第17話 王女様とコーヒー
アルネの右手を治療してから1週間が経ち、今日は商業ギルドマスターのミライさんと約束した王女様と会う日だ。
お店は定休日であるが、王女様がこのお店のファンということを聞いていたため、普段と変わらない店内にしておいた方が喜んでもらえるのではないかと考え、朝から準備を進めている。
ガラスのショーウィンドウにシュークリームとマカロンを並べ、ポーションも配備する。
ポーションは王女様のためでなく、今現在、店内の掃除を手伝ってくれているアルネ用だ。
アルネは討伐依頼で遠征に行くらしく、ポーションを買いに来たのだ。
定休日に来てしまったことへのお詫びということで、本人自ら店内の掃除を買って出てくれた。
「大体準備は終わりかな。アルネさん、ありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ定休日としらず申し訳なかった」
「アルネなら、いつでも歓迎」
リリが親指を立てながらアルネに言う。
アルネは笑顔でその言葉に応えると、棚からポーションを2つ持ってレジに置いた。
「アルネさん。遠征は討伐依頼なんですよね?少し、心配です」
「そうなんだ。ランクSのポインズンスネークの討伐にね。なに、大丈夫だ。ミミとリリのお陰で絶好調で、私もSランクに昇格したんだからな」
そう、アルネさんは右手が治ってから本来の実力が戻り、僅か1週間でSランクに昇格していたのだ。
このアスラーニ王国では唯一のSランクらしい。
そりゃあ、冒険者ギルドの怠慢によって冒険者が暗殺をすることに一生懸命になっているのだから、真面目に活動してきたアルネさんくらいしかSランクになれないよね。
「ふ〜む。ミミ、あれできる?」
「できるよ。瓶にお水入れてくれる?」
「了解と告げる」
リリはレジ横に水の入ったポーション瓶と置く。
私はそのポーション瓶に向かって魔法を唱えた。
【グラン・キュア】
うっすら緑がかった光が辺りに広がると、ポーション瓶の中に吸い込まれていった。
「うん。完璧」
「ありがとう」
リリはポーション瓶をアルネさんに手渡す。
「解毒ポーション。解毒以外にも、大概の状態異常を解除できる」
「そ、そんな希少なもの、い、いくらかな?」
「いい。ランクSのお祝い」
「そうですよ。その代わり、無事に帰って来てくださいね」
「本当にありがとう。必ず無事に戻ってくる!!」
アルネさんは力強くそう言うと、ポーションの代金を支払い、遠征に向かって行った。
アルネさんが店を出てから直ぐ、今度はミレルさんがやって来た。
「ミミちゃん、リリちゃん、おはよう。今日はよろしくねー」
「おはようございます」
「今日は朝から来客が多い」
「来客って、アルネのこと?さっきお店の前で会ったけど」
ミレルさんはお店の外を指差しながら言った。
話を聞いたところ、アルネさんとは知り合いらしく、商業ギルドで荷物の運搬を行う際の護衛には必ず使命しているそうだ。
「それにしても、定休日なのに店内はいつも通りにしてくれたのね。きっと喜ばれるわ」
「そうだとこちらも嬉しいです。普段は用意してないイートインスペースも作りましたし」
普段、このお店はテイクアウト専門でテーブルは用意していないが、今日だけは4人掛け用のものを特別に設置した。
「それで、いつ来る」
「そろそろ・・・」
コンコンッ
リリの問いにミレルさんが答えようとした時、お店の扉がノックされ、強面の男性2が入ってきた。
男性達は鎧など身につけず普段着だが、その顔付きは普段から戦いに身を置いている人そのもので、王女様の護衛だと容易に想像がついた。
店内の確認が終わると、華美ではないが洗練されたワンピースを身に付けた1人の女性が入ってくる。
「初めまして。ニコエル・ロヘル・アスラーニと申します。本日は無理なお願いを叶えてくださり、ありがとうございます」
「初めまして、王女様。今日は、よろしくお願いします」
「存分に楽しむといい」
「はい」
いつも通り物怖じしないリリの発言に冷や冷やするが、ニコエルさんは笑顔で返事した。
挨拶が済むと、ニコエルさんは護衛の2人に外で待つよう指示を出した。
護衛がいなくなると、王女様というよりはただスウィーツが大好きな1人の少女といった感じで、店内を見渡し、ショーウィンドウを食い入るように見つめている。
「うわぁ、これがスウィーツのマルティナなんですね。シュークリームとマカロンがこんなに並んでいます。感激ですわ」
「ニコエル様。今日は店内で食せる準備をしてくれているそうですよ」
「本当ですか!?嬉しいです!!」
ミレルさんの言葉を聞き、ニコエルさんは花が咲いたような笑顔を浮かべると、なぜか小走りで扉に向かい、外に顔だけ出して何やら話している。
すると、メイド服を着た女性がワゴンを運びながら店内に入ってきた。
「すみません。もしかしたら、シュークリームとマカロンを食べれるかもしれないと思い、コーヒーの準備をしてきちゃいました」
ニコエルさんは顔を赤くし、恥じらいながらそう言うと、最後に舌を少し出して戯けて見せた。
事前に年齢は15歳だと聞いているが、少女とも大人でもない絶妙なラインの可愛さを醸し出している。
しかし、今はその可愛さよりも、ニコエルさんが発した言葉に私とミミは驚愕していた。
「ミミ、聞いた?」
「聞いた。間違いなく聞いたよ」
私もミミも無意識にニコエルさんに熱い視線を向けてしまう。
「あ、あの、私・・・、やはり、コーヒー持参はまずかったでしょうか?」
「こ、コーヒー・・・、あ、あるんですか?」
「ええ。遠国から取り寄せてまして・・・。色も黒と良くなく、味も苦いため、王宮でも私以外は飲みませんが・・・」
「「・・・ださい」」
「はい?」
私とリリは王女様に近づき、真っ直ぐに瞳を見つめてお願いする。
「「コーヒー、ください!!」」
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