第2話 溺愛家族とブラコン兄貴
僕は転生してから13年の月日が経った。
名前も変わらず"カイト"となり、転生前の記憶も失わずに無事に転生した。
あれからマーブル商会の次男として産まれた僕は楽しい日々を過ごしている。僕の希望通りにモブのように肌も白く、そんなに目立つ存在ではない。
「カイト今日も店番頼むわね」
「母さんわかったよ」
「さすが私の愛しの息子ね」
「おいおい、俺もしたいぜ!」
「父さんも?」
「別にいいだろ!」
僕は両親にキスをされた。どちらも僕のことを溺愛しており、思春期の年齢なった今も二人ともキスをしてくる。
そんな両親は僕と違って本当に顔立ちが良い。モブに生まれて申し訳ないと思うほどだ。毎日キラキラしている二人を見て、本当に転生してよかったと思っている。
「今日兄さんが帰って来る日だよね?」
「あなたが店番していると、喜んで帰って来ると思うからお願いするわ」
「わかった! 兄さんを待ってればいいんだね」
「じゃあ、私達は少しの間契約に行ってくるから頼むわね! 」
そう言って両親は家を後にした。
マーブル商会は大手の商会のため、実際は椅子に座って客を見ているだけで接客自体は他の従業員がしている。
なぜか僕が店番をすると、男性客が増え、店の売上が上がることに気づいてから、なるべく店番するようにしていた。
これも神様からもらった転生特典だと思っているが、実際は転生特典が何かは僕もわかっていない。
――カラン!
扉の方へ目を向けると、そこには小さい頃から常に一緒にいた人が立っていた。
「あっ、兄さんおかえり」
「カイト!」
兄は僕の姿を見ると勢いよく走ってきた。すると僕に熱い抱擁をする。
店の扉を開けたのは二歳上の兄であるタンジェだ。
この世界はスキンシップが多いのか、少し海外に近いようなテンションをしている。
「兄さん? どうしたの?」
「んー、会いたかった。もう離さないぞ」
兄のタンジェは客から見えないように僕を隠す。看板犬のような役目を果たしてる僕を隠していいのだろうか。
「兄さん? 先月も帰って来てたし、その時も同じこと言ってたよ」
学園の寮に住んでいるタンジェは基本的には学園にいる。時折、時間を作っては実家に帰ってきていた。
「そういえば、父さんと母さんは?」
「今仕事の契約に言ってるよ?」
「カイトだけで店番してたのか?」
「うん! でも、いつもの常連さんばかりだし、他の従業員もいるから大丈夫だよ?」
そう言ってカイトは周りに目を向け、目が合った人には手を振っていた。本当にこの人がこの商会を継いでもいいのだろうか。
「くそ! あいつらカイトを見るだけに来やがって……」
タンジェは何かしらコソコソと従業員に指示をして、その場で気を利かせた従業員は客に違う商品を勧めていた。しっかりと従業員が教育されているため成り立っているのだろう。
「兄さん?」
そんな中、何も知らないのは僕だけだった。僕は兄の顔を覗き込むように見上げると、綺麗な瞳と目が合う。
「あー、くそ可愛い! さすが俺の弟だ」
タンジェは僕を離さないと言わんばかりに抱きついてきた。このままずっと話してくれないのだろう。
――カラン!
「あら、タンジェおかえり」
扉を開けたのは母のユーリだった。
「ああ、母さんただいま」
「また立派になって」
「いや、兄さん先週も帰ってきてたよ?」
「あら、そうだったわね」
どこか母のユーリもおっとりとしており、天然なところがある。美人でおっとりしている性格って最強だ。
「ユーリは相変わらず抜けてるんだからな」
遅れて父のマーカスもお店に入ってきた。
「あなたには言われたく無いわよ」
「ユーリたんは怒っても可愛いな!」
「怒ってないわよ? ちょっと拗ねただけだわ」
「そんなとこも可愛いぞ」
「あなた……」
「ユーリ……」
2人は熱く見つめ合っていた。そんな様子を見慣れている僕達は立ち上がり、お店の手伝いをすることにした。
この二人は結婚してだいぶ経つが、常にラブラブなのだ。そりゃー、この二人に育てられた兄のタンジェもスキンシップが多くなるのは仕方ない。
「カイトは来週からの準備はできたのか?」
店の手伝いをしている僕にタンジェは話しかけた。
「んー、何がいるかわからないから後で兄さんに手伝ってもらおうと思って……」
「はぁー、なんでカイトはこんなに可愛いんだ。ここまで俺に頼ってくれるなんて」
タンジェはその場で呟いていた。弟を溺愛しすぎてどこか兄の頭のネジも飛んでいってるのだろう。
僕は来週から学園に入学することが決まっている。入学するには遅いが、貴族ではないただの商会である僕達は中等部から貴族達との関係作りのために学園に行くことになっている。
僕が待ち望んでいた、乙女ゲーム『恋する魔法学園』の舞台である学園だ。
「兄さん?」
「ああ、ごめんごめん! 後で一緒に準備しような」
タンジェはそう言いながら僕の頭を撫でる。成長したタンジェの手は大きくなり、つい気持ち良くなってスリスリしてしまう。
「うっ……」
急にタンジェの動きが止まり、その場でしゃがみ込んだ。
「兄さん?」
「ちょっとトイレに行ってくる!」
兄のタンジェは少し屈みながら、トイレに走っていった。急にお腹が痛くなったのだろう。昔からああやってトイレに駆け込むことが多かったからな。
「カイトどうしたの?」
「んー、やっぱ僕の魔法って不思議だなって」
「鑑定魔法のこと?」
「うん。みんな好きだから赤色ゲージは100%なんだけど桃色ゲージはやっぱりわかんないや」
「確かにカイトの鑑定魔法はあまり聞かないな。それだけ珍しいってことは神様にも愛されてるってことだな」
父のマーカスは僕を抱きしめると、母のユーリも混ざり、いつのまにか家族に揉みくちゃにされていた。
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