フォールフラワー
みちづきシモン
作品本文
第1話「フラワーキングダム」
華やかな街並み人が行き交う大通りにあるとある店に、少年らしさの残る青年がこの国の正装を選んでいた。十八歳になると成人の儀を行うのが習わしで、当然その店で正装を選んでいるのは彼だけではなかった。
フラワーキングダム。かつて戦争の引き金を引いた凶悪な国とは思えぬほどの平和な国である。
「へぇ、君珍しいね」
若い店員さんがある男の子に声をかけた。どうやら外見が目に止まったらしい。男の子は身長はそれほど高くないにも関わらず、真っ直ぐな姿勢で高身長に見える。
コバルトグリーンの髪に、右眼はヴァイオレット、左眼がアンバーといったオッドアイ。そんな風貌だから嫌が応にも目立つのである。
「選んであげよっか?」
優しい笑顔で話しかける店員は、どうやら商売用の笑顔ではなかった。色眼鏡で見られるのは慣れているらしく、彼は丁寧に断った後即座に服を選び手渡した。彼女の好意を無下にしないように優しく笑いかける。
「この服を貰えますか?」
商品を受け取ると、小さく会釈してその店を出る。
彼の名はアルズ=ハイルアーイラ。
成人の儀に急ぐ彼は周りで騎馬する人を抜けて会場へと向かった。更衣室で着替えをし成人の儀に望む彼は式会の最中、あたりを見渡していた。
自分と同じバッチの人をさがしていたのだが、やはり中々見つからない。早々いるものではないと聞かされはしていたが、それでも自分と同じく王国魔法騎士の試験に合格している人がいないかと思ったのだ。
若くして合格した彼は孤児院で育ったせいか、同期の友と呼べる者がほぼいない。同じ孤児院の子らならば気兼ねなく話せるのだが、やはり気の合う友達が欲しいと思う年頃なのだ。
成人式典が終わり解散ムードとなる中、魔法騎士の式典へと向かおうとするアルズに声をかける者がいた。
「よう、魔法騎士に受かった奴が他にいるとは思わなかったがお前も受かってるんだな」
アルズより少し背の高いその者は名を名乗った。
「俺はユスティシ=クルストゥール。お前は?」
「アルズ=ハイルアーイラと言います! よろしくお願いします!」
堅苦しい挨拶を返したアルズに、手を振り肩を叩いた。
「同期なんだ。気さくに話してくれた方が助かるよ」
そう言われて肩の力を抜いたアルズは尋ねた。
「これから式典だよね? フラワーナイトの」
フラワーナイトとは魔法騎士のこの国での総称である。二人はまだ騎馬を与えられてないため徒歩だが、式典会場に近づくに連れ騎馬に乗るナイトの姿がちらほらと目につくようになる。そうして広い式典会場に着くと、受付を済ませて中へと入っていった。
中に入るとアルズを呼び止める声が響いた。
「アルズ!久しぶりね!やっと会えたわ」
女性の声に振り向いて抱きついてくる抱擁をさらりとかわしたアルズは、転びかけた彼女の手を引き向き合った。
「もう! 相変わらず照れ屋なんだから!」
「人前で抱きつこうとされたら誰だって避けるよ!!」
恥ずかしがりながら言うアルズに、握手で済ます女性。その様子をマジマジと見ていたユスティシが説明を求めた。
「この人は、メイリー=ハイルアーイラ。僕の血の繋がっていない姉さんなんだ」
「ハイルアーイラと聞いてたからもしかしてと思ったが孤児院出身か」
ハイルアーイラ孤児院。
とある山の麓にあるその孤児院では、様々な事情で親を失った孤児たちが暮らしている。その孤児院で育ったのがアルズとメイリーだった。
メイリーは現在二十歳で、十八歳で剣技試験に合格するも魔法士資格取得に手こずり三度落ちている。四度目でなんとか資格を取り、フラワーナイトとしての採用試験にギリギリ合格していた。
アルズは十七歳で王国魔法騎士になるための魔法士資格を得てと剣技試験にも合格している。
「メイリーはもうフラワーナイトの採用試験に受かっているんだよね?」
「まだ正式な隊は決まってないけどね。どうせならアルズと同じ隊がいいわ」
「試験と言ってもほとんど才能を見るための儀式みたいなもんだろ? 書類審査で通ってるんだから受かったも同然だと思うけどな」
ユスティシはそう言いながらアルズとメイリーを見た。
「まぁこの出会いも運命だと思って同じ隊になれるといいな」
「あなたって寂しがり屋なの?」
「なんだと?!」
遠慮なく不躾に寂しがり屋なのかと問うメイリーに、顔を真っ赤にしながら言うユスティシ。
「ほらほら喧嘩してないで。僕とユスティシは採用試験あるんだから早く行こう」
アルズが急かすとユスティシは納得いかないようだったが諦めて会場奥へと入っていく。既に整列ができていて番号を元に列に並んでいく。
アルズはユスティシの前だった。やがて式典が始まり様々な説明がされる。王国魔法騎士としての実感をひしひしと感じたアルズ達は、案内に従って採用試験が行われる場所へと移動した。
そこにはアルズだけじゃなく誰もが憧れる隊長達が立っていた。中でもフラワーエースナイトであるラファール=ハルトヴォーリアの貫禄はとてつもなかった。
齢四十九歳とは思えない風格。二十年前に終結した戦争での活躍から英雄と呼ばれている彼の人気は高い。ラファールの隊に入るのは誰しもの願望であるのだ。アルズは気を引き締め直して試験に臨んだ。
試験は一対一で行われる模擬戦闘だった。アルズとユスティシは順当に勝ち残り、やがて彼らの対決が実現した。
剣技と魔法で戦う二人を見てラファールは顎に手を当てた。ユスティシは少々イラついているようだった。
「戦ってわかった! お前手加減してるだろう!」
「うっ! ユ、ユスティシ!」
アルズは明らかに手を抜いていた。ユスティシとの一戦では、攻めずに防戦一方だったからだ。
「本気を出せ! ついさっきできた友情くらいで揺らぐな! 俺は本気のお前に勝つ!」
「わかった……!」
アルズは心持ちを変え、目付きが変わった。見守っていたメイリーはゴクリと唾を飲んだ。
「久々に見るわね、本気のアルズ」
人はそれぞれ得意な魔法の属性を持ち、それ以外の属性を操れない。ユスティシは水が得意だった。アルズは風属性が得意。相性は二人とも悪くない。
だがアルズは違った。
「なっ!? 炎? そんな馬鹿な! だ、だけど俺には効かない!」
そう、それも炎だけじゃなかった。火、水、風、雷、闇、光。様々な魔法でユスティシを翻弄する。
「な、なんだ?! なんなんだ! お前!」
そして、その魔法は剣技にも影響する。対応しきれずユスティシは剣を手放した。
「降参する。参った」
その時パチパチと手を叩く音が聞こえた。ラファールが拍手をしていたのだ。
「アルズ君と言ったね。是非私とも手合わせ願いたい」
「ラ、ラファール様!」
「いいだろう? どのみち今ので彼らの合格は決まったようなものだ」
「ぜ、是非お手合わせ願います!」
アルズは勢いよく言った。握る剣にも力が入る。部下達のやれやれという仕草とは横目に、ラファールは模擬剣を手に取った。
アルズは最初から全力で行かなければ一瞬でやられるだろうと感じている。
「そう怖い顔しないで欲しい。これは模擬戦闘なのだから」
そう言われてもつい力が入る。エースナイトであるラファールの実力はどれくらいなのだろうか?
アルズは自分の実力でついていけるかと期待と不安で頭がおかしくなりそうになったが、ふぅーと深呼吸し自分の両頬を叩いた。
「お願いします!」
「ああ、よろしく」
アルズとラファールの模擬戦闘が始まる。まずは先手を取ったのはアルズだった。ラファールが風属性が適正なのは周知の事実。炎魔法で翻弄する。だが相性の悪い風属性のはずなのに、軽々と退けてみせるラファール。
アルズは風属性の魔法を纏い、雷のスピードで水のように正確に、火のように重い一撃を放った。
だがアルズの全力もラファールの一閃に押し負ける。それほどラファールの一撃は重かった。風属性でスピードを上げるだけでなく、筋力による重い一撃を放つラファールは動作に無駄がなかった。
そこでアルズは光魔法で目眩しをし一気に攻勢に出たが、目を瞑ったラファールは迷いなく一閃を放つ。
その一撃は重く怯みそうになる。だがアルズも負けていない。必死に食らいついていた。そして少しの拮抗状態の後、アルズの剣は弾かれて飛んでいった。
「ハァハァ……負けました」
「ふふふ、誇っていい。私とここまで渡り合える者はそう居ない」
パチパチと拍手の音が聞こえた。アルズとラファールの戦いを讃えるものだった。ラファールも拍手する。そして言った。
「どうだろう? 我が隊にこないか? これは推薦だがね」
「本当ですか! 嬉しいです!」
「ユスティシ君、君もどうだい?」
「お、俺も……? いいんですか?」
これに慌てたのはメイリーだった。
「あ、あの! わ、私もアルズと同じラファール様の隊がいいんですけど!」
「彼女は?」
ラファールはメイリーの試験結果を見せてもらう。前日に受けた彼女の結果からは相応しくないという判断がラファールの頭の中にあった。
「彼女も試してもらえませんか?」
アルズはラファールに、メイリーと模擬試合して貰えるよう頼んだ。それも条件付きで。その条件とはこうだ。
「魔法なしで戦ってみて欲しいんです」
それを聞いたラファールの隊の副隊長は舐められたものだなと感じていた。恐らく剣技に自信があるからなのだろうが、ラファールの剣技の腕前は当然魔法なしでもトップクラスである。
「いいだろう」
ラファールは申し出を受けた。メイリーは模擬剣を持ちラファールと対峙する。
「そちらからいつでもかかってきなさい」
ラファールはニコリと笑って剣を構えた。
「じゃあお言葉に甘えて」
メイリーは真っ直ぐに突き刺した。それは途轍もない速さの突きだった。だがラファール落ち着いて受ける。そこから目にも止まらぬ剣戟が始まった。
皆は呆気にとられていた。魔法を使っていないのにこれだけの剣戟が見られると思っていなかったからである。
素早く更に的確に体重を乗せた重いメイリーの剣戟はラファールにも通用していた。
「剣だけなら僕もメイリーには敵いません」
アルズは誇らしげに言う。メイリーの強さはアルズがよく分かっていた。無駄もなく美しい動きに誰もが魅了されていた。
ラファールは防戦一方になってくる。時間で言えばアルズが対峙した時より長く対戦していた。長い闘いの末勝ったのは、メイリーだった。
「ふむ、素晴らしい腕だ」
ラファールの剣が空を舞った。メイリーはガッツポーズをとった。
「信じられない」
副隊長は驚いた表情をしていた。
「魔法が上手く使えればもっと強くなれるんだと思います」
ラファールは、ふむと手を顎に当てて副隊長に言った。
「アルズ、ユスティシ、メイリーを我が隊に推薦する。異論はないな?」
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