第22話 珍しいお客様
▷▷▷▷アダミャン◁◁◁◁
マルヴィン王国の王女、エルマイナの実の弟であるアダミャン・イヘル・マルヴィン(貴族位A)。
ガミルは驚愕する我を嘲笑うと、高らかに笑った。
後ろに控えていた騎士が拘束している縄をきつく絞ると、高笑いしていたガミルの表情が歪む。
「く、くそ。なぜ騎士ごときに私が・・・。全部お前のせいだ!!」
「ガミル!!裏切ったのか!?」
「裏切るものなにも、赤鳥を飛ばされてる身分のくせに、私に伝鳥を送った時点で全て筒抜けなんだよ!!」
「ぐっ」
噂では聞いたことがあった。
伝鳥を飛ばすには魔力が必要であり、赤鳥を飛ばされた者の魔力が王宮の管理下に入ると。
長い間、王宮から離れていた私にとっては、単なる噂に過ぎなかったのだが、どうやら本当だったらしいな。
「私はお前を連れて帰れば降格だけで済む。だがな、お前は無理だ!!いくら王族の血を引いていようが今回ばかりは極刑だろうな」
「貴様!!たかが店一つで我が極刑になる訳なかろうが!!」
「ふははは。やはりバカだな。お前が店を襲撃した時、店内にアスラーニ王国の王女がいたんだよ!!」
「な、バカな!!」
あの時、店の中に王女がいただと・・・
信じられないが、それならは早々に指名手配されたことにも頷ける。
なぜ、こんなことになるんだ・・・
あの店を追い出せば、我の店が繁盛するはずだった。
その売上の一部をガミルに渡すことを条件に営業許可の停止の通知を作成してもらった。
しかし、それがバレて赤鳥を飛ばされ、レシピを奪おうとしたら他国の王女がいた。
「ふ、ふふ、はーっはっはっ!!」
我は笑うしかなかった。
これで全てが終わりなのだから・・・。
騎士達が我との距離を詰めて拘束にかかる。
その時、湖が叩かれるような音と共に、水が上空に舞があり、やがて雨のように降り注いできた。
日が遮られ、辺りが暗くなると、騎士達が後退りを始めた。
湖に背を向けていたのだが、この不気味な状況にゆっくりと振り向くと、そこには信じられない化け物がいた。
体調50メートル以上はあるだろうその化け物は、四足で立ち、背には大きな半透明な甲羅があり、尾と首は長く、頭はドラゴンのようだった。
もの凄い風圧と共に長い首が我の直ぐ横を通過すると、ガミルと後ろにいた騎士3人を一気に口に入れた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴と共に骨が砕かれる音が辺りに響く。
残りの騎士数十人は恐怖に満ちた顔で震え上がり、その場から動けづにいる。
我は震え上がる体をなんとか動かすと、ゆっくりと歩き、馬車に辿り着くと御者席に乗った。
そして、再び騎士が化け物に食べられた瞬間に馬車を走らせた。
騎士の悲鳴が響くが、振り返ることなく逃げ出した。
▷▷▷▷ミミ◁◁◁◁
アダミャンが雇った冒険者にお店を襲撃されてから数日後、この日は珍しいお客さんが来た。
その人物は営業時間終了後に、大きな甕を右肩に乗せてやって来た。
「久しいな」
「・・・」
「・・・」
話しかけてきたのは男性で、燃えるような真っ赤な髪を腰まで伸ばし、瞳の色も真っ赤で、2本の糸切り歯が妙に尖っていて目立つ人物だった。
「我を無視とは生意気な」
「リリの知り合いみたいだよ?」
「知らない。ミミの知り合いじゃないの?」
私達のやり取りを聞いていた男は、顔を真っ赤にする。
「我だ、我!!赤竜だ!!」
男は赤竜と名乗ると、甕を床に置いて中身を見せてきた。
「砂糖だ。もしかして、北の山脈の赤竜さんですか?」
「そうだ。まったく。すぐ分からんとは」
「人化、初めて見た」
「それでもお前達なら我の並々ならぬオーラを感じて分かるだろうが!!」
赤竜の男は、更に顔を赤くして地団駄を踏んでいるため、店が壊れる前にテーブルと椅子を用意して座ってもらった。
「態々、砂糖を持ってきてくれたんですね。これはお礼です」
私はテーブルにシュークリームとマカロンを大量に出し、新作のティラミスも1つ置いた。
「おっ、これは新しいな」
「名をティラミスという。食すと良い」
「ふむ。いいだろう」
赤竜は器用にスプーンを使うと、ティラミスを掬って口に入れた。
すると、先程までの怒り顔が嘘のように表情が蕩け出し、目元も垂れ目になっていく。
「う、うまい!!うまいぞ!!」
数秒で平らげてしまったため、お代わりのティラミスを出してあげる。
赤竜はシュークリームとマカロン、ティラミスを順々に次々と食べていく。
「凄い、食欲」
「態々、砂糖を持って来てくれたんたがら、いっぱい食べて下さいね」
「うむ。だがな、砂糖は次いでだ」
「次いで?」
赤竜はシュークリームを1個丸々口に運ぶと、咀嚼しながら話を続けた。
「ヤバイ奴が目覚めた」
「ヤバイ奴?」
「うむ。クリスタルタートルドラゴンが目覚めた」
「取ってつけたような名前」
ここまで食べる手も、咀嚼も止めなかった赤竜が初めて動きを止める。
「恐らく、この街に来る。気をつけろ」
「そのドラゴンは、強いんですか?」
「我からすれば強くはない。だが・・・」
「だが?」
赤竜は空になったティラミスの透明な器をコンコンと手で叩いた。
「奴は硬い。弱点もない。だから、少しづつダメージを与え続けるしかない」
「攻撃力はないけど、防御力が高い、そういうことですね?」
「そうだ」
「けど、ダメージは入る。なら、倒せる」
赤竜はリリのその言葉に頷くが、嫌な言葉を発した。
「倒せるが、我でも倒すのに100年はかかる」
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