花に生きる

花楠彾生

花生の煩悩

 花の様に生きたいのだ。煌びやかで無くて良いから。淑やかに美しく、辛抱強く、それで居て可憐に。その様に生きてみたいのだ。

 そう生きられたのなら、どれだけ幸せであったのだろうか。唯の雑草である私には、一片の理解も出来ぬ。畑を荒らす、醜い雑草。棄てられ、煙たがられる、色の無いゴミ。そんなゴミが花の様に生きるなど、まるで馬鹿みたいだろう。君もそう思うだろう。そう思ってくれたら、幸いだ。


 混凝土の隙間から生える、蒲公英。彼女は、そこらの愚者ニンゲンより比べる程にも無く力強い。それで居て美しい。主張せず、何時死ぬかも解らない癖に、混凝土そこに存在し続ける。

 あの花は私の指標である。

 然し、私はあの花の様には生きられぬ。

 この名を持ってしても、私には花が似合わぬ。

 努力はしてもしても結ばれぬのだ。

 蒲公英は、今頃私を嘲笑しているのであろう。

 蒲公英は、私に何も授けてはくれなかった。

 花に相応しい者は、他に居る。そう思い知らされたのは、春頃であったか。

 ひとひらの花弁が散った。


 向日葵。それは私の苦手とする花だった。自信に満ちて、天真爛漫、この言葉が良く似合う花だ。同じ花なのに、私は、この花の様には生きたく無かった。

 そう、私は、一生掛かってもこの花の様に生きられる事は出来ぬ。

 天真爛漫になど、何時になってもなれる事が出来ぬのだ。

 物事を楽しむ事が出来ぬ。

 やはり私は陽に真向こうその花が苦手である。そう結論付けたのは、猛暑の日。

 ひとひらの花弁が燃え灰になった。


 死んだ鳩を横目に、私は枯葉を潰した。枝から落ちて死んだ葉を、私がもう一度殺した。胸が痛んだ。たとえ枯葉でも、名前のある生き物。それを私は殺した。胸ぐらい痛む。

 と言ってもそんな事、紛うことなき偽善だ。花の様に生きるのならば、多少の優しさも必要だろうと思ったのだ。

 まァ然し、殺したのも私である。そこに優しさなど、一欠片も無かった。もう諦めていたのだろうか。花の様になど生きれる訳が無いと。

 私もこの雑草の様に萎れて行くのだろうか。そう思案したのは、夏と秋の間。

 ひとひらの花弁が腐った。


 冬の花は、何処か、可哀想に見える。この寒い中、凍えながら咲いている彼ら。然し、まるで母親の様な暖かみを感じ取れる彼ら。私にとって同情すべき物であった。凍え萎れても美麗に咲く。春を待ち詫びる子供の様で。愛らしいとも思った。

 指先が痛む。何時かの日左手に出来た傷は、醜い痕になってしまった。愛らしさなど、いつか川に流してしまった。私に残ったのは、唯の馬鹿の考える願望のみだ。

 花の様になど、私に、その様に生きる事は出来ぬのだ。そう現実を見たのは、北風の吹き荒れる師走。

 ひとひらの花弁が凍えて砕けた。

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