第37話 妖精王

 妖精王は人型の妖精で、その名の通り、妖精たちの王様だ。ただ、象徴であって実権はない。妖精界の実権は十匹のモフドラが握っていて、そのなかの最高位が俺だ。江戸時代の天皇と将軍の関係に近いかもしれない。


 俺はこの妖精王が嫌いだ。顔だけみれば、大層可愛いらしい女性なのだが、胸も腰のくびれもない男の体型で、中身が女だったり男だったりする。妖精には性別がないが、それは生物として雌雄がないだけで、精神的にははっきりしている場合がほとんどだが、こいつはイマイチよく分からない。


「ジルド、随分とご無沙汰ね。来てくれて嬉しいわ。ひょっとして守っていた人間が結婚したの? ようやく私の番かしら」


 今日は女か。ジルドというのは、妖精界での俺の名だ。何故かこいつは、ずっと俺を口説き続けている。


「あいにくお前の出番は永遠にない」


 王に対して俺が敬語を使わないのは、俺が三百歳超で、王が三十歳前後という年齢差もあるが、こいつに対して敬う気持ちが全く湧きあがらないためだ。


「いつも冷たいお言葉ですこと」


 妖精王にめげた様子はない。


 俺はこいつから三メートルほど離れて話している。ぺたぺたと触られるのが嫌だからだ。ちなみに今の俺は人型だ。妖精王は謁見する妖精の型を選択する権限があり、こいつはいつも人型の俺を選ぶのだ。


「神々との打ち合わせを設定して欲しい」


 妖精王には神々を召喚する権能がある。


「何のため? 特に今は神々との打ち合わせが必要な案件はないけれど……。まさか、個人的な用件ではないだろうな?」


 あ、男に変わった。ここは策を弄せず、正面からぶちあたってみるか。


「個人的な用件だ」


 妖精王は間髪入れず断って来た。


「職権濫用だな。却下する」


 やはりダメか。こいつは職務には忠実なのだ。


「お前を娶れば、俺が妖精王になれるというのは本当か?」


「あら? 考えてくれているの? 本当よ。私を妻にしてくれるならば、あなたに王位を譲位するわよ。妖精界待望のモフドラの王よ。でも、権能欲しさに結婚するなんて、私の体が目的なのねっ」


 ハンカチを出してきて、キーって言いながら、口で噛んで引っ張っている。こういう小細工を入れて、からかってくるところもかんに障る。だから、俺はこいつが嫌いなんだ。


 でも、仕方ないか。こうでもしないと、俺が単独であの女神に会える手段はないだろう。いや、ちょっと待てよ。今、ここであの女神を呼べば、そそっかしいから、妖精王が呼んだと勘違いして来たりする可能性はないだろうか?


 俺は試しにやってみた。確か召喚のセリフは、


「妖精王の名において、女神ラクタ様を召喚致します」


 だったっけ?


「ちょっとジルド、何を!?」


 妖精王が慌てているが、権能者でもない俺が言っても効果はないだろうに。


 ところが、女神ラクタは降臨した。


『ジルド、思い出したわよ。メグミとの賭けはあの子の勝ちね』


 念話は妖精王にも届いているようだ。


 女神はメグミがグレースに転生する際に、女神と交わした賭けの内容を話し始めた。

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