第19話 冒険者ギルド、全壊





建物の3階部分が壊れ、木材やガラスが空中に舞い散り、誰が見てもこのままでは周辺の家屋や人に被害が出る状況だった。


だが不思議なことに、舞い散った破片はまるで生きているかのように方向を変え、風の鎖を纏いながら投げ出された男に向かう。



木材の破片が男に打ちつけられ、ガラスは皮膚に次々と突き刺さっていく。




これは、男の体に巻き付いている風の鎖で吸引を起こし、全てを引き寄せているためだ。





リリは初めから他には被害が出ないよう計算し、ターゲットはあるひとつの建物に絞っている。






その建物は、冒険者ギルド。






リリは、その幼さが残る見た目に不釣り合いな不敵な笑みを浮かべると、他の7人の男達も冒険者ギルドへ次々と投げ付けていく。



2人目の男は、先程破壊しきれなかった3階の残り部分に、3人目、4人目は2階部分に打ちつけられ、冒険者ギルドはみるみる崩壊して行った。





「な、何をしてるんですか!!」



破壊されていく冒険者ギルドの中から、以前私達の相手をした受付嬢が頭を手で覆いながら出てきた。




「気にしないで下さい」


「気にしないで、って。何をしてるか分かってるの!?」


「分かってますよ」


「だったら直ぐに止めなさい!!」




私は喚きながら話す受付嬢を冷めた目で見つめる。

こんな幼い見た目の私でも、受付嬢は強力な魔法が使えることが知っているからか、一瞬して顔が引き攣った。





「冒険者の問題は、あなた達ギルドには関係ないんでしょ?一切、関与しないんでしょ?誰かが暗殺されようとしてても、止めないんでしょ?」



「・・・!!」




受付嬢は何も言えずに固まった。


私もリリも、自分達で分からない内に冒険者ギルドに怒りを募らせていたようだ。



今回のお店への襲撃はもちろんだが、1番はアルネが以前から冒険者に命を狙われているにも関わらず、ギルドが何もしなかったことだろう。



お店の襲撃に関しても、依頼内容を精査もせず簡単に冒険者を派遣してしまうあたり、本当に救いようがない。





私が色々考えいる間もリリは男達を投げつけていて、いつの間にか冒険者ギルドは全壊していた。


全壊したギルドの周りには、避難したのか他の受付嬢や冒険者が集まっている。



冒険者の視線は私とリリを捉えているが、誰も向かってこようとはしない。

圧倒的な魔力を身に纏い、猟奇的に冒険者を投げつくているリリを見れば、そんな気は起こらないのかもしれない。





「それで、あの冒険者達の依頼主は誰ですか?」


「そ、そ、そんなこと、教えられません」



私は目の前で動揺している受付嬢に対し、更に距離を詰める。




「大体、予想はできてますけどね。だけど、今回は冒険者ギルドは関与しない、では済まないでしょう」



「・・・!?」



「分からないって顔ですね。だったら、教えてあげますね。ギルドが派遣した冒険者達は、この国の王女様を攫おうしたんですよ」



「そ、そんな!!」




偶々とはいえ、王女様が攫われそうになったのは事実であり、実際に護衛は被害に遭っている。




「民間組織とはいえ、さすがに国の調査がはいりますよ」



「わ、私は、し、知らない。ただ、冒険者を貸せとしか、言われてない」



「冒険者ギルドは、いつから殺し屋の斡旋になったのですか?」





私は溜め息を吐きながら言った。


表立った冒険者ギルドが暗黙で冒険者という殺し屋を派遣するなんて、この世界はどうなっているのだろう。



前世では、冒険者ギルドがどんなものだったかは分からない。

もしかしたら、同じようなものだったのかもしれない。



だけど、私とリリが大好きなマルティナは、正義感に溢れ、格好良くて、優しくて、憧れの冒険者だった。




それがどうしてこうなってしまったのか・・・






「ミミ、終わった。帰ってティラミス」



「分かったわ。ニコエルさん達も待ってるだろうし、急いで戻りましょう」






その場で両膝を着き、呆然としている受付嬢を無視して、私とリリは急いでお店まで戻った。





お店に戻ると、鎧を装備した騎士が50名ほど集まっており、馬車も何台か停まっていた。


お店の入口にニコエルさんとミレルさんがいて、私とリリの姿を見ると安堵した表情を浮かべた。





「ミミちゃん、リリちゃん。大丈夫でしたか?」



「はい。2人共、全然大丈夫です」



「ミミとリリなら心配してなかったけどね・・・」




ミレルさんは冒険者ギルドの方を見ながら、どちらかというと向こうの方が心配、とでも言いたそうだった。





「ミレル、それです。先程も言ってましたが、なぜ、ミミちゃんとリリちゃんなら大丈夫だと?商業ギルド職員なら分かるとも言ってましたわよね?」



「ニコエル様、気になりますか?でしたら、いったんお店の中に入りましょうか。ミミとリリなら犯人にも心当たりがあるでしょうし」



「そうなんですか!?わ、分かりました・・・」





ニコエルさんは騎士達に「誰も中にいれないよう」を告げ、周辺の警備も命じると私達お店の中に入った。



ニコエルさん、ミレルさん、リリと私の4人で椅子に座る。



リリは先程食べようとしてお預けをされたティラミスを食べ始めた。

正直、私も食べたいが王女様との話し合いの場で食べる勇気はない。


それにしても、男達に押し入られ、風魔法を使って拘束したにも関わらず、テーブルやその上にあったティラミスが無事だったのは今考えると凄いことだ。



ティラミスのために、リリが上手く立ち回り、風魔法を制御した成果だろうな。




隣で美味しそうにティラミスを食べているリリを見ながらそう思ったのだった。








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