第33話 聖女襲名

 聖女の襲名の儀式は大聖堂の中で滞りなく進んでいた。


 ペドロを除いた枢機卿全員が参列している。また、国事でもあるため、国王夫妻、皇太子夫妻も出席しているが、全員顔色が悪いようだ。


 教皇が現在の聖女から「聖母のティアラ」と「聖母のロッド」を受け取り、それらがグレースに渡される。


 シルバは儀式の邪魔にならないように、グレースの足元で丸くなって寝ていた。


 現在の聖女はまだ若くて美しかった。最後に新聖女用に新たにあつらえた「聖女のローブ」を現聖女が手に持ち、グレースの後ろから肩にかけ、グレースがローブをしっかりと着用して、聖女の襲名儀式は完了した。


 ここに第二十八代聖女が誕生した。


 前聖女、教皇、新聖女の順で大聖堂から退出する。


 シルバが話しかけて来た。


『教皇のツルの一声で、聖女の譲位が決まったみたいだぜ。昨夜は泣いて眠れなかったってさ、聖女ちゃん』


(ほんと妖精って口軽いのね。私のことをペラペラ喋っていないでしょうね?)


『いやいや、妖精が喋るのは上位の妖精にだけだぜ。最高位の俺が喋るわけないじゃないか』


(そうなのね。それはいいとして、教皇と聖女の地位が同じといっても、政治力は圧倒的に教皇が強いのね)


『今はな。でもグレースが聖女になったときには、政治力も逆転するぜ』


(大人しくしていれば何もしないのにね)


『それ、キジも鳴かずば撃たれまいに、って前世では言ったんだぜ』


(なるほど、上手いこと言うわね)


 儀式の後、今後の簡単なスケジュール説明がシスターグレーから行われた。


 スケジュールの説明が終わった後、グレースはシスターグレーにマリアンヌについて話した。


「少し私も大人気なかったわ。妖精が強いと自慢したくなるものよ。私も以前はそうだったわ」


『今もだけどな』


(シルバは黙っていてね)


『はい』


「もう一度、チャンスを頂けるということでよろしいでしょうか?」


 シスターグレーが期待の目を向けてくる。恐らく新しいお付きが見つからないのだろう。


「ええ、でも、生意気な態度が変わらないようなら、次は殺すからね。それでもいいなら、お付きはマリアンヌでいいわよ」


「かしこまりました。早速マリアンヌに確認して参ります」


 シスターグレーはいったん退席した。


 するとシルバが念話で話しかけて来た。


『腹に一物持っている側近を泳がせながら使うなんて、すっごく格好いいじゃないか!』


(いや、別に格好良くないわよ)


 シルバは優しくて、気遣いがあって、格好良くて、料理も上手で、無敵で、しかも、子猫の見た目もキュートで最高なんだけれど、カッコいいの基準がよくわからないのよね。男の子ってことなのかな。


 しばらくして、シスターグレーがマリアンヌを連れて戻ってきた。どうやら、マリアンヌはお付きになるようだ。


『お嬢ちゃん、爺さんに汚名挽回するって言ってたらしいぜ』


 情報ダダ漏れだとは知らず、少し不憫ね。


「聖女様、先ほどは申し訳ございませんでした。私にもう一度チャンスをください」


 マリアンヌが先ほどとは打って変わって、神妙なものいいだった。


「いいわよ。でも、次に私を不遜な態度でイラつかせたら、殺すからね。心して尽くしなさい」


「か、かしこまりました」


 マリアンヌは覚悟の表情だ。せいぜい頑張って欲しいものだ。


 さて、神託はいつ来るのかしら。とても楽しみだわ。


 神託はその日の晩に転生を司る女神ラクタから下りた。

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