第二十三話 魔導競技体育大会⑥
『――残すは最終種目の騎馬戦だけとなりまーす。はぁはぁ、か、各チームでは最後の作戦会議が行われていますよー!』
シャーリー、凄いわ。途切れないアナウンスは既に伝説の域よ! このまま走り抜けて!
◆◆◆ 青チーム
「さぁ、皆さん頑張って下さい。我々の主な得点源は魔導射撃と想定していましたが、スリーA先輩の皆さんが頑張っていただいたのでトップを独走しております。最終種目は謎の騎馬戦となりますが、怪我に気をつけて頑張りましょう」
「はーい」
女子生徒達が手を挙げて返事をしている。
「では、参加する八人を全員で応援しましょう」
「はーーい」
「今回の衣装は可愛くて動きやすそうです。応援しています」
「きゃーー!」
「ヨーナス様、しっかり見ていて下さいね」
「はい。しっかり活躍を見させて貰います。頑張って下さいね」
「きゃわーーー!」
上がる黄色い悲鳴を無視して、他の男子生徒達は『三人の魔女』の方をまだ正座してじっと見ている。三人からは、もう溜息と文句しか出てこない。
「そろそろ恥ずかしいわ……」
「そうね、そろそろ普通に……しない?」
「えっ? まだやるのー……ふぅ……さぁ、お前ら、最後の戦いだ! ご褒美が欲しかったら気合いをいれなさい!」
「やるぞーーー!」
「おおーーー!」
呆れるスリーA。
「もー……何でやる気満々なのよ!」
「しょうがないわ。ここまで来たんだから勝つわよ、アリアーネ、アレクシア!」
「もちろん! じゃあ、ミレーネ、よろしくね」
「はいっ! がんばります!」
スリーAは身体が動かせれば結果はどちらでも良いので、最後まで全力で楽しむつもりらしい。
◆◆◆ 黄チーム
テントの外でイーリアスとサーガが話し合っている。
「馬上槍試合でもオレがトップ取ったからチームの総合得点は二位だぜ。これで、親父もそうそう文句は言うまい。後は、赤チームをぶっ飛ばせば、優勝なんざヨーナスにくれてやる」
「そうね。イーリアス君、感心しちゃうわ。ふふ、後はシャルロットさえ叩きのめすことができれば、優勝はスリーAにくれてやるわ」
「おっ! サーガ先輩、同じこと考えてましてか。優勝より対決ですよね?」
ニヤリとほくそ笑むサーガ。
「当たり前じゃない。では、優勝より対決で勝つことを優先しましょう」
「オッケーだぜ! 待ってろラルス! うはははっ!」
「ホホホ、首を洗ってお待ちなさい、シャルロット!」
二人の高笑いが響いていた。
◇◇◇ 赤チーム
「我が赤チームが総合優勝するには、この騎馬戦に勝つ必要がある。理解しているか、ラルス、シャルロット」
「あ、あぁ、してるよ」
「ふふ、リアちゃん、なんで伊達メガネしてるの?」
「シャル先輩、作戦会議する時は必要なんです」
作戦会議はこのスタイルよ。あん、『ちっちゃい子がなんか大人の真似してるみたい』ってニコニコ微笑まないで。こっちは真剣なのよ!
「では……まず、えーっと、リアちゃん、本当に騎手やるの?」
手を上げて大きくお返事!
「はーい! 絶対にやります。剣術だって絶対出たかったのにー」
皆の表情が『困ったな』って顔なのは何で?
えぇ、もしかして姪っ子か妹がわがまま言っている感じに思われてるの?
違うわよね?
戦略的にわたしが最適解よね?
「しょうがない。女子側はリアを騎手。シャルロット先輩が残りのメンバーを選出して下さい。女子にタックルは禁止なので、足の速さ重視で」
「こらっ、『しょうがない』とは失礼な!」
ちょっと、わたしは温厚だから良かったけど、下手したら流血沙汰よ!
「了解よ、ラルスくん」
あっ、シャル先輩のウインク、凄いカッコいい。憧れる。で、それにラルスはいちいち狼狽えてるのね。
それはそれで何故か少しムカつくわ。
「で、男子チームはどうするの?」
ラルスを見ると腕を組んで悩んでいた。そして、少しの沈黙の後、静かに変なこと言い出した。
「オレは先頭で騎馬をやろうと思う……」
事前の打ち合わせでは騎手をやると言っていたので、みんなもびっくりしてる。
「騎手じゃないの? ラルス、似合ってるのに」
「いや、男子はタックル有りだ。ならば、全ての男子チームをタックルで先に潰そうと思って……」
まさかそんな秘密作戦を考えているとは思わなかったわ!
「ラルスの作戦、凄い
思わず目がキラキラしちゃう。
ラルスもそこそこ自慢げのようね。腕組んだままうんうん頷いてるから。
「あなた達、似てるわね……」
えっ、あのラルスのカッケー作戦と同レベルを私に期待してるの? えへへ。
「センパイったらー。そんなに褒めても何も出ませんよ」
「あまり褒めないでください。照れます」
ラルスも同じように照れてるー。褒められても何も出ないわよね! 一瞬二人して見つめ合うが、ラルスはすぐに視線を外してしまう。
あら嫌だ、照れ屋さんね!
『――えーっ、みなさまー! 作戦会議はおわりましたかー? 選手の皆様は競技場までお願いしまーす』
シャーリーのアナウンス。よし、気合い出てきた!
「いってくるよー、応援よろしくっ!」
「じゃあ行ってくる」
赤リボンを外して赤いハチマキを締める。
わたしとラルスは同じタイミングで立ち上がり、同じタイミングで一歩目を踏み出した。五歩目にふと二人して見つめ合ってしまう。
ラルスから渾身の
喰らうが良い、
き、気合いで自然に振る舞ってるけど、隣のラルスが花バックに見える……。もう、ダメ、このままじゃ告白でもしそうよ! あっ、先輩、助けてー。
「せんぱーい!」
シャルロット先輩に抱きついて、精神を安定させないと!
「あら、寂しくなっちゃったの?」
「ふー、恐ろしい子……」
「何してんの? さぁ、最終決戦よ!」
この戦い……し、集中できるかしら……。
◇◇
赤、青、黄の三チームが競技場に騎馬を作って男女二組ずつで三角形を作るように並ぶの。各チームの精鋭よ。流石に自信満々で……あっ、シャーリーのアナウンスよ。
『――それでは今年の体育大会のトリを飾る騎馬戦を開始致します。では、選手紹介を……』
『――時間です』
『――えーっ! お願いよ、後生だから少しだけ、少しだけ紹介させて! お願いだからー』
赤チームのスタート位置は本部テントに近いのよ。シャーリーに手を振っちゃえ……ってエルヴィンの腕を持ってアナウンスさせてと懇願中。何してんのかしら?
あら、自分の胸にエルヴィンくんの腕を当てて交渉ね。シャーリーも手段を選ばずやってるわね。ほら、エルヴィンくん、もう落ちそうよ!
『――わー、わ分かりました。だ、だだだから肘に胸を当てないで! 手短にお願いします!』
『――ありがとう! んふふ、よーし、最後の選手紹介やっちゃうわよーっ!』
バサバサと台本をめくる音が聴こえる。
親友の変なテンションは何回聴いても最高よ!
『――トップを独走の青チーム、みなさんお馴染みの『暴風三姉妹』ことスリーAのアリス、アレクシア、アリアーネの三人が騎馬を務めます。この三人をどう捌くか、騎手はミレーネ、女子ながら馬上槍試合では四位の強者! さぁ、盤石の一手となるかー! あっ、男子もガンバッテクダサイ』
青チームのテント前に姿勢良く正座した男子が文句言ってるー。でも少し気持ち悪いから無視でいいわね!
『――次は二番手を走る黄チームからは『氷の女王』サーガ率いる女子チームと『剣術と馬上槍試合の二冠』イーリアス率いる男子チーム! 生粋の武闘派二人が登場だぁ! さぁ、優勝の栄誉を奪い返せるかー!』
あら、騎馬の上でイーリアスとサーガ先輩、凄い勢いで挑発してくるわ。
「サーガ……負けないわよ……」
でも、シャルロット先輩の闘志に火を付けたみたいね。ラルスも腕を高く上げちゃって、正々堂々やろうぜ、みたいな感じ?
きゃーーーっ! 今日はなんかダメー。何度も言うけどラルスが花バックでカッコよく見えちゃうー!
『――最後にー、『雷帝の後継者』ラルスが率いるのは三位に甘んじている赤チーム。騎馬役を担うという奇策で勝負を掛けます。自らの筋肉で活路を見出せるのか、乞うご期待! サブリーダーを務める『炎のプリンセス』シャルロットも騎馬役となり戦場を駆け抜けます』
あれ? わたしの『選手紹介』は? ちょっと、楽しみにしてるんだから!
シャーリーをじーーっと睨みつける。
『――あっ……ごめんごめん。リアも元気いっぱいにがんばってください』
「わたしだけ幼稚園のお遊戯みたいな紹介だなぁ……」
正直不満よ。でも観客のみなさんの盛り上がりは最高潮ね!
『――それでは、本日の最終種目の騎馬戦を開始します。各員、状況開始〜!』
最終競技の騎馬戦が始まるわ!
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