猪人ブオゴ

 <背は決して高くないものの毛むくじゃらで頭部はそれこそイノシシそのものといういかにも頑健そうな男性>

 彼の名前は<ブオゴ>。私達が<猪人ししじん>と仮称している種族の若者です。

 先ほど店を訪れたメイミィは<兎人とじん>。ラレアトも同じく兎人とじんなのですが、兎人とじんの中でも別の種族だというのが、後になってから分かったりもしつつ、今の時点では取り敢えずそう区分しています。

 柔らかな体毛に覆われふんわりとした印象があり、それこそ<ウサギのコスプレ>のように愛らしさに溢れた兎人とじんに対して猪人ししじんは、全身を覆う焦げ茶色の剛毛、木刀で殴った程度ではびくともしなさそうな骨太さに加え尋常じゃなく強靭な筋肉の上に装甲のような脂肪の層が乗っている体つきが印象的な獣人です。

 で、性格はと言うと、兎人とじんについてはまた後程触れるとして、猪人ししじんについては一言で言うと、

『豪放磊落』

 って感じでしょうか? 物事をあまり深く考えず(まあこれは獣人全体に共通する傾向ですが)、かつ直情的。加えて、<強さ>に大変に拘っているようで、負けることを何より嫌います。

 そして、強そうな相手と見ると誰彼構わず挑みかかって力比べをしたがると。

 はっきり言って、相堂しょうどう伍長の同類ですね。

 なので、伍長とブオゴは、寄ると触ると<勝負>を始めてしまうんです。今日も、

 <ユキ! ショウブ!!>

 などと言いながらブオゴが<店>に現れたので、伍長はそれに乗って出ていってしまったという。本当に困った人です。

 なのに、今では仲良さそうに肩を組んで笑ってる。

 わけが分かりません。

 と思ったら、

「これで六勝五敗! 俺の勝ち越しだな!」

 伍長がそう口にした途端、ブオゴの気配が変わるのが分かりました。

「チガウ! オレ、ロッカイ! ユキ、ゴカイ!!」

 言語能力は精々人間の三歳程度くらいのはずなのに、なぜか勝ち負けに関する話となるとやけに勘が働くようで、相手の言葉の意味を確実に察するんです。ブオゴは。

 そしてそれは伍長も同じ。いえ、『言語能力は三歳程度』という部分ではなく、『勝負に関することだけは異様に勘が働く』という点についてですが。

「またか……」

 私は頭を抱えずにいられません。

「俺が勝ち越してる!」

「オレダ!!」

 などと言い合いを始めたと思ったと同時に、

 ガツン!!

 と固いもの同士が激しくぶつかる音がしました。伍長とブオゴが、お互いの頭をぶつけ合ったんです。

 シルエットは人間のそれに近くても、身体能力は猪のそれと大差ない猪人ししじんと頭突きし合ったのに、伍長はまったく怯む様子も押される様子もありませんでした。完全に互角なんです。

 これが伍長の<能力>でした。

 彼は純粋な人間だったはずなのに、生まれつき筋力が異常に発達していて、医師に、

「ゴリラ並みです」

 と言われたそうです。


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