第11話 反撃の狼煙
神殿を出ると森の中だった
「王都にこんなところがあったかしら」
見覚えのない風景だった。私はあまり屋敷から外に出なかったため、王都にはそんなに詳しくない。
『上空に行けば分かるんじゃないか?』
私が返事をする前に、シルバは私ごとグングン上昇してしまう。
上空からみると、森ではなく公園だった。中央公園だろう。まだ、昼すぎの時間帯でかなりの人出だった。
「ねえ、シルバ、見つかったら大騒ぎになるんじゃないかしら」
右肩のシルバはいつもの通りの子猫ちゃんだ。猫の姿だと安心だ。人型は格好良すぎて落ち着かなかった。
『こんな上空を見るやつはいないさ。でも、一応簡単なプリズム結界を張っているから、下からは見えないようにしている。グレースのパンツを誰にも見せたくはないからな』
「そ、そうか。下から丸見えよね」
私は慌ててスカートを股で挟むようにした。
『ははは、大丈夫だって。それよりも、屋敷はどっちだ?』
「そうね、公園の北だから、こっちの方面かな? 母家建て直したみたいね。多分あれだと思う」
私は北の街中に一軒だけ広大な敷地を持つ屋敷を指差した。
『あれか! すごいな。この公園よりも敷地が大きいじゃないか。こっちが王宮かな。ほとんど王宮と同じだな』
王宮は公園の東側にある。
「王宮よりは少し小さくしているのよ。王様に勝っちゃうといろいろと面倒だからって、父が言ってたわ」
父がおどけた感じで私に説明してくれたことを思い出した。
『なるほどね。じゃあ、早速乗り込むか』
「え? いきなり?」
『おう、準備なんて必要ないぞ』
「作戦とかないの? 私はどうすればいいのよ」
『作戦なんてのは、立てないと勝てない相手にするもんだよ。今回の相手に作戦なんて要らないさ。グレースの好きなようにやればいい。俺が臨機応変にフォローするから』
すごい自信だが、大丈夫だろうか。
私が考え込んで黙っていたら、シルバは大丈夫、大丈夫と言いながら、屋敷に向かって飛行を始めた。
あっという間に屋敷の上空まで来た。母家はまだ完成していなかった。屋根の上で何人かが作業していた。
懐かしい離れが見えた。私の部屋は一番日当たりがよく、広い部屋だったが今はどうなっているのだろうか。
使用人の宿舎も見える。屋敷はほとんど変わっていなかった。
中庭に人が何人かいるようだ。あっ、あれはアニーとテイルだ! おのれ、どうしてくれようか。
「シルバ、あそこに使用人とは違う衣装の若い女の子が二人いるでしょう」
私はアニーとテイルを指差した。
『おう、あの二人か。何となくだが、美人さんか?』
確かにあの姉妹は美人だ。
「私ほどではないわよ。まずあの二人には地下牢に二週間入ってもらいたいわ。シルバ、二人の前に下ろしてくれる」
『グレースより美人はいないさ。よし、ド派手に降りるぞ』
***
アニーとテイルがいつものように中庭でお花摘みを楽しんでいたら、上空が徐々に暗くなっていることに気がついた。
テイルが空を見上げると、太陽が雲に隠れていくところだった。ただ、奇妙な雲だ。晴天のなかにただ一つだけ小さな雨雲が太陽を隠すためだけに浮かんでいるように見えるのだ。
「お姉さま、あの雲、おかしくなくって?」
アニーも妹に言われて上空を見た。すると雲から日の光が二本さして来て、アニーたちの少し前を照らしている。
不思議な光景に二人で見惚れていると、雲から二本稲妻が目の前の光の円の中に物凄い音を出しながら落ちて来た。
あまりの轟音に二人は心臓が止まりそうなぐらい驚いた。しかも、それが目の前に落ちたのだ。次は自分達かもしれないと思うと恐怖が込み上げて来る。
そのとき、もう一度、ドーンという轟音が鳴り響いたため、二人は腰を抜かして、へたり込んでしまった。
だが、今回は音だけのようだった。ふと気づくと目の前に一年前に追放したグレースが右肩に可愛らしい子猫を乗せて立っていた。
「グレース? 子猫?」
アニーがつぶやいた。テイルは目を見開いている。
私はシルバに文句が言いたかった。なぜこんな恥ずかしい登場の仕方をするのかと。
(シルバ、何でこんな演出するのよ。恥ずかしいじゃないっ)
『いや、格好良くないか?』
(普通でいいのよ、普通で)
『所詮俺は厨二病さ……』
(何訳わからないこといってんのよ。で、ここからどうすればいいの?)
『牢に入れって言えばいいんだよ』
テイルが驚きの顔から、不思議そうな顔に変わって行く。
「猫と喋って……」
まずい、シルバと話しすぎたわ。仕方ない、出たとこ勝負ね。
「ほほほ、お姉さまたち、ご無沙汰ね。今日からリッチモンド家の当主をやることにしたの。まずはお姉さまたちに、一年前に私を侮辱した罰を受けて貰うわ。これから地下牢に入ってくれる?」
ポカンとしていたアニーとテイルの顔が、意地の悪い表情に変わった。いいわ、その表情よ。そうでないと私も仕返しのしがいがないわ。
「グレース、あなた何か勘違いしてない? 当主はお母様で、私は第一王子の婚約者よ、未来の王妃なのよ。罰せるものなら、罰して見せなさいよっ」
テイルがいい表情で啖呵を切った。
「うーん、いい啖呵、頂きましたっ」
私はうんうんと頷いて、分かった分かったと右手を振った。
さて、シルバはどう料理してくれるのかしら。
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