第二話 雷帝に勝てる、勝てるよー!②
「じゃあ、しっかり聞いてね。」
「剣技訓練の授業にも参加してないような小娘が生意気言うな」
イーリアスの辛辣な一言が少し刺さる。訓練に参加できないのはわたしの所為ではないのに……。
「えー、ひーどーいー」
「いや、本当に授業受けた事ないじゃん、リア……」
「そうだぞ! 剣技を魔導で強化する基本だって学べてないだろ! そんな細腕で実剣なんて振れるものかぁー!」
イーリアスがキレ始めた。
絶対に『俺の打ち込みを
ムカつくから反論もしてやらない!
「まぁまぁ、落ち着いて……とは言うものの……流石に……」
珍しくヨーナスがわたしを擁護してくれているけど劣勢だ。
「確かに基本すら学んでいない女の子に『勝てるわよ』と言われても……リア、どうする? 止めとく?」
シャーリーまで中止を提案。
「そうだな。ヨーナスのように魔導で攻撃をするとしても打ち込む前に向こうの攻撃を受ける事になる。お前が噂の『魔導の天才』だとしても……やはり剣技の基礎も学んでいないお前が役に立つとは思えない……」
ラルスも弱気。
「今からでも遅く無い……止めた方が……」
シャーリーは再度中止を提案。
ふん、どうするかなんて決まってるでしょ!
「さぁ、泣き言は終わった? じゃあ作戦を説明するわね」
仁王立ちで皆を無視して楽しそうに続ける。
「お、お前……」
皆の首がガクッと下がる。
『オレ達(私達)、全員真っ二つになる運命ってことね』という声が聞こえてくるようよ。
やっとこの試合の辞退を完全に諦めたかな?
「みんな弱気ねー。魔導の剣技訓練って言ったって、さっきも言ったけど、魔力が使えない状況になったらどうするの?
四人がジト目で睨みつけてきた。
な、何よ! 絶対に一番剣を振ったことが無いのはわたしって言いたそうね!
「何か文句ある?」
ここは勝負! あくまで強気よ。
「……いや、ない」
辛うじてラルスが答えてくれた。
よしっ!
「じゃあ作戦。シャーリー。あなた、ホントに雷帝の斬撃を防げるの?」
「んー……多分」
「防げるのかよ! あの『雷帝』の斬撃を防げると思うのか!」
「何回か訓練で打ち込みを受けた事はあるわ。勿論、本気の斬撃では無かったけど……それは今日も同じだと思うし」
言葉を失ってるラルスとイーリアス。
「…………ま、マジかよっ! 離れた場所から鎧ごと真っ二つになる、あの斬撃をかよっ!」
「噂のセカンドの記憶……という事ですか?」
ヨーナスが静かに尋ねるとシャーリーが考えながら答えてくれた。
「んー、セカンドだけでは無いわ。
絶句してる皆さん。わたしは絵本で何度も読んでたからね。
「やった! じゃあ防げるだけ防いでね。多分スパスパって遠くから真っ二つにして来ると思うのよ。それをがんばって防いでね」
「ホントに防げるかはやってみないと分かんないからねっ!」
「うん。防いでいると多分こちらに向かって来ると思うの。そこで秘密兵器を出すわよー。ふふん! 雷帝をぶった斬るわよー!」
思わずブンブン剣を手に持たず素振りをする。
「いや、無理だろ」ラルス。
「斬られるのはお前だろ」イーリアス。
「間違いないですね。リアさん、あなたもまとめて真っ二つです」ヨーナスと続いた。
この三人、往生際が、悪いわね。
「そうね。流石に私も長くは持たないから、近づかれて終わりかな」
「シャーリーも! もっとポジティブにいきなさいよ! あなた達は隙を見つけて好きに攻撃しなさい」
「なっ……」
「気合い入れなさい! 一撃位は雷帝に入れてみなさい! ほらっ、シュッシュッ!」
ほらほら、パンチよ! 雷帝、わたしのシャドウボクシングを見て恐れ慄くが良いわ!
「む、無茶言うな! ラルスもヨーナスもなんか言えよ!」
「女の子に励まされるとは……わかった。一撃は入れよう」
頷くラルス。
「ラルスも感化されるんじゃねー! ヨーナスはどうだ!」
「何かこういうのも良いですね。ラルス、イーリアス、覚悟を決めましょう」
諦めて喋りながら手袋やブーツをチェックし始めるヨーナス。
「お前もかっ!」
ニンマリよ!
最初から負けると思っていたら、勝てる試合も勝てない。前世で言われたことを思い出す。
「もういいか?」
あら、雷帝さんったらにっこり微笑んでるわ。皆には不敵な笑みに思えるみたい。だって全員固まってるもの。
「あっ、わかりましたー。じゃ、作戦通りねー」
「うぅ……リア、あまり期待しないでよ……」
「ううん。期待してるよー」
背後からシャーリーに飛びつく。覚悟が出来たのか、もう震えたりはしてないわ。
「げっ、忘れてた……今から真っ二つか……」
「まぁ、リアさんのおかげで緊張は解けたかな」
「そうだな。リアに感謝だ。さあ、日ごろの訓練の成果を見せるとするか!」
少し声が震えてるけど、男子三人も諦めたようね。
「さぁ、戦いの場に出向くわよー!」
久々の試合会場……武者震いを感じるわ。
ふふふ、適度な緊張感。これよ、これっ!
県大会二回戦以来の試合よ。
この『訓練の間』って場所、負けると凄い事になりそうだけど……ダメね……三年ぶりの試合となれば恐怖よりワクワクが勝っちゃうわ。
◇◇
雷帝は『訓練の間』の真ん中に陣取っている。そこで、わたし達とラルス達は対角線上に位置を決めた。
「いよーっし! 雷帝! かくごー!」
十歳の少女が
雷帝越しにラルス達を見ると……震えてるわね。ふふふ、あっちの震えは武者震いじゃ無さそうよ。
「では、訓練を始める」
雷帝自らの声が聞こえてきた。
そしてそのまま魔剣を振るう。
雷帝の斬撃は雷鳴の速度で離れた相手にも襲いかかる。
ここで大体は真っ二つになるらしい、がシャーリーの魔剣は初撃を受け止めた。とはいえ受け切れない斬撃で腕や足から血飛沫が飛んだ。
「う、受けれたぁ、けど……いったーい! うぅ、剣筋分かんない……リア、長くは保たないよ!」
「すごーい、シャーリー最高よ! じゃあ、もう少しだけがんばって!」
「だから、それが無理だっていうのよ!」
雷帝が微笑みながら涙目のシャーリーとわたしの方へゆったりと近づいてくる。時折、致命傷を与える斬撃を飛ばしながら。
さぁ、秘密兵器の準備! シャーリーがバラバラになる前に終わらせるわよ。
深呼吸を一回してから掌を競技場の外に向けた。
「炎よ、集中しろ! 炎よ、集中しろ!」
火炎放射器の様な火炎が噴き出るが、徐々にガスバーナーの様に炎が青白く細くなる。
「もっと、もっとよ。細く、そう、レーザーの様に!」
「きゃーー! 痛いんだから早くしてよっ! レザー? 何なのそれっ!」
時折悲鳴を上げるシャーリーが斬撃を受けながら叫ぶ声が聞こえる。
がんばって。わたしは掌に集中しろ!
「炎よ、集まれ、炎よ、融合しろ、レーザー光線の様に!」
右掌から噴き出る炎は徐々に細くなり三メートル程度の剣のようになる。
「違うっ! ライトサーベルじゃない! もっと、細くなれる、細く、長くっ!」
ほら、精霊達、しっかりイメージを共有しなさい!
テレビで見たアニメ映画のロボットから撃たれた光線よ。ビューンてまっすぐ飛んでって教会の尖塔を爆発させたアレよ。それか、お父さんに無理矢理連れられて映画館で観た怪獣映画のクライマックスでビルやヘリコプターを叩き斬った、あの熱光線よ。
分かる? ほら、精霊達、分かる? 分かる?
背後からシャーリーの悲鳴が聞こえる。その度に冷や汗が身体のそこかしこから噴き出る。胃から何かが上がってきそう。それを意識するとわたしも叫びそうになる。シャーリーを抱き止めて、『もう良いよ、ゴメンね』と叫びたくなる。
でも、もう少しだけ我慢して!
絶対に、わたし達の矜持を踏み躙ったコイツらに目にもの言わせてくれる!
火炎が出続ける掌。
そうか、もっと指の隙間を細くすれば。
小指と薬指を曲げて指を三本にして集中すると徐々に炎は糸の様に細くなる。
「炎よ、集まれ、レーザーの様に!」
オタクの幼馴染が早口で説明してくれた
あの時は世界で一番つまらない時間だと
「炎よ、炎よ、『荷電粒子の炎』よ、『プラズマの炎』よ! 細く、長く、集束しろっ! どこまでも、どこまでも、永遠に長く伸びろーっ!」
――曖昧な原理でも、精霊達はリアのイメージを元に現象を作り出してしまう
この世界の人々には決して想像すら出来ない現象。
外壁に突き刺さる細く赤い線。それは全てを焼き切る射程距離無限の熱線。
準備完了! やっと標的の方を向くと明らかに目が合った。ニンマリと微笑んでやがる!
ここで逆にゾッとする。わたし達の企みがバレた?
明らかにわたしを標的にロックオンしている。『ほほう、あの金髪の小さい方が切り札か? では、粉砕するとしよう』とか考えてるわ。
すると、
「あははっ! 来た来た来たーっ! リア、来たよー!」
横のシャーリーがハイテンションに叫んでいる。
その時、ふと気付いた。既に顔にも酷い裂傷が付いている。出血多量で意識不明になってもおかしくない出血。血塗れのシャーリーを見て自分の軽い提案の業の深さに涙が出そうになる。
でも、ここで二人の意識がピタリと一致した。
「よーし、こっちも来たよー! 全てぶった斬れろー!
雷帝に顔だけ向けて叫ぶ。
「略してーっ、
面打ちをイメージして手を十メートルほど前方の雷帝目掛けて振り下ろす。すると、赤い光線が、後ろの壁から上空に、上空から雷帝に襲い掛かった。
流石は雷帝。瞬時に反応して赤い線を魔剣で防ぐ、が防ぎきれない。剣筋と違ってライン上全てが攻撃範囲だ。右腕が手首の辺りでちぎれかける。
「ぬっ……」
すかさず赤い線で円を描くように雷帝を攻撃。右目を潰し左肩、左太腿に酷いダメージを与えた。
雷帝は辛うじて魔剣を左手で構え直す。
「雷帝に勝てる、勝てるよー!」
シャーリーがハイテンションのまま高笑いし叫ぶ。
「やった、雷帝覚悟ーっ!」
わたしも釣られて叫ぶ!
ここで、雷帝は勢いを緩めずそのまま突っ込んで来る。勢いを止めるより、そのまま突進を選択したようだ。
「よーしっ!」
魔力切れが怖いからトドメはわたしの華麗な面打ちで仕留めるわよー!
「いざ、尋常に勝負〜! め〜んっ!」
シャーリーは逆に突然に左手一本で魔剣を持って構えを下げてしまった。逆に右掌を雷帝に向けている。
あら、いやだ。シャーリー、あなたも必殺技があるのね!
シャーリーが鬱憤を晴らすような声で叫んだ。
「爆炎魔導フルパワー! 喰らいなさい!」
まず、イメージ通りの軌道で剣先が雷帝の頭部に向かう、が当たる直前で首を少し傾け剣を肩で受けた。血飛沫が少しだけ飛んだのが見える。
その瞬間、完璧なタイミングでヨーナスが放った爆炎魔導の十倍くらいの大きさの火炎球が雷帝を襲う、が魔剣であっさり防御された。
遥か後方で三人組の服だけが燃え上がった。
「あれ?」
「あれ?」
至近距離の雷帝が左手で魔剣を振る。なんとシャーリーが袈裟斬りで肩から脇腹へ真っ二つになる。
あー、ホントに真っ二つになるんだー。
すごーい……。
次の瞬間に雷帝は返す剣でわたしの胴体を横に薙ぎ払った。途轍もない痛みと、身体の中のとても大事なものが大量に出ていく経験した事がない感触に思考が耐えられない。そして自らの意思とは関係無く視界が突然傾いたところで…………わたしの意識は無くなった。
◆◆◆
ここで唖然としていたラルスが女子二名の奮闘に感激して叫ぶ!
「凄いぞ、臆せずに戦いきった! 我々も遅れるな! 横列隊形を維持のまま行くぞー!」
三人が一斉に雷帝に突っ込む。
しかしイーリアスとヨーナスが途中から一瞬遅れる。ラルスの尋常では無い速度の突撃。
鋼鉄の剣が歪むほどの剣速で剣を振るう。
雷帝は
粉塵が舞い衝撃音が響く中で
「強くなったな……」
と優しく呟いた。
直後にイーリアスとヨーナスが完璧なタイミングで左右から同時に斬撃を振るう。
だが、雷帝は魔剣を横に振り払い、あっさりと三人をまとめて真っ二つにした。
「ふはははっ! 楽しかったぞ! やはり若者と戦うのは命の洗濯だ!」
復活し始めている五人の死体の真ん中で高笑いしながら訓練場を後にした。
雷帝は魔剣から迸る魔力が強過ぎる為か『訓練の間』に満ちている再生の魔導が効力を発揮しない。修道士に教会術式で回復させてもらう必要がある。
「むむ、血が流れ過ぎては不味いな。ここで死んでも正直満足だが、こ奴らに無駄なトラウマを植え付けてもいかんか……」
片足を引き摺りながら訓練場を後にした。
◇◇◇
「うーん……あいたたたっ……あっ! みんなは?」
起きあがろうとしたが足に力が入らない。ふと下半身を見てしまった。
「ないっ!」
腰の辺りで真っ二つになってるーーー!
痛みより斬られた場所から内臓をこねくり回す様な感触……初めての感覚よ
「快感……な訳あるか! 気持ち悪ーーーい!」
うはぁっ! 足がもちろん動かない……いや、動き始めたぁ、上半身と下半身がくっつき始めたーーー!
「ひぃー……」
もう一度小声で悲鳴が上がる。
わたしはもう一度、意識を失った。
第零章 End
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
ここで、この物語は少し時間を
この物語の主人公リアの話をしましょう。
この少女が苛烈な運命に逆らう戦いの話をしましょう。
この少女に待ち受ける恋の話をしましょう。
この少女と共に笑い、怒り、戦う仲間達の話をしましょう。
それでは、少しだけ時間を遡って、この話を語ることにしましょう。
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