第3話 薄味屋

side:マリエール




「それでは、本日も『薄味屋』開店です。皆様よろしくお願い致します。」


「「よろしくお願いします!」」




カイル・ベイジェッツ公爵様に無事婚約破棄された翌日


わたくしは予定通りにシュヴァイツァー公爵家から放逐処分となりました。


はっきり言ってこれはパフォーマンス以外の何物でも無いのですけれど、一方的に婚約破棄されたわたくしが居ては


シュヴァイツァー公爵家に迷惑がかかってしまいますから仕方ありません。


今さら貴族の殿方の妻になる気はありませんから不都合は無いのですが


急に平民として生きていくには無理がある事は分かっていましたから、事前準備はしておりました


それが今日この日の為に1年前にわたくしが作った


『薄味屋』というお持ち帰り専門のご飯屋さんです。



店名が少し微妙な気もしますけれど、ちゃんと意味のある名前なのです!


店名の説明は後でするとして、このお店は公爵令嬢だったわたくしの個人資産とシュヴァイツァー公爵家のコネを存分に使いましたから


1年前の開店初日から、貴族や兵士の皆さんから沢山の注文を頂いて今も繁盛しています♪



とは言え


いくら公爵家のコネを使ったとしても、それだけで1年もの間人気が続く訳ではありません


ここで店名に繋がるのですが、我が国は料理に使うスパイスの生産大国であり


その中でも100種類以上の唐辛子を栽培している事で他国にも知られております。



そのお陰で唐辛子をメインに使った多種多様で刺激的なスパイス料理が存在してどれもとても美味しいのですが、1つだけ問題があります。


甘味のある唐辛子や良い香りのするスパイスもあるとは言え、どれも辛いのです!


辛味の程度に差はありますが、どの料理も辛いのです!



元気な時に食べるなら美味しいスパイス料理も、疲れた時や病気になって体力が落ちた時には


刺激が強過ぎて全く喉を通って行かないのです(泣)



スパイスを使わない刺激の無い料理も存在はしますが、人気が無くて積極的に作る人が極端に少ないせいで


味の研究も進まず美味しい料理はほぼ皆無!



そこでわたくしは考えました、他人と同じ事をやってもライバルが多くて生き残るのは至難の業


それならライバルが居ない所でなら成功する確率も高いのではないかと


事前調査では3日に1度くらいは、刺激の無い料理を食べたい人が一定数居る事は確認していましたから


料理に関する本を読み漁り見付けたのが、とある島国の料理です!



島国の気候がスパイスの栽培に適していない為に、独自の食文化が発展した国らしいのですが


大豆から作った調味料で味付けしたスープに大豆で作った具を入れたり、海の魚を大豆から作った調味料を付けて食べたりと


とにかく大豆が好きな変わった国らしいのです。


残念ながら調味料の詳しいレシピは見付かりませんでしたけど



干した昆布、干した魚、干したキノコ等々、日持ちのする乾物は少量ながら市場に流通していましたので


それらを使って『薄味ご飯』を作る事に成功したのです♪


『薄味』と言っていますけど、スパイスの刺激が無いだけで島国独自の『出汁』でしっかりと味付けしていますのでご心配なく



今1番人気のメニューは『だし巻きたまご』と『茶碗蒸し』でしょうか


毎日朝食に食べたいと予約の段階で完売しているという嬉しい情況ではありますが


生産量を増やすにしても、わたくしのお店で卵を買い占める訳にもいきませんから


シュヴァイツァー公爵家で養鶏を始めようかと計画中ですが、実現はもう少し先の話になるでしょう。



わたくしがこれほどまでに『薄味料理』にこだわるのには当然理由があります。


生活の為という目的もありますが、1番の目的はナタリア様に食べて頂く為なのです!


件の島国を調べてみると、どうやら長寿大国でもあるらしい事が分かりました


長寿の秘訣は様々あるのでしょうけど、出汁を効かせた『薄味料理』がその一因になっているのではないかとわたくしは考えています。



これは是非ナタリア様にも食べて頂いて長生きをしてもらわなくてはなりません!


長生き=健康


である事は常識ですから、ナタリア様に毎日を健やかに過ごして頂く為に


わたくしは今から食べると寿命が延びると言われている、『自然薯』を掘りに行くのです。


待っていて下さいナタリア様


あなたの健康はわたくしが守ってみせーる!






つづく。

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