43回戦 県中総体-7

「ところで、1つ気になっていることがあるんだよね……」


 立ち上がったボクは、りんに顔を近づけて耳打ちするように言った。


「気になっていること……。

 もしや、鋤員すきいん選手のことですか……?」


 りんの言葉に、ボクはうなずく。


 そう。


弾速だんそくが速い電気属性の魔法まほう鋤員すきいん選手が直接り出していたら、

 もっと楽にこちらからポイントがうばえているはず……。

 そうしないのは、一体なぜだろう……?」


 ボクが疑問を口にすると、りんは考えるように軽く首をかしげ、


「もしかしたらですが……、

 『鋤員すきいん選手は電気属性がレベル1までしか、

  たまとして飛ばせるレベルまでは使えないのではないか?』

 という可能性が……」

と言った。


「やっぱりそう思うよね……」


 ボクは再びうなずく。


 使えはするが、適正が高くないからたまとして発射できない。


 レアな電気属性なら、有り得る話だ。


「もしそうだとしたら、

 合体ジョイント後は鋤員すきいん選手じゃなく前立選手の射聖ショットだけを邪魔じゃますれば、

 勝機があるかもしれない……」


 ボクが言うと、


「試してみる価値はありますわね……」

りんが返事をし、続けて


「ワタクシからも1つ作戦がございますの……」

と今度は逆にボクへ耳打ちしてきた。


「作戦?」


 ボクはたずねる。


「ベースライン際で戦う2人のどちらかが、

 側転やジャンプで回避かいひするようでしたら……」


 りんが言った。


 ハッとボクも気付く。


「(そうか……!

  レベル3の強風でバランスをくずすことができれば……!)」


 ボクがりんを見てうなずくと、

 りんもボクを見てうなずいた。




 ボクとりん、前立選手と鋤員すきいん選手が、

 それぞれスタンバイエリアに入ると、

 ピー!と再び審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 ボクとりんななめに、

 前立選手と鋤員すきいん選手はベースラインに沿って走り出した。


「(やっぱりまた最短距離きょり合体ジョイントしてくるか……!)」


 ボクは横目でそれを確認すると、シュン!と聖剣せいけんをなえた。


 重たい聖剣せいけんを無くすことで、一瞬いっしゅんでも早くりんと合流するためだ。


「!」


 鋤員すきいん選手がこちらをチラリと見て、目を見開く。


「(そしてもう1つ……!

  これで鋤員すきいん選手がボクを攻撃こうげきして来ないようなら、

  ボクとりんの考えはおそらく正解だということになる……!)」


 ボクはそのままダダダ……!と全力疾走しっそうを開始する。


 と同時に、りんがパン!と火球を太ももの高さで発射した。


 ねらいは鋤員すきいん選手の前方だ。


 「チッ!」


 鋤員すきいん選手は舌打ちして、走るのを減速したようである。


 だが、ボクに向かって攻撃こうげきをしてくる様子はない。


「(やっぱり……!

  ならこのまま……!)」


 ボクは一直線にりんのところへ向かい、


りん!行くよ!」

さけびつつ、ビュッ!と聖剣せいけんく。


 りんは、


「はい!」

と言いながらさらにパン!と火球を発射し、ボクと交錯こうさくした。


 それとほぼ同時に前立選手と鋤員すきいん選手も交錯こうさくする。


 ズババッ!


 バチバチッ!


 おたが合体ジョイント完了かんりょうだ。


「オラァッ!」


 ビュッ!バシン!


 前立選手が自分に向かって飛んで来た火球を聖剣せいけんたたき落とす。


 シュババッ!


 そこにボクが、すかさずショットガンを発射した。


「ウゼェッ!」


 バッ!バッ!


 前立選手と鋤員すきいん選手が同時にサイドステップする。


 が、その回避かいひした方向は前立選手がボクから見て左、鋤員すきいん選手が右だ。


「おまっ……!?クッソ……!」


 前立選手は一瞬いっしゅんだけ鋤員すきいん選手のほうを見たが、

すぐに聖剣せいけん右脇腹みぎわきばらに引きつけるように構えた。


「(またりんを……!)」


 前立選手がりんに向けてビュッ!と目にも止まらぬ速さできをり出す。


 ビュッ!とそれをさえぎるように、ボクも聖剣せいけんりんの前にき出した。


 だが、


「ヘヘッ!」


 前立選手は笑いながら、何事も無かったかのように

再び聖剣せいけん右脇腹みぎわきばらに引き付ける。


「(フェイント……!?

  くっ……!)」


 ボクはりんのほうへき出した聖剣せいけんの勢いを殺すために、


「フン!」

と言いながらん張った。


 前立選手が今度はボクに向けて、

 ビュッ!と目にも止まらぬ速さできをり出す。


 ビュッ!バチン!


 しかしボクは、下半身に飛んで来たスパーキングスナイプに、

 ギリギリで聖剣せいけんをぶつけることに成功した。


「(やった……!)」


「なっ……!?

 オイィ!もう1回だぁ!」


 はなれていた前立選手と鋤員すきいん選手が、再びダッ!と近づく。


 ダンッ!とりんがボクのすぐ後ろでジャンプした。


 ボクは、すかさずしゃがみむ。


 パパパパン!とりん四点同時攻撃クアドラプルアタックを発射した。


「うっ!?」


 バチバチッ!と前立選手と鋤員すきいん選手の合体ジョイント完了かんりょうしたが、

そこへ4発の火球がせまる。


 ビュッ!バシバシン!

 ボッ!


「あぁっ!ちくしょうっ!」


 前立選手は聖剣せいけんりながらしゃがむようにして、

2発の火球の弾道だんどうらし、1発の火球は回避かいひしたものの、

残る1発の火球を右肩みぎかたの辺りのプロテクターに受けた。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


2-2ツーオール!」

とスコアがコールされる。


「ナイスショットー!」


「ありがとうございます!」


 ボクとりんは左手でパァン!とハイタッチしながら言葉を交わす。


「いいぞ!いいぞ!本能!

 行け!行け!木石!

 もう1本!」

とウチの剣魔けんま部の面々の手拍子てびょうし声援せいえんが飛んで来た。


「やっぱり、鋤員すきいん選手はてないみたいだね……」


 ボクはりんに耳打ちする。


「そのようですわね……」


 りんが言いながらうなずいた。


 ボクとりんがチラリと見ると、

前立選手と鋤員すきいん選手は小声で何やらやり取りしている。


 ボクとりんは、それぞれスタンバイエリアに向かった。


「(鋤員すきいん選手は電気属性をたまとして発射できない……。

  それはどうやら確かだ……。

  けれど……)」


 ボクは歩きながら、

しかし何かが頭の中で引っかかっていることに不安を覚える。


「(大事なことを見落としている気がする……。

  一体……?)」




 ボクとりん、前立選手と鋤員すきいん選手が、

 それぞれ先ほどとは逆のスタンバイエリアに入る。


 ボクは再び聖剣せいけんをシュン!となえた。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 ボクとりんななめに、

 前立選手と鋤員すきいん選手はベースラインに沿って走り出した。


 すかさずりんが、パン!と上空に火球を発射する。


 遅降弾ラググレネードボンバーだ。


 おそらく下をくぐられないようにだろう。


 今度の遅降弾ラググレネードボンバーは、高さがややおさえられている。


「!」


 弾道だんどうを目で追った前立選手と鋤員すきいん選手も気づいたようだ。


 2人とも走るのを減速した。


 ボッ!と遅降弾ラググレネードボンバーは、

前立選手と鋤員すきいん選手の間に落下する。


 ダッ!と前立選手と鋤員すきいん選手が加速した。


 だが、その距離きょりはこちらとほぼ同じである。


 りん交錯こうさくする直前、ボクはビュッ!と聖剣せいけんく。


 りんのほうは、

パン!と前立選手と鋤員すきいん選手の合体ジョイントする位置に向けて火球を発射した。


 ズババッ!


 バチバチッ!


 おたがい、合体ジョイント完了かんりょうだ。


「……ラァッ!」


 ビュッ!バシン!


 前立選手が自分に向かって飛んで来た火球を聖剣せいけんたたき落とす。


 すかさずボクがシュババッ!とショットガンを、

パボン!とりんは加速する火球をそれぞれ前立選手に向けて発射した。


「……んの野郎やろうッ!」


 前立選手はそうさけぶと、

聖剣せいけん右脇腹みぎわきばらに引きつけながらバッ!と片手で側転する。


「(まさか……!?)」


 なんと前立選手は、そのまま側転しながらビュッ!ときをり出した。


 バシュッ!


 だが、発射されたスパーキングスナイプはボクの右前方の地面に炸裂さくれつする。


 ねらいがれたのだ。


「(チャンス……!)」


 ボクがそう思うより先に、

りんがビュオッ!とレベル3の強風を巻き起こした。


「行けっ!」


 ボクは思わずさけんだ。


 前立選手は、側転から着地しながら両目を見開いている。


 鋤員すきいん選手は、バッ!と地面にしゃがみんだ。




 ズ ズ ゥ ン !




 轟音ごうおんと共に、

そんな2人の姿がボクの視界から一瞬いっしゅんで消失した。




「えっ……!?」


 ボクはわけが分からず口に出す。


「なっ……」


 りんもボクの背後で呆気あっけにとられたように言った。




 いや。




 前立選手と鋤員すきいん選手は、消えたのではなかった。




 2人の姿をさえぎるように、

アースに巨大きょだい土壁つちかべが出現したのだ。




 バチバチッ!


 ふいに電気属性の音がひびく。


 バッ!とボクは反射的に音の方向に、

土壁つちかべの上方に顔を向ける。


 ビュッ!


 バチィッ!


「ぐあああ!?」


 ボクの右肩みぎかたのプロテクターに、スパーキングスナイプが命中した。

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