第6話 作業前に場を確保するのは大切です

「壊す範囲と深さは大体特定できました」


 なんだか満足げに言ってから、ナオキがへたり込んでいるナザリオに目をやった。


「これは君らには過ぎたオモチャだから、オレが責任もって破棄はきするよ」


 もちろん答は求めていない。


「どうやってぶっ壊すんだ?」


 なにやらワクテカしている年寄が一人。

 そして


「壊しても大丈夫なんですか!?」


 となにやらビビっている若者が二名。

 残る若者一名はどうやら、自分の思考の中に現実逃避しているようだった。


「相談なんですけどね、お義父とうさんのバックホー借りられませんか」

「ん?ここに持って来れて、使い終わったら送り返せるんなら、別に構わねえよ。オペレーターは俺がやってやる」

「ありがとうございます。魔法で壊しても良いんですけど、あんまり効率よくないもんで」

「バックホー持ってくる方が大変なんじゃねえの」

「そうでもないですよ。軽トラとかうちのハイエースくらいなら、持ち込むことありますし」

「ハイエースってあれか、仕事用の」

「いつものあれです。工具もってるんで、あれもバックホーと一緒に取り寄せます」

「大丈夫なんかい」

「大丈夫ですよ、この骨董品こっとうひんは使いませんから」

「ん?ナオキ君、取り寄せの道具っつうのか、なんてぇんだ、必要な工具は持ってきてんのか」


 作業服姿のナオキを見ながら、義父が首を傾げた。

 なにしろ道具入れも下げていないのだから、首の一つも傾げたくはなるだろうが、しかし。


「ハイエースに転移用の機材積んでて、オレが呼べば起動するようになってます。で、まずハイエースから呼び寄せます。それからお義父さんのバックホーを借りようかなと」

「ああ、そういう手順かい。わかった、どの辺に出すんだ」

「できればハイエース呼び寄せの衝撃しょうげきで、らんものもついでに壊したいですね……」

「あいつら邪魔だな」


 あいつら、と障害物扱いされたのは、もちろんナザリオ他のこの土地の面々だった。


「え、があったらそれまでなんで、オレは気にしないですよ」

「あのなナオキ君、外面そとづらは取りつくろって発言しようや」

誘拐ゆうかい犯ですよ?誘拐ゆうかいやってる犯罪組織のトップですよ?つぶれたらそれまで、で良くないですか、あれ」

「良くないですよ!」


 若者二人が口をそろえて叫んだ。


「みんな優しいなあ……イノシシと違って、ぶつかっても車は壊れないんだし、気にしなくていいのに」

「人がぶつかったら多少は壊れるだろ。それに壊れなくても、あれを潰したら車汚れるぞ?」


 何かさとったような顔で、義父はツッコミをいれた。

 年も行っているだけに、若者と違って割り切りも早かったようである。


「あ、掃除そうじする手間賃てまちんも出ないのに、それは嫌だな」

「判ったんなら、あいつらどうにかすっか」


 ため息をつきながら歩きだそうとする義父を、ナオキが肩を叩いて止めた。


「そこらもオレがやるんで大丈夫です。あれ、触ると手に匂いが移りそうですよ」

「怪我しねえようにしてやれよ?」

「多分大丈夫ですよー」


 そして、指をあげてクルクルまわすと、周囲に暴風が吹き荒れた。


「……雑に掃除そうじしたな」

「あの重量を動かそうと思うと、風も強くなきゃ無理なんで」


 部屋の片隅に、ごみと一緒に人間が吹きだまっていた。


「……めっちゃ雑に扱われてる」

「気にしない、気にしない。さて、ちょっと集中するから、何か聞きたかったら後で聞いてね」


 そしてやらかした中年美エルフは、何か言いたげな若者の視線は気にしなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る