第12話 味噌と醤油 その2

side:マリエール




朝、目が覚めると


木戸で閉じられた窓の隙間から、うっすらと光が射し込んでいるのを確認してから窓を開けると


爽やかな風が眠気を吹き飛ばしてくれます。


まだ東の空が白んでいて夜明けまではもう少し時間がありますが、そろそろ『飯処・政』に向かうとしましょう。


時間は有限、1秒も無駄には出来ませんからね



外に出ると自分の身体に素早さアップの魔法をかけます。これで普通に歩くだけでも走るのと同じ速度での移動が可能になるのです。



まだ人通りの少ない街を早歩きで目的地に向かえば、あっという間に到着です♪



『コンコンコン』


「おはようございまーす、マリエールでーす。」


『ガチャ』


「おはようお嬢さん、本当にこんな早朝に来たんだな」



『飯処・政』のドアが開いて店主のマサさんが出て来てくれました



「はい、昨日約束しましたから♪」


「約束を守るのは大事だが、、、まぁ良いか、入りな」


「それで菌は無事に増えましたか?」


「おぅ、無事っつうか増え過ぎたくらいだから、最初は味噌だけ作るつもりだったんだが醤油も一緒に作る事にした」



マサさんの後に続いて厨房まで来ると、確かに2つ分の桶と材料が用意されていました


菌、大豆、塩に加えて醤油の方には小麦が用意されています。



「マサさん、早速始めましょう!何をすれば良いですか?」


「大豆を潰してから材料を全部混ぜて桶に入れるだけだ。始めよう」



わたくしとマサさんは手際よく材料を混ぜて、どんどん桶に入れて行きます。




「ふぅ~、終わりましたね。さあ次の行程に行きましょう!」


「普通はここから1年くらいかけて味噌と醤油になるんだ、その間の温度管理や定期的に撹拌したりって作業の繰り返しになる」



「なるほど1年ですか、生産量が少ない訳が分かりました。しかし1年もかかるとなるとやはり島国に行って手に入れるしか」


「おいおい、結論を出すには早いぜお嬢さん。昨日の魔法を使えばかなり時間を短縮出来ると思わないか?」


「なるほど♪むぅ、、、、、はっ!これでしばらく様子見でしょうか?」



「もしかして昨日と同じ魔法をかけたのか?」


「そうですけど何か問題でも?」


「問題は無いが、結構な数の魔法を無詠唱で1度にかけたって事だよな(汗)お嬢さん本当は暗殺とか諜報とか特殊な訓練を受けてたりしねぇよな」


「そんな物騒な訓練を受ける訳無いじゃないですか、わたくしを何だと思ってるんですか!全ては努力の賜物です。」


「あっ、あぁ、努力は大事だよな」



「そんな事より醤油の方から泡が出てますけど大丈夫なのですか?」


「たぶん大丈夫な筈だ、完成前の醤油を1度見た事があるがその時も泡がぶくぶく出てたからな。味噌の方も多少色が変わって来てるし、このペースなら2~3日で完成するかもな」


「完成まではずっと見ていないと駄目なのですか?」


「魔法を使って作るなんて初めてだからな、目は離さん方が良いだろ。ヤス、こっち来て味噌と醤油を見てろ!」


「へい、了解です!」



「でだ、お嬢さんにはコレを受け取って欲しい」



そう言ってマサさんが差し出して来たのは小さな小瓶が2つ、片方には黒い固形物が


もう片方の瓶には黒い液体が入っています。



「マサさん、これはもしかして味噌と醤油ではないですか?」


「もしかしなくても味噌と醤油だよ。仲間に声をかけて残ってたのを貰って来たんだ」


「とても貴重な物を何故わたくしに?」



「貴重だからこそお嬢さんに貰って欲しいんだ。次に島国から荷を乗せた船が来るのは約半年後、当然味噌と醤油も持って来るだろうが皆で分けると1人につき500グラムも無い


だが、いまやってる味噌と醤油作りが成功すれば問題が一気に解決するんだ、お嬢さんは味噌と醤油を見た事も無ければ味も知らないんだろ?


それならちゃんと味を知って貰って、旨い味噌と醤油を作って欲しいと思ってな。期待してるから遠慮無く受け取ってくれ」



「何気に物凄くプレッシャーをかけて来ますわね」


「俺達にとって味噌と醤油ってのはそれぐらい大事なんだよ」


「良いでしょう。ではマサさん、島国の歴史から教えて頂けますか?」


「は?、、、それは今必要なのか?」


「何を呆けた事を言っているのですか!美味しい味噌と醤油を作るには、島国の成り立ちから知らねばならないのは常識でしょう。歴史の次は島国の気候風土や地域別の郷土料理等々、教えて欲しい事は山ほどあるのですよ!


味噌と醤油が完成するまでの数日間は目が離せず泊まり込みになりますから、マサさんとヤスさんで交代で教えて頂ければ時間の有効活用にもなって一石二鳥ではありませんか♪」



「あの、お嬢さん、俺も教えるんすか?!」


「勿論です♪立場や物の考え方によって色々と変わりますからね、多角的な情報は貴重です。」



「もしかして俺は関わっちゃいけねぇ人に関わっちまったんじゃねぇか?」


「マサさん!ぶつぶつ独り言を言ってないで始めますよ、島国の始まりは何年前ですか?祖先は?纏め役は何代目ですか?信仰する神は?気温、湿度、雨量、降雪量は?etc...................」






つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る