いってんの?」

素で、マジで気持ち悪いって言われてしまった。いや、気持ち悪いのはもちろんだけど、。その言い方ってものもあるじゃん。はあ。ヤダ、ぼく死にたい。


「いや、これはあれだ。若気の至りってか要するに言葉の綾だ。」

言葉につっかえながらちゃんと文章にすると、、。


「若気の至りと言葉の綾って同じ意味じゃないし。」

いや、まあそうなんだけどね。わかってくれよ。中二病なんだよ。


「薫もそういう時期に入ったわけなのね。」

そういう時期ってどういう時期だよ。いろんな想像ができるぞ。なぜか思春期っていう言葉自体にもうエロさを感じている自分が恥ずかしい。


「そ、そういうこっとたあ。」

まあこれであいつの思考を閉ざすことにも成功したからよかったわ。その代償がでかすぎるんだけど、、。


「じゃ、私部活あるから、、。なんか状況が変化したら連絡よろしくねえ。」


「変化ね。了解。」

じゃまたっと彼女は魔王を倒した勇者みたいな、雰囲気を漂わせ、自分が向かう場所に行った。


彼女はほんとに頭がいい。常人の域なんてレベルではない。その能力と美貌と性格っと。あらゆるモノが手に入り、手に入れここまでやってきたのだ。


俺なんかと比べ物にならない力がある。人を助ける人とはこういう人のことを言うのだろう。故に彼女は危険なのだ。知られたくないことでも、簡単に知ってしまうからだ。

俺のやり方を彼女が止めたら、俺はやらないのだろう。そして彼女はいともたやすく誰かを助けてしまうのだろう。俺は彼女に憧れを抱いているから、負けたくないと思って言わなかったのかもしれない。でも彼女が状況を知った以上、タイムリミットはもう時間がないということである。だから一刻も早く方法を見つけなきゃいけない。










みんなだって常人が非凡人に勝つ物語の方が面白いだろう。

それに彼女が巻き込まれることによって彼女に被害が出たらどう落とし前つければいいのかわからない。 だって、あの選択をしたから俺は今ここにいるのだから。言ってしまえば、すべての責任は俺にあるということである。


勝ちたい。




そして俺は地獄で甘くとろけてしまいそうな、優しいその空間から厳しくて残酷で最悪な世界へ出る。












魔王だって、勇者になるラノベはあるだろう。



ここからが俺の番だ。








最悪の物語の主人公の登場である。














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