兎人の集落

『おうちまで送ってあげる』

 そう言った私に、ラレアトが、

『ヤッタ♡』

 と嬉しそうに笑顔になってくれた時には、

『ううう、かわいい~っ♡』

 思わず身もだえてしまいました

 と、いけないいけない、冷静にならなければ。

 手を差し出すと、彼女も、短くて柔らかい毛で覆われた小さな手で掴んでくれました。

 手の形やその構造は私達地求人とまったく変わりません。いえ、毛皮のことを除けばむしろ『頭部だけが違う』と言うべきかもしれませんね。

 正直な印象として、不自然なくらいに私達と近いのです。

 普通に生物として進化しただけでこのような形態を獲得することは有り得るのでしょうか?

 その辺りについても、機会があれば触れたいと思いますが、今はとにかく彼女を仲間達のところにまで送らなくては。

 だから私は、日が暮れ始めた森の中をラレアトと一緒に歩きます。

 先ほども触れたように、獣人達は、種族ごとに集落を作って生活しています。

 この周囲には、猪人ししじん山羊人やぎじん兎人とじん、の他にも、山猫人ねこじん梟人きょうじんといったいくつかの種族がそれぞれ集落を作っているそうです。

 途中、何度かナヌヘの実を見掛けましたが、ラレアトは見向きもしません。というのも、

 <彼女にとって美味しいナヌヘ>

 というのは、ごく限られた状況でのみ得られるもののようで、それ以外は甘みが少なく魅力がないそうなんです。でも実は利用方法はあって。

 ああでも、ラレアト達の集落に到着してしまいましたね。なので、

「マタ~♡」

「またね♡」

 仲間のところに戻っていく彼女に手を振りました。

 ラレアト達は、主食となる植物を求めて季節により居留地を転々とする生活習慣を持つ兎人とじんでした。彼女が久しぶりに<よろずや>を訪れたのはそれが理由です。最近ここに戻ってきたことで顔を出してくれたんですね。

 そんな彼女達の<家>は、深さ一メートルほどの穴に植物を編み上げて作った屋根を被せた、いわゆる<竪穴式住居>と呼ばれるものの一種で、その中でも比較的簡易なタイプなのだと思われます。

 穴を掘るのはやはり<兎>としての性質があるということでしょうか。

 なお、基本的に集落とする場所は決まっているものの離れている間に家は傷んでしまうので、その度に作り直すとのこと。それもあってすぐに作れるタイプなのでしょう。

 一方、メイミィ達の種族の方は、基本的に一年に亘って収穫が見込まれる植物を主食としていることもあって一箇所に定住しています。だから住居ももう少し手の込んだ造りでしたね。


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