第190話 会いづらい

 俺は結局母さん達の部屋に逃げてしまい、そのまま風呂を貸して貰った。


 そのままそこで眠ろうとしたのだが、流石に母さんが「男の子なんだから間違いの一つくらい起こしなさい! 和希は真面目過ぎるの!」と言われてしまったので自室の前へと戻ってきてみたのだが...。


「会いづらいな...」


 そう思いこむと余計な事まで考えてしまう。


(...やばい、なんて謝ろうか。いや謝る必要あるのか? いつも見たいな普通な感じで部屋に入ればいいだろう! ...本当に大丈夫か? あの結美だぞ? もしかしたら怒ってるかもしれない)


 大きく深呼吸をした後に俺は部屋に入った。


 入った瞬間にバッと振り返る結美。


「ごめんねカズ君!!! ちょっと先走っちゃったかもしれない! 許して!!!」


 本気の声で謝ってきたのでかなり困った。


「いや...俺の方こそ悪かったな。お前の気持ちは嬉しいんだけどさ。まだ俺たち高校生だし、まあそこは考えても付き合って行こうぜ」


「...うん」


 彼女は静かにそう呟くと、俺をベッドへと誘ってきた。


「えへへ...。カズ君と一緒に眠るの久しぶりだね♡」


「おっ? そうだな。あれはいつだったかな...」


「もう! 忘れちゃったの? 小学生の低学年の時だよ」


「ああ、確か俺の家で泊まりたいって結美が言い出したんだっけか」


「そうそう、あの日のお母様のコロッケの味はいまだに覚えているよ。美味しかったな...」


 そう言いながら俺の方に手を伸ばして抱き締めてくる結美。


「あっ、おい」


「えへへ♡ さっき逃げた罰で〜す♡ 今日一日だけでいいから私の抱き枕になってください♡」


 そう言いながら俺をぎゅっと抱きしめ続ける彼女。


「カズ君の匂い...。優しい匂い...」


 疲れが溜まっていたのか彼女はそのまま眠ってしまう。


「...全く。昔と同じこと言ってら」


 全く同じ言葉を聞いた俺は静かに笑いながら電気を消すのだった。



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