第27話
『飛び出したのはかまいませんがどうなさるのですか?』
ひと気の無い裏通りを歩いていたら、ルリアに尋ねられた。
「犯罪者は警邏隊の詰め所に放り込まれるから、ソフィーはそこにいると思う」
詰め所の地下に牢屋があるのだ。直接見たことはないが、石造りの狭い部屋で真っ暗らしい。三日も放り込まれると精神的に追い込まれて、大人しく全てを話すようになるのだとか。
ただでさえ、メンタル弱者のソフィーをそんなところに放り込んでおけない。
「警邏隊の詰め所には常に騎士が詰めてる。元冒険者だったりなんだったりする腕自慢だ。全員、中級冒険者クラスの
「タイマンでやれば、負けはしないとは思うけど……」
『まあ、勝てませんでしょうね』
バッサリと切り捨てられた。
その意見に俺も同意だ。
対人戦において、
『騎士は人殺しのプロですわ。使う
「うるせぇな。メシ屋には有用なんだよ」
肉の保存とか熟成が自由自在なんだぞ!
『あなたの
騎士は冒険者より戦闘知能指数が高い。
魔物は事前に習性や行動パターンがわかっていることがほとんどだし、しょせんは獣程度の脳みそだ。だが、人間である騎士は、所持
と、魔術の師匠が言っていた。ついでに「十人くらい人を殺すまでは騎士とは絶対戦わないほうがいいよ」とも言われている。十人どころか一人も殺したことが無いので、場慣れという意味でも俺は不利だろう。たしかに今の俺の剣術は剣王級かもしれないが、人殺しの覚悟と気概があるかと言われると無いし、そんなモノを持ちたくはない。
更に俺の使える魔術が戦闘向きじゃない。
『ですから、あなたの元パーティーメンバーを殺しておくべきだったのですわ。殺人なんて要は慣れですもの』
「うるせぇ、悪霊。元勇者とは思えん発言だな」
『勇者なんて、そもそも戦争の道具ですわ。何千、何万と殺した者に贈られる称号のようなものですわね……』
無表情に言っていた。本人は誇りに思っていないのかもしれない。
『これから先、わたくしの復讐のために、あなたは何万もの人間の命を奪うのですもの。さっさと最初の経験を終わらせとくべきですわよ?』
「だから、俺は復讐なんてしねぇよ」
『でしたら、わたくしは協力しませんわ』
ニコリと微笑みながら言われた。思わず、絶句してしまう。
『あなたはわたくしが協力してくれると思っているようですが、わたくしの目的は復讐。そのためなら力を貸しましょう。でも、あなたの妹はわたくしの復讐に必要ありませんわね』
「てめぇに人の心は無ぇのかよ? ソフィーがなにしたって言うんだ? かわいそうだと思わんのか?」
『憐れだと思いますが、それを言うなら、わたくしの妹だって憐れですわ。でも、誰も助けてくれませんでしたわよ?』
言い返す言葉が、すぐには出てこなかった。
『人の善意なんてものを信じていては、いつか裏切られますわ。当然、わたくしもそんな感情、殺された時に捨てましたもの。ですから、なんの得にもならない協力はいたしません』
「……どうしたら力を貸してくれるんだ?」
『力なんて貸しませんわ。むしろ、ここであなたは妹を失うべきだと思っています』
闇より暗い瞳のままに、ニンマリと微笑んでいた。
『あなたがここで理不尽に妹を奪われれば、あなたの怒りは騎士へ、貴族へ、国へ向かうでしょう? でしたら、わたくしと同じ』
ルリアは俺に顔を思い切り近づけ、邪悪な笑みを浮かべる。
『あなたもわたくしと同じモノになればいいのですわ。そしたら、一緒に復讐できるでしょう?』
本当にこいつは心底悪霊だ。
『今から、無力な自分に絶望するあなたの姿を想像するだけで、ゾクゾクしてきますわね♪』
フフンと勝ち誇ったような目で俺を見下していた。なんてムカつく煽り顔だ。
こんなクズに慈悲や遠慮は必要無い。
「……いいんだな、それで。お前、本当にそれでいいんだな?」
声にドスを効かせてにらんだら、ルリアがかすかにたじろいだ。
『い、いいに決まってますわ! そうやって睨んでも、わたくしには通じませんわよ!! あなたも喪失の痛みを知るべきですわ!!』
「最後の忠告だぞ。悪霊」
『ふん! ハッタリで脅しても無意味でしてよ!! わたくしは絶対に力を貸し――』
瞬間、素っ裸にしてやった。ルリアは慌てて胸を隠しながら、その場に縮こまる。
『は、破廉恥ですわ! セクハラですわ! ケダモノ!! 淫獣! 性獣!!』
「安心しろ、悪霊。お前の羞恥心もすぐに消える」
『な、なにを言ってますの!!』
ケツを向けながらしゃがみこんでいるルリアの背中がある。俺は鞄の中から、数日前に買った粗塩と聖水を取り出した。
「悪霊退散!!」
ダブルでぶっかけた。
『ぴぎゃああああああああ!! いだいだいいだい痛いですわあああああ!! なんですの! なんですの! なんですのぉぉぉっ!!』
胸と股間を手で隠しながら飛びのいた。
「どうやら粗塩と聖水はお前に効果があるみたいだな」
『セクハラだけじゃ飽き足らずパワハラですか!? あなた、わたくしのいた世界だと秒で炎上案件ですわよ!!』
「うるせぇ! 役に立たない悪霊ならいらねぇんだよ!! 悪霊退散っ!!!」
叫びながら粗塩をぶっかける。
『ぽぎゃあああああああ!! どうして、婦女子にこんなことができますのぉぉぉっ!』
「ああ? 女だろうと男だろうと関係ねぇよ!! 男女平等だ、おるあぁっ!」
二本目の聖水を取り出し、ぶっかける。
「妹を失った痛みを知ってるくせに自分と同じモノになれだぁっ!? だから、お前は悪霊なんだよっ!!」
更に粗塩を叩きつける。
『や、やめてっ! やりますわ!! 協力しますわ!! ですから、ブチ祓うのはやめてくださいましっ!!』
半泣きで震えていた。
わからせは成功したらしい。
「いいか、覚えておけ、悪霊。俺はな、ソフィーと夢のためならなんだってする。そこが俺の譲れないモノだ。俺を煽るなら、もう少し煽り方を考えろ」
『わ、わかりましたから、早く服を!!』
無事、わからせられてくれたようなので、服を元に戻してやった。そしたら、ルリアは歯噛みしながら俺を睨んできやがる。
『セクハラにパワハラ……本当、どこに出しても恥ずかしいクズですわね、あなた!』
「ソフィー助けられるなら、クズにでもなんにでもなってやる。ゴチャゴチャ言ってないで俺に力を貸せ」
涙目のまま膨れっ面で俺を睨んでくるが、相手にしない。無言のまま粗塩を構えたら、ビクッと反応し、目をそらされた。怯えながらルリアが口を開く。
『……ぐ、具体的になにをすればいいのですか?』
「前と同じだ。俺を騎士相手に戦えるようにしろ」
修行内容を覚えちゃいないが、全力で修行はしたくないと思っている。魂が叫んでいる。提案したことを、すぐさま後悔した。
それでも、ソフィーのためにやるしかないんだ。
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